Month: December 2020

【記事】「テロワール」を求めて

ウイスキー作りにおいて、「テロワール」の価値観が見直されている。「テロワール」というのは簡単に言うと、その土地の「風土」みたいなもので、フランス語の「terre(土地)」から派生したと言葉。良く知られているのはワイン作りにおける「テロワール」で、ブドウが栽培される土地の場所、土壌、気候などの自然環境の違いに起因する味わいの違いで、隣同士の畑で同じブドウを育てても、「テロワール」の違いから全く異なる味わいのワインが出来上がることもあるそう。 お酒の原料となる材料(ワインの場合はブドウ)が比較的大きな役割を果たす醸造酒に対して、それをさらに蒸留してアルコール分を抽出したウイスキーなどの蒸留酒は、原料の役割というものはそれほど大きく取り上げられることは無かったように思う。ウイスキーの場合、原料は「大麦」「水」「酵母」の3つであるが、アルコールを作る元となる糖分を得る「大麦」について、その味わいが最終製品であるウイスキーにどのような影響を与えるか?というのは、あまり考えられてこなかった。それよりは、実際の味わいを決定づける要素は長期間熟成する際に使用する「樽」の特徴や組み合わせなどであり、加えて「発酵」や「蒸留」などの工程で得られるアルコールの性質の違いなどが、ウイスキーの味わいの根幹を作るものだというのが一般的な考え方のように思う。 また、もし「テロワール」という要素がウイスキー作りにあるとするならば、それは蒸留所の立地する場所の風土であり、特に、熟成する際の貯蔵庫がある「場所」が周囲の環境から与えられる影響の方かもしれない。例えば、海に面した貯蔵庫で保管されるウイスキーであれば、熟成期間中に潮気が中身に吸収される、というようなことである。 ところが、最近になって新しく出来たスコッチウイスキーの蒸留所の中で、ウイスキー作りのベースとなる「大麦」の役割を改めて見直そうという動きが出てきている。その動きがどのようなものかについて、次の3つのトピックを中心に少しご紹介したい。 ・FIELD TO BOTTLE (畑の味をボトルに) at Waterford スコットランド・アイラ島で閉鎖されていたブルックラディ蒸留所を見事に復活させたマーク・レイニア氏が、アイルランドで新たに立ち上げたスコッチウイスキーの蒸留所「ウォーターフォード」。レイニア氏が新たな挑戦の場としてアイルランドを選んだ理由として、ブルックラディ時代に同蒸留所で長年に製造現場で勤務したダンカン・マクギリブレイ氏から、彼の見た最高の大麦がアイルランド産であったことだと語っている。その彼がギネスのビール工場を改装して作り上げたウォーターフォードが追及するのが「農場」のテロワール。すなわち、ワイン作りにおいて隣同士の農園のブドウで味が違うのと同じように、ウイスキー作りにおいても「畑」の違いを表現するという「試み」だ。(もちろん、これを「試み」というのは、一般的にウイスキーの世界では、畑の違いを最終製品のボトルに落とし込むということは不可能だと考えられているからに他ならない) ・SINGLE MALT IN U.S.A. (シングルモルトを、アメリカで) at Westland バーボンのアメリカでシングルモルトウイスキーに挑戦する、西海岸のウエストランド蒸留所。シングルモルトの本場であるスコットランドから遠く離れたこの地で、「パシフィック・ノースウエスト」(PACIFIC NORTHWEST)のテロワールを前面に押し出したウイスキー作りを目指している。創業したマット・ホフマン氏の語るところでは、土地の風土や自然環境だけにとどまらず、起業家精神溢れる米西海岸の文化的な価値も織り交ぜることで、ウイスキー作りにも革新をもたらそうとしている。それは地元のワシントン州の「大麦」を使う事だけにとどまらない。地元産のピートや、ギャリアナオークという稀少なオーク材を活用した熟成樽の活用など、シングルモルトの作り方を忠実に再現しながらも地元の資源を最大限に活かすことで自分たちの個性を表現しようとしている。蒸留所の各工程で使う工程にも、地元で有名なクラフトビールの機器類を参考にしたものも取り入れており、スコットランドの蒸留所とは様相を異にする。蒸留所の立地と周辺環境で得られるものを取り入れて、その地に根差す「テロワール」を探求している。 ・ROOT IN COMMUNITUY (コミュニティに根差して)at Bruichladdich 「コミュニティ」の大切さを語るのはブルックラディの若き製造責任者アラン・ローガン氏。同蒸留所はウイスキーの本場スコットランドのアイラ島にあるクラフトディスティラリーだ。この小さな辺境の島は、独特なピートの香りとスモークな味わいで有名なウイスキーを作る老舗の蒸留所が数多くあることで知られる。2001年にブルックラディが復活した時に、ローガン氏は蒸溜所で見習いとして働き始め、ジム・マッキュアン氏やダンカン・マクギリブレイ氏という業界の大ベテランの薫陶を受けた。彼の父はラフロイグで働いており、祖父や叔父といった他の家族も皆が蒸留所に関係する仕事をする中で生まれ育った生粋のアイラっ子だ。彼が大切だと説くのは蒸留所の、そのコミュニティにおける存在意義である。ブルックラディも原料のテロワールを重視する蒸留所として知られるが、その意義は良いウイスキーを作るというだけにとどまらない。テロワール・ウイスキーを島で作ることで、蒸留所が雇用を生むだけでなく、原料を提供する農家はウイスキーを作るための大麦を作る仕事を得るし、ボトリングしたウイスキーを運ぶ必要もでてくるなど経済的な効果が立地するコミュニティに波及する。合理化を進めて利潤を目指す考え方もあるが、彼は否定的だ。あくまで立地するコミュニティとの共存共栄をベースに考え、その土地で将来にわたってビジネスが持続可能なように計画を練るのだという。 このように彼らは別々の場所においてそれぞれのアプローチで自らが運営に携わる蒸留所のテロワールを追及している。その意義は深い。それは単に美味しいウイスキーを作るということにはとどまらない。原料の大麦が育つ「畑」や、周辺環境、さらには蒸留所が立地するコミュニティとの共存など、その土地(や人)との対話や関係作りを構築することでウイスキー作りの新たな境地を開こうとしているのだ。このような取り組みは上に紹介した蒸留所だけにとどまらない。現在、スコットランドだけではなく世界的に広がりを見せているモルトウイスキーの現場では、各地でこうしたその地の「テロワール」探しが進化を遂げている。もしこうした蒸留所のウイスキーに出会える機会があるならば、グラスの中に注がれた液体の中に、そのテロワールを感じてほしい。 画像クリックでトップページに戻ります。

