モルトウイスキーイヤーブック2023年版をしっかり読んでみる(1)

モルトウイスキーイヤーブック2023年版をしっかり読んでみる(1)

モルトウイスキーのイヤーブック、その名も「Whisky Yearbook」。毎年、スコッチウイスキーに関する新たな情報がまとめてアップデートされており、最近の動向や注目の人、最新ニュースや背後のストーリーなどが細かく紹介されています。スコッチウイスキーの蒸留所はほぼ網羅して紹介されていて、スコットランドの主要な蒸留所は1ページを使って丁寧にその特徴や歴史、ブランドが写真付きで紹介されています。またその他の蒸留所についても新興蒸留所から世界各国のモルトウイスキーの蒸留所について幅広く紹介されています。そのほか、スコッチウイスキー業界の動向であったり、作り手の話であったりマーケットの情報などが簡潔にまとめてられていて、今年の趨勢を見極めるには最高の本だといえます。このスコッチウイスキーの楽しみ方ブログでは、昨年に初めてこの本をアマゾンで購入して記事を書いたのですが、1回限りの紹介で終わってしまいました。今年はもう少し掘り下げていきたいと思いますので、よろしくお願いします。(因みにページヒット数が最高記録をしたことでもうれしい記憶となっています。ありがとうございます。)このホームページで扱っている蒸留所の紹介記事についてはこちらのアップデート情報をもとにグーグルで検索をして調べています。このイヤーブックから受けている影響はかなり大きいです、感謝しかありません。日本語版とかもでれば良いと思うのですが、いまのところ自分が知る限りはこの英語版のみです。アマゾンでも頼めば普通に購入できるので、興味があれば一度手に取ってみてほしいです。値段も3,000円くらいなので、内容を考慮するならかなりお買い得かと思います。とにかく情報量が半端無いです。https://www.amazon.co.jp/Malt-Whisky-Yearbook-Ingvar-Ronde/dp/0957655398まずウイスキー業界の英仏二強を紹介します。あまり表立ってこれらの会社の名前が出てくることはないですが、イギリスの「ディアジオ(DIAGEO)」社とフランスの「ペルノリカール(PERNOD RICARD」社です。どちらもウイスキー以外に様々なアルコールブランドをグローバルに展開しており、ディアジオ社傘下のブランドとしてはスコッチならジョニーウォーカー、バーボンのハーパー、他にビールのギネス、ウォッカのスミノフ、ジンのタンカレーなどを保有しています。ペルノリカー社はフランスの老舗スピリッツメーカ2社が合併して誕生したのですが、それ以後各地のブランドを取り入れて成長してきました。アイリッシュのジェムソン、ラムのハバナクラブ、スコッチではシーバスブラザーズ社を傘下にして多数のブランドを保有しています。この2社が保有する銘柄をまずは以下に列挙していきます。(個人的な主観で、スーパーのリカーコーナーでも比較的良く見かけるかなというブランドは特に太文字にしています。特に理由も根拠もありませんm(__)m) DAIGEO- オフロイスクベンリネスブレアアソールブローラカリラカーデュークライヌリシュクラガンモアダルユーインダルウィニーダフタウングレンデュラングレンエルギングレンキンチーグレンロッシーグレンオルドグレンスペイインチガワーノッカンドゥーラガブーリンリンクウッドマノックモアモートラックオーバンローズアイルロイヤルロッホナガーストラスミルタリスカーティーニニック PERNOD RICARD- アベラワーアルタベーンブレイヴァルダルムナックグレンバーギーグレンキースグレンリベットグレントファースロングモーンミルトンダフスキャパストラスアイラこれだけのブランドを保有していることの特徴として、一つ挙げるとするならより良いスコッチを作るための戦略といえるかもしれません。シングルモルトに特化するだけであれば、これだけのブランドを傘下に持つ必要もありませんが、安定した品質のブレンドスコッチを世界規模のマーケットに大量に作ることを考えるなら、そのレシピの元となるブランドと供給キャパを確保することは至上命題になることは容易に想像がつきます。下の写真はとあるスーパーのリカーコーナーですが、下段にスコッチブレンドが並んでいます。ブレンドの方が、モルトよりもお手頃な価格で購入できるので、数量的には圧倒的にブレンドウイスキーを身近に見かけることが多いかと思うのですが、高級スーパー、酒屋さん、スピリッツなどの専門店とグレードが上がっていくにつれてその重心は大衆向けブレンドから、シングルモルト、更にはボトラーズなど高価なものになっていくイメージです。さて、その中でブレンドスコッチの有名銘柄として「ジョニーウォーカー」や「ホワイトホース」はディアジオ社、「シーバスリーガル」はペルノリカール社のブランドです。他にも、「ティーチャーズ」はビーム・サントリー社、「デュワーズ」はジョン・デュワー&サンズ社のブレンドウイスキーになります。 スーパープレッセのリカーコーナーに並ぶスコッチウイスキー さて、ここからは先に紹介した二大巨頭ほどのブランドを保有していないもの、複数のブランドを傘下に収めている企業となります。