【記事】「テロワール」を求めて
ウイスキー作りにおいて、「テロワール」の価値観が見直されている。「テロワール」というのは簡単に言うと、その土地の「風土」みたいなもので、フランス語の「terre(土地)」から派生したと言葉。良く知られているのはワイン作りにおける「テロワール」で、ブドウが栽培される土地の場所、土壌、気候などの自然環境の違いに起因する味わいの違いで、隣同士の畑で同じブドウを育てても、「テロワール」の違いから全く異なる味わいのワインが出来上がることもあるそう。 お酒の原料となる材料(ワインの場合はブドウ)が比較的大きな役割を果たす醸造酒に対して、それをさらに蒸留してアルコール分を抽出したウイスキーなどの蒸留酒は、原料の役割というものはそれほど大きく取り上げられることは無かったように思う。ウイスキーの場合、原料は「大麦」「水」「酵母」の3つであるが、アルコールを作る元となる糖分を得る「大麦」について、その味わいが最終製品であるウイスキーにどのような影響を与えるか?というのは、あまり考えられてこなかった。それよりは、実際の味わいを決定づける要素は長期間熟成する際に使用する「樽」の特徴や組み合わせなどであり、加えて「発酵」や「蒸留」などの工程で得られるアルコールの性質の違いなどが、ウイスキーの味わいの根幹を作るものだというのが一般的な考え方のように思う。 また、もし「テロワール」という要素がウイスキー作りにあるとするならば、それは蒸留所の立地する場所の風土であり、特に、熟成する際の貯蔵庫がある「場所」が周囲の環境から与えられる影響の方かもしれない。例えば、海に面した貯蔵庫で保管されるウイスキーであれば、熟成期間中に潮気が中身に吸収される、というようなことである。 ところが、最近になって新しく出来たスコッチウイスキーの蒸留所の中で、ウイスキー作りのベースとなる「大麦」の役割を改めて見直そうという動きが出てきている。その動きがどのようなものかについて、次の3つのトピックを中心に少しご紹介したい。 ・FIELD TO BOTTLE (畑の味をボトルに) at Waterford スコットランド・アイラ島で閉鎖されていたブルックラディ蒸留所を見事に復活させたマーク・レイニア氏が、アイルランドで新たに立ち上げたスコッチウイスキーの蒸留所「ウォーターフォード」。レイニア氏が新たな挑戦の場としてアイルランドを選んだ理由として、ブルックラディ時代に同蒸留所で長年に製造現場で勤務したダンカン・マクギリブレイ氏から、彼の見た最高の大麦がアイルランド産であったことだと語っている。その彼がギネスのビール工場を改装して作り上げたウォーターフォードが追及するのが「農場」のテロワール。すなわち、ワイン作りにおいて隣同士の農園のブドウで味が違うのと同じように、ウイスキー作りにおいても「畑」の違いを表現するという「試み」だ。(もちろん、これを「試み」というのは、一般的にウイスキーの世界では、畑の違いを最終製品のボトルに落とし込むということは不可能だと考えられているからに他ならない) ・SINGLE MALT IN U.S.A. (シングルモルトを、アメリカで) at…