【兵庫】バー・メインモルト(神戸)

ハイカラの街、神戸に立ち寄りました。本当はバー巡りをする予定も無かったのですが、小1時間ほど時間が空いたので、迷わずこちらのお店に直行しました。「バー・メインモルト」。やはり神戸でウイスキー・バーといえばココでは無いでしょうか。 さて、店の前まで来て少し立ち止まりました。昇り階段の上を指す看板が表に出ています。前回に初めて来たときは地下に下りた記憶があったので、GoogleMapで検索するときに店の名前を間違ったかな?とも思ったのですが、アレコレ思案している時間も無かったので思い切って階段を上り、店の扉を開けました。最初は少し暗くて分かりにくかったのですが、店内をグルっと見て、店の感じに少し懐かしい感じがよみがえりました。店の入り口の方のカウンターに座りちょこっと座って、マスターのお顔を拝見して、またその後ろの棚にずらっと並んでいるアイリッシュの山を見て、「あ、ココだ!」と確信に変わりました。 経緯を伺ったところでは、数か月前くらいにこちらの店舗に移転をされたとのこと。出迎えてくれたアイリッシュは前回来たときはジェムソン軍団でしたが、今回はティーリングでした。アイリッシュがこれほどまでに揃っているウイスキーのバーは、自分は正直ここの他に知らないです。アイリッシュは銘柄もスコッチに比べるとかなり限られるので、棚に10本くらい見かけたら「多い方」ではないでしょうか?こちらでは、アイリッシュの一つの銘柄だけで優に10本以上はあります。マスターのアイリッシュ愛ゆえなんだろうと思います。 ところで、「アイリッシュは何ぞや?」という事について一応、簡単に話をしておきます。ウイスキーの生産地と言えば、今でこそ「スコットランド」のイメージが強いと思いますが、ずっと昔(18~19世紀ごろ)は「アイルランド」でした。「アイリッシュ」というのは、アイルランドで作られるウイスキーのことですが、製造方法などにも少しスコッチと違う特徴があります。例えば、原料にモルト(発芽乾燥させた大麦麦芽)だけでなく、未発芽のものを加えたり、乾燥にピートを焚かなかったり、蒸留を3回したり(スコッチは基本2回)等々。その結果どうなるか?という事なのですが、自分の感覚でいうと「まろやかで飲みごたえのあるウイスキー」になります。これはおおむね、アイリッシュであればどれも言えるのではないかなと思います。(*) *現在はピートを炊いたもの(⇒有名なもので「カネマラ」)や、製法はスコッチで原料をアイルランド産で作る蒸留所(⇒ウォーターフォード蒸留所)なども登場してきています。 お酒の質感も、なんとなくですが、スコッチを焼酎とすると、アイリッシュは日本酒(もしくは麦焼酎やコメ焼酎的なやさしい感じ)的な感じがします。とにかく、飲みやすい。ウイスキーなのにグビグビいけてしまいそうです。このマイルドで飲みやすさがとても魅力的なので、例えばウイスキー初めての方にはアイリッシュはとてもお勧めです。(ですがアルコール度数は40度以上であることを忘れてはいけません!(笑)) アイリッシュの銘柄についてですが、有名なもので二つ。「ジェムソン(JAMESON)」と「ブラックブッシュ(BLACKBUSH)」。両方ともブレンドウイスキーです。まろやなか口当たりが特徴で、この二つは割とどこのバーにも置いてある基本ラインアップの中になると思います。「ジェムソン」はアイルランド南部のコーク県にあるミドルトン(Midleton)蒸留所で作られておりポットスチル式とグレーンをブレンド。アイリッシュウイスキーで最も販売量の多い銘柄。「ブラックブッシュ」は北アイルランドのオールド・ブッシュミルズ蒸留所にて製造。