まずはブレンドウイスキーで名前の挙がった、ビーム・サントリー社と、ジョン・デュワー&サンズ社を手掛かりに紹介していきたいと思います。まずはビーム・サントリー社です。ビームはジムビームで知られるアメリカのバーボンメーカですが、サントリーが2014年にこれを買収したことでサントリーの子会社となりました。この傘下のブランドでもっとも有名なのはなんといってもアイラモルトのラフロイグでしょう。もとを遡ればラフロイグが今は亡きアライドドメク社(英)がフランスのペルノリカール社に買収され(2005年)、その結果傘下にあったブランドがアメリカのフォーチュンブランドや、先のディアジオ社などに分散してしまったことに端を発します。ララフロイグはジムビームなどを擁する米フォーチュンブランドの傘下になったのですが、それがサントリー社に買収されたことで、現在に至ります。他にもアードモア、ローランドのオーヘントシャン、ボウモア、グレンギリーがあります。次にジョン・デュワー&サンズ社です。調べてみたのですが、実はラムなどで知られるバカルディ社の傘下のようです。バカルディは他にもスコッチブレンドのデュワーズや日本ではほとんど出回っていないですが同じくブレンドのウィリアム・ローソンや、アイリッシュのティーリング、イタリアのスパークリングワイン、マティーニなどのブランドを有しています。スコッチの蒸留所としては、アバフェルディ、アルトモア、クレイゲラヒ、グレンデベロン(マクダフ)、ロイヤルブラックラが傘下にあります。さて、先のペルノリカール社や、ビームサントリー社、バカルディ社のように本場スコットランドではない資本が実はたくさんあるスコッチ業界。ディアジオも元はグランドメトロポリタンとギネスが合併したもので、スコットランドというようりはイングランドとアイルランドの連合のようなもの。こうして考えると酒造りとしてのスコッチはスコットランドの領土内で今も盛んにおこなわれているものの、その運営資本は外部から集めているという構造です。ある意味、伝統的な産業でありながらすごく国際化が進んでいるというか、日本の日本酒とかとは表向き似たような様相であっても実はすごくグローバルな国際的商品としての顔をもっているとも言えそうです。外資系企業の傘下になったブランドを挙げていきましょう。まずはタイビバレッジ傘下になったインバーハウス社のブランド群です。ハイランドのプルトニーを筆頭に、バルブレア、バルメナック、ノックドゥー、スぺイバーンがあります。ダルモアなどで知られるホワイト・マッカイはフィリピンのエンペラドール社の傘下になっています。ダルモアの他に、フェッターケイン、ジュラ、タムナブーリンがあります。南アフリカの飲料大手ディスティル社は、ブナハーブン、ディーンストン、トバモリーを保有。バーボンの国アメリカでオールドフォレスターやジャックダニエル、ウッドフォードリザーブなどで知られる巨大資本ブラウンフォーマン社の傘下にあるスコッチとして、ベンリアック社の傘下にあるベンリアック、グレンドロナック、グレングラッソーがあります。更にはロッホローモンドやグレンスコシアを有するロッホローモンドグループは中華系の投資会社ヒルハウス・キャピタル・マネジメント社によって2019年に買収され、その傘下にあります。他にもルイヴィトンで知られる世界的コングロマリットであるLVMH(モエヘネシー・ルイヴィトン)社は傘下に多数のアルコールブランドを抱えており、その中にグレンモーレンジ社のスコッチブランド、グレンモーレンジとアードベッグがあります。さて外資の傘下にあるスコッチモルトウイスキーのブランド名を続々と書き連ねてきましたが、ここからはようやくスコッチ資本によるスコッチウイスキーになります。まずはエドリントングループ。スコッチのロールスロイスとも呼ばれるマッカランを擁します。他に、グレンロセスやハイランドパーク、ブレンドのフェイマスグラウスなどがあります。家族経営の伝統を有する蒸留所は非常に少なくなりましたが、今でも生き残っているところがあります。もっとも有名なものとしてはウィリアムグラント&サンズでしょう。スコッチのシングルモルトで販売量のトップをグレンリベットと争うグレンフィディクが有名です。他に、アイルサベイ、バルベニー、キニンヴィーを有します。今では昔の勢いを失いましたが、キャンベルタウンのJ&Aミッチェルとスプリングバンクもあまりにも有名です。スプリングバンクの他に、キルケランのブランドで知られるグレンガイル蒸留所があります。家族経営で言えば、グラント家のグレンファークラスも有名です。他にもボトラーズの傘下にある蒸留所としては、エドラダワー(シグナトリー社)、ベンロマック(ゴードン・マックファイル社)、アードナホー(ハンターレイン社)、ストラスアーン(ダグラスレーン社)といったところでしょうか。他にクラフトディスティラリーとして、いくつかこのホームページで個別に紹介している蒸留所があります。メニューのDistillery(ディスティラリー)からプルダウンで見ることができますので、そちらで確認して頂ければと思います。