またやって来ました。用事があるのはいつも対岸の岡山なのですが、最近はこの高松がマイブームなのです。なぜなのか?なんとなく都会からきっぱりと「離れた」気持ちになれる、からでしょうか。新幹線が通っているところは、駅に「東京行き」とか「大阪行き」とか視界に入ってきます。その瞬間に現実がまた戻ってくる感覚になります。また、新幹線という大動脈があると、人の流れも当然にあります。駅近くで飲んでいると、隣に座っている人と出身が同じってことも結構ザラにあります。「高松」という都市は、比較的容易にその動脈から「脱線」できて、でもそこまで田舎風ということでもなく、バー巡りを楽しめる繁華街もあります。なので、本当に最近は一押しの場所です。
その玄関口となるのがJR四国の高松駅。今では数少ない「ターミナル駅」(終着駅)です。関西で言うと阪急の梅田、東京だと昔の東急渋谷的な感じでしょうか。要は線路がそこで終わるところ、そしてまた、これを始点として同じ四国内の徳島や松山、さらには瀬戸大橋を渡った岡山に行く電車の始発駅となります。(夜にはサンライズ瀬戸という夜行列車が1便東京に向けて出ています。鉄道ファンには人気の列車です。)さて、駅を降りると大きな広場があり、近未来的というかモダンな建物群が目の前に展開します。ちょっとした飲み屋街も右手にあります。ここで注意したいのは、この界隈が高松の中心ではないことです。繁華街は「古馬場町(ふるばばちょう)」と言いまして、駅から南東の方角にあります。空港からのバスや琴電というローカル電車でいうと「瓦町」という駅を降りた正面に広がります。アーケード街が縦横に走り、その隙間の横道に飲食店などが立ち並びます。規模は大きくありませんが、小さく密集しているので、街歩きには非常に都合の良い大きさです。
今回お邪魔した「A’s(エース)」さんは、その瓦町のバスターミナルから歩いて数分の場所。夕方に高松に着いたのですが、日帰りの予定であったので長居ができませんでした。まだお店はどこも開店前のような感じでどこも営業しておらず、困り果ててアーケードの酒屋さんに立ち寄り、ダメ元でどこか早く開けているお店(バー)をご存知ないか伺ったところご紹介頂いたのが今回のエースさんになります。(買い物もせずご親切にありがとうございます!)丁度酒屋さんからも近く、お店は階段を上がった2階にあり、カジュアルとオーセンチックの間くらいの感じでした。でもカウンターの中の方は皆正装で落ち着いた雰囲気、接客も非常に丁寧、お値段もとてもリーズナブルでハーフ(ショット)のオーダーもOKでした。品揃え的には、ウイスキー、バーボン、ラム、ジンなどオールラウンドに揃えていて、お目当てのスコッチウイスキーについては棚に出ていないモノもあるとのこと。とりあえず、キルホーマンのマキヤベイを頼んで、寛ぎます。お伺いした際には、男性二名女性一名で切り盛りされていて、お客さんにマンツーマンで接客するようなスタイルでした。毎回思うのですが、地方のバーテンダーの方は接客に対する流儀がしっかりしているなと感心します。都会は人が多いので色んな客層の人もいて、サービスも各種各様といった感じですが、地方都市のバーは「それなりの人が来る場所」という感じがします。
いつもはスコッチウイスキーを中心に攻めるのですが、今回はカウンターに座った目の前にあったラム酒に興味が惹かれ、また接客して頂いたバーテンダーの方が「ラム酒」押しの方であったので、今宵はスコッチではなくラム酒の飲み比べをしました。という訳でズラッとならんだラム酒(全てハーフ)です。
ラム酒というのは簡単にいうと、サトウキビ(の糖蜜)を原料とした蒸留酒です。簡単に右側から紹介します。まずは「MOUNT GAY」(マウントゲイ)。「1703」は蒸留所の創業年で、カリブ海のバルバドスにあります。バルバドスは「ラム酒発祥の地」とも言われ、マウントゲイ蒸留所は現存する最古の蒸留所とのこと。(たぶん非合法とかいれたら話は違ってくるかとも思いますが、そこは深く立ち入らないことにします。(笑))バルバドスは元々イギリスの植民地であったこともあってか、蒸留はポットスチルで2回蒸留したものも使われているそうです。また、マウントゲイはイギリスのスパイ映画007シリーズでも、主人公のジェームズ・ボンドと共に登場します(CASION ROYALE)。飲んでみての印象ですが、かなりバーボンに近い芳醇な味わいで、ライウイスキーのようなスパイシーさもあり、パッと思ったのは「カナディアンクラブ」に近いかなと感じましたん。それもそのはずで、熟成にはバーボン樽が使われ、フィニッシュには中をじっくり焦がした(いわゆるヘビーチャーの)アメリカンオーク樽が使われおり、BLACK BARRELというのはじっくり樽を焦がした質感のことかと思います。