特にアイルランドの伝統的な製法である「3回蒸留」で有名、「ブッシュミルズ10年」は3回蒸留で100%モルト使用のアイリッシュ・シングルモルトウイスキーとして有名です。その他、最近になって新しい蒸留所も次々と登場しています。ピートウイスキーのカネマラ(Connemara)等で知られるクーリー蒸留所(現在はビームサントリー社傘下)の他、キルべガン(Kilbeggan)蒸留所、ティーリング(Teeling)蒸留所などです。アイルランドの新興蒸留所の銘柄はなかなかお目にかかることが無い印象ですが、こちらのモルトバーでは有名どころでも蒸留年やウッドフィニッシュの違いなどによる様々なボトルや、新興蒸留所からリリースされた新たらしいウイスキーの多くが見事なほどに揃っています。 さて、アイリッシュについての教科書的な話はこれくらいにしておいて、バーに戻ります。時間も限られる中なのでパッと思いついたタラモアデューをソーダ割で頂いてから、棚やカウンターのボトルをじっくり観察。それにしても色々と置いてあります。最近出た国内のクラフト蒸留所、厚岸の「寒露」や、静岡ガイアフローの「プロローグK」なんかもさりげなくカウンターに置かれていると思えば、レッドブレストの21年やティーリングの29年なんていうボトルも!(いったいいくらするんだ!泣)せっかく神戸まで来たのにブレンドのハイボールで満足して帰る訳にはいかない、けど棚のボトルがいくらするのかも分からない、こういう時にどうするか?はい。こういう場合は、「素直にマスターに予算を伝えてアレンジしてもらう」が正解です。そんなワケで出てきたのが、ティーリングのシングルカスク。 ティーリングは2015年にアイルランドの首都ダブリンに125年ぶりに開設した新興蒸留所のひとつ。1985年にクーリー蒸留所を立ち上げたジョン・ティーリングが、2012年に蒸留所を当時のビーム社(現ビーム・サントリー社)に売却、その時得た資金を元手に立ち上げたとそうです。ボトルには2015年蒸留の2020年瓶詰とありますから、本当に直近のリリース品という訳。熟成はバーボン樽だったかと思いますが、アイリッシュらしいまろやかな味わいの中に、熟成した果物や香辛料的なピリッとした感じもします。5年という熟成期間の割には味わいに奥行きがあります。余韻も優しく飲みごたえ最高です。さすがの一品に大満足。 こうした落ち着いて飲めるバーに来て毎度感じることですが、その場の雰囲気に浸っているだけでもワクワク感があります。隣の席では(ウイスキーの)業界関係者らしき方がお二人、マスターとなにやらボソボソ話をしています。奥の席に座った会社帰りと思しき背広組の3方は仲間内で棚のボトルを見ながら談義しています。ウイスキーのバーは本当に宇宙です。ココに来れば、ただのウイスキー好きのみならず、業界の関係者や本物のコレクターなど様々な方が集結してきます。ウイスキーは趣向品なので、やはり来る人もそれなりの構えの方が多い気がしますし、オーセンティク系のバーであればお店の方も来られる客に応じてきっちりとした品ぞろえと対応で迎えてくれます。こうした循環で、お店の雰囲気が醸成されていくような感じです。こちらのような古い名門バーであれば、お店に入った時に何かやはり独特のオーラのようなものも感じます。少しばかりのチャージ料を払えばそこに出入りできて、その素敵な空間を共に楽しむことが出来る。更には棚に置かれている貴重なウイスキーをいただけるという訳なので、よくよく考えてみると、こんな嬉しいことは無いのかなと思います。今回は時間も無くバタバタでしたが、次回はゆっくりと来たいですね。時間と心にも余裕があってこそ、十分に味わえるものでもあるのですから。 ACCESS:(神戸)三宮駅を山側に出て徒歩5分くらいです。

