【兵庫】バー・メインモルト(神戸)
ハイカラの街、神戸に立ち寄りました。本当はバー巡りをする予定も無かったのですが、小1時間ほど時間が空いたので、迷わずこちらのお店に直行しました。「バー・メインモルト」。やはり神戸でウイスキー・バーといえばココでは無いでしょうか。 さて、店の前まで来て少し立ち止まりました。昇り階段の上を指す看板が表に出ています。前回に初めて来たときは地下に下りた記憶があったので、GoogleMapで検索するときに店の名前を間違ったかな?とも思ったのですが、アレコレ思案している時間も無かったので思い切って階段を上り、店の扉を開けました。最初は少し暗くて分かりにくかったのですが、店内をグルっと見て、店の感じに少し懐かしい感じがよみがえりました。店の入り口の方のカウンターに座りちょこっと座って、マスターのお顔を拝見して、またその後ろの棚にずらっと並んでいるアイリッシュの山を見て、「あ、ココだ!」と確信に変わりました。 経緯を伺ったところでは、数か月前くらいにこちらの店舗に移転をされたとのこと。出迎えてくれたアイリッシュは前回来たときはジェムソン軍団でしたが、今回はティーリングでした。アイリッシュがこれほどまでに揃っているウイスキーのバーは、自分は正直ここの他に知らないです。アイリッシュは銘柄もスコッチに比べるとかなり限られるので、棚に10本くらい見かけたら「多い方」ではないでしょうか?こちらでは、アイリッシュの一つの銘柄だけで優に10本以上はあります。マスターのアイリッシュ愛ゆえなんだろうと思います。 ところで、「アイリッシュは何ぞや?」という事について一応、簡単に話をしておきます。ウイスキーの生産地と言えば、今でこそ「スコットランド」のイメージが強いと思いますが、ずっと昔(18~19世紀ごろ)は「アイルランド」でした。「アイリッシュ」というのは、アイルランドで作られるウイスキーのことですが、製造方法などにも少しスコッチと違う特徴があります。例えば、原料にモルト(発芽乾燥させた大麦麦芽)だけでなく、未発芽のものを加えたり、乾燥にピートを焚かなかったり、蒸留を3回したり(スコッチは基本2回)等々。その結果どうなるか?という事なのですが、自分の感覚でいうと「まろやかで飲みごたえのあるウイスキー」になります。これはおおむね、アイリッシュであればどれも言えるのではないかなと思います。(*) *現在はピートを炊いたもの(⇒有名なもので「カネマラ」)や、製法はスコッチで原料をアイルランド産で作る蒸留所(⇒ウォーターフォード蒸留所)なども登場してきています。 お酒の質感も、なんとなくですが、スコッチを焼酎とすると、アイリッシュは日本酒(もしくは麦焼酎やコメ焼酎的なやさしい感じ)的な感じがします。とにかく、飲みやすい。ウイスキーなのにグビグビいけてしまいそうです。このマイルドで飲みやすさがとても魅力的なので、例えばウイスキー初めての方にはアイリッシュはとてもお勧めです。(ですがアルコール度数は40度以上であることを忘れてはいけません!(笑)) アイリッシュの銘柄についてですが、有名なもので二つ。「ジェムソン(JAMESON)」と「ブラックブッシュ(BLACKBUSH)」。両方ともブレンドウイスキーです。まろやなか口当たりが特徴で、この二つは割とどこのバーにも置いてある基本ラインアップの中になると思います。「ジェムソン」はアイルランド南部のコーク県にあるミドルトン(Midleton)蒸留所で作られておりポットスチル式とグレーンをブレンド。アイリッシュウイスキーで最も販売量の多い銘柄。「ブラックブッシュ」は北アイルランドのオールド・ブッシュミルズ蒸留所にて製造。特にアイルランドの伝統的な製法である「3回蒸留」で有名、「ブッシュミルズ10年」は3回蒸留で100%モルト使用のアイリッシュ・シングルモルトウイスキーとして有名です。その他、最近になって新しい蒸留所も次々と登場しています。ピートウイスキーのカネマラ(Connemara)等で知られるクーリー蒸留所(現在はビームサントリー社傘下)の他、キルべガン(Kilbeggan)蒸留所、ティーリング(Teeling)蒸留所などです。アイルランドの新興蒸留所の銘柄はなかなかお目にかかることが無い印象ですが、こちらのモルトバーでは有名どころでも蒸留年やウッドフィニッシュの違いなどによる様々なボトルや、新興蒸留所からリリースされた新たらしいウイスキーの多くが見事なほどに揃っています。 さて、アイリッシュについての教科書的な話はこれくらいにしておいて、バーに戻ります。時間も限られる中なのでパッと思いついたタラモアデューをソーダ割で頂いてから、棚やカウンターのボトルをじっくり観察。それにしても色々と置いてあります。最近出た国内のクラフト蒸留所、厚岸の「寒露」や、静岡ガイアフローの「プロローグK」なんかもさりげなくカウンターに置かれていると思えば、レッドブレストの21年やティーリングの29年なんていうボトルも!(いったいいくらするんだ!泣)せっかく神戸まで来たのにブレンドのハイボールで満足して帰る訳にはいかない、けど棚のボトルがいくらするのかも分からない、こういう時にどうするか?はい。こういう場合は、「素直にマスターに予算を伝えてアレンジしてもらう」が正解です。そんなワケで出てきたのが、ティーリングのシングルカスク。 ティーリングは2015年にアイルランドの首都ダブリンに125年ぶりに開設した新興蒸留所のひとつ。1985年にクーリー蒸留所を立ち上げたジョン・ティーリングが、2012年に蒸留所を当時のビーム社(現ビーム・サントリー社)に売却、その時得た資金を元手に立ち上げたとそうです。ボトルには2015年蒸留の2020年瓶詰とありますから、本当に直近のリリース品という訳。熟成はバーボン樽だったかと思いますが、アイリッシュらしいまろやかな味わいの中に、熟成した果物や香辛料的なピリッとした感じもします。5年という熟成期間の割には味わいに奥行きがあります。余韻も優しく飲みごたえ最高です。さすがの一品に大満足。 こうした落ち着いて飲めるバーに来て毎度感じることですが、その場の雰囲気に浸っているだけでもワクワク感があります。隣の席では(ウイスキーの)業界関係者らしき方がお二人、マスターとなにやらボソボソ話をしています。奥の席に座った会社帰りと思しき背広組の3方は仲間内で棚のボトルを見ながら談義しています。ウイスキーのバーは本当に宇宙です。ココに来れば、ただのウイスキー好きのみならず、業界の関係者や本物のコレクターなど様々な方が集結してきます。ウイスキーは趣向品なので、やはり来る人もそれなりの構えの方が多い気がしますし、オーセンティク系のバーであればお店の方も来られる客に応じてきっちりとした品ぞろえと対応で迎えてくれます。こうした循環で、お店の雰囲気が醸成されていくような感じです。こちらのような古い名門バーであれば、お店に入った時に何かやはり独特のオーラのようなものも感じます。少しばかりのチャージ料を払えばそこに出入りできて、その素敵な空間を共に楽しむことが出来る。更には棚に置かれている貴重なウイスキーをいただけるという訳なので、よくよく考えてみると、こんな嬉しいことは無いのかなと思います。今回は時間も無くバタバタでしたが、次回はゆっくりと来たいですね。時間と心にも余裕があってこそ、十分に味わえるものでもあるのですから。 ACCESS:(神戸)三宮駅を山側に出て徒歩5分くらいです。