ベーシックなハバナクラブと比べてみると分かるのですが、バーボン樽熟成による独特なまろやかさがエレガントな質感を醸し出していると思いました。さすがに300年以上の伝統ある蒸留所の味です。
真ん中は「フロール・デ・カーニャ」、ニカラグアの蒸留所になります。このシリーズのラインアップは熟成年別に、12年、18年、25年、更に30年というのもあるようですが、この「25年」はかなり希少なようです。原料は100%オーガニックで、蒸留には再生エネルギーを活用し、サステナブルな生産にこだわりが。こちらも130年以上の歴史を持つ老舗の蒸留所です。その味わいはというと、ものすごく深みと円熟味を感じるユニークなもの。この味はウイスキーの系統ではなく、恐らくラム本来の熟成感というのかなと思わせる一杯でした。さすがに25年モノということで、お値段もそれなりでしたが、ハーフであればなんと千円台。とても印象に残る味でした。
最後に飲んだのが地元香川のテロワールということで、地元産のさとうきびで造ったラム酒。ただし、熟成はほとんどされておらず、ほとんどニューポットに近い状態、色目も見ての通り透明です。香川(と徳島)は地元のお菓子で「和三盆」という伝統和菓子があるのですが、このお菓子のメーカがクラウドファンディングを通じて、原料のサトウキビを活用してラム酒を作れないかという事で、これまた地元の酒造メーカとタイアップして造られたものだとのこと。市販はされておらず、クラウドファンディングに出資した方へのリターンとしてこちらのニューメークスピリットがリリースされたようです。味わいは、やはり甘さがきます。ウイスキーのニューポットは麦感のほのかな甘さを少し感じる程度ですが、こちらはさすがに「糖蜜」から作るだけあって素材そのものの甘さが十分にある感じ。これから熟成ものも出来てくるようなので、引き続き将来も楽しみです。
さて、今回は少しイレギュラーでスコッチウイスキーではなく、ラム酒を堪能してきたわけですが、やはりシメの一杯が欲しいところ。そんなことを思っていましたら、別のバーテンダーさんが持ってきてくだったのがコレ。ナイスチョイスです!ボトラーズのカリラ。若い熟成ですが、確かボルドーワインのウッドフィニッシュだったかと思います。ワインの甘い感じとカリラなので、ワイン感が来るのかなと想像して口に含んだのですが、ちょっとびっくり。意外にカリラが勝ってます、しかもピート感を強く感じました。カリラはピートがおとなしいイメージで、アイラ好きの自分はあまり飲まない銘柄なのですが、すごく新鮮に美味しいと思いました。もしかしたら芳醇なラム酒を続けて飲んだシメだったので、インパクトが大きかったのかもしれません。
ウイスキーの印象はやはり「飲む順番」によっても変わるのかなと思いました。味覚なんて所詮は、人間の「舌」な訳で、突き詰めれば「感覚」。その時の雰囲気とか、気分とか、色んなものによっても微妙に左右されてくるものです。そういった意味で、味わいもひとつの「対話」であり「コミュニケーション」なのかなと。さて、忘れ物だけは無いように身支度始めます。なにせ、財布をカウンターに置き忘れた前科もあります。ある時はオーナーが走って追いかけてくれたこともありました。こういったご時世ですので、余計な置き土産だけは避けたいところ。大変な時期に素晴らしいおもてなしをして頂いてありがとうございました。また、ぜひゆっくりとお伺いしたいと思いました。次に来るときは、和三盆ラムの熟成シリーズも期待をしてみたいです!
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