【山梨】BAR LIBERTA(大月)

アメリカンクラシックな感じ 山梨県というのは都心から近くにありながらも、あまり訪問する機会がないんですよね。ところが、今回たまたま富士吉田に用事があったため、電車と車を使い久々にお邪魔しました。やっぱりこの季節なので、日が暮れると都心に比べて冬が近い感じ。今回、途中下車したのが中央線の大月駅。(この駅は何度も特急で通り過ぎてますが、下車するのは初)。来てみて改めて思ったのですが、特急だと早いんですね。八王子から30分、新宿から1時間ちょい。特急なら通勤圏でもいけそうですね。 とはいっても、大月市の人口は2万人弱。特急も半分は通過するので、そこまで人の往来がある感じでもありません。電車も特急含めて1時間に4・5本的な感じです。駅を降りると昔の街道らしき旧道が走っていています。居酒屋さんで「ほうとう」食べて腹ごしらえした後に、探索していると今宵のお店を発見しました。(まだ、開店準備中でマスターさんをバタバタさせてしまいました。すみません!) オシャレなグラス。スワリングに失敗しないw 席について棚のラインアップをざっと見た感じは普通のバーという感じでした。ところがここのバーは少しタダモノではないことが徐々に明らかになっていきます。バーは開店してから5、6年くらいだそうです。少し近辺を散策した感じから、やはり(街に)元気が無いんですかね~、というような話をしていたら、最近になっていくつかお酒に特化したお店ができているんですよ!とのこと。山梨は地元の甲州ワインが有名ではありますが、日本酒や焼酎に特化した居酒屋さんとかもあるそうです。やはり訪問した時間が早すぎたのかな?なんてことを思いながら、とりあえずピリッとするためにラフロイグ(セレクト)を注文。ドライなスモーキーさを味わいながら、ど真ん中に鎮座していたマッカラン(12年)へ。都内だとちょっと引け目が出て頼むことが億劫なのですが、ワンショット1000円でした。ありがたや。やはり味はさすがです。スペイサイドのメジャー所のラインアップでいくと、やはり一つ抜けてる感ありますね。 色々と話を伺いながら楽しんでましたが、どうもマスターさんはコレクターでもあるようです。都心にも買い付けに行かれたり、あと、すごいと思ったのはオールドボトルも収集されているようなのです。オールドボトルって通常は店とかで買えるものでは無いので、一般の人が簡単に手を出せるものではないと思います。やはり何らかのコネクションなりが無いと、入手するのは難しい。でも、お店に置いてあるものを「頼む」ことはできる!ってな訳で、この怪しげなタラモアをワンショット頼んでみました。(因みに価格も凄く良心的でした。もちろん、事前に確認しました。汗) 一口含んだ感想ですが、正直自分の知っているタラモアではすでにないです。強いて言うならカナディアンのライウイスキーを熟成しちゃった感じ。スコッチでこんな味は初めてです。(この瓶の残り分だけってこと考えると、また行きたい!って帰り道にずっと反芻しました) 最後のシメはボウモアのナンバーワン。この「ナンバーワン」というのは、ボウモア蒸留所の最古の貯蔵庫「第一貯蔵庫」(Vault No.1)が由来。建屋が海抜0m以下にあることでも有名ですが、アイラ3姉妹に比べてそこまで磯の香があるというワケでもなく、アイラモルトの中でボウモアはマイルドな位置づけ。その中で、ナンバーワンはしっかりと味がまとまっている印象です。マスターから、これをシメにするならタラモアのオールドにしておけばよかったですね!と言われたのですが、そこでハッとしました。そういえば(というのも失礼ですが!)山梨と言えばサントリー白州でした!お店にもちゃんとおいてありましたが、白州の地元でも入手困難だそうで、たまに白州工場の方がこられると「何とかしてくださいよ~」ってお願いしてるそうです。いや、これは本当に地元の貴重な「資源」だと思うし、ぜひとも地元の方にその魅力が広まると良いなと思います。笑

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