千葉方面に用事があり、その帰りに再び先日訪問した千葉駅西口のバーALBAさんを訪問しました。
店名の「ALBA」という名前であるが、オーナーに由来をお伺いしたところ現地の言葉で「スコットランド」という意味らしいです。因みに大昔(といっても6世紀くらい)にはスコットランドに住んでいたピクト人が建国したアルバ王国というのがあったそうです。日本でいうところの「大和(やまと)」とか、そういう感じなのでしょうか。
JAPANという名前も、もとを辿ればマルコポーロが指した黄金の国「ジパング」が由来というから、結構勝手なものですが。しかし、そんな勝手につけられた名前になぜか愛着を感じてしまうから面白いモノです。
さて、前回ここを来訪したときに頂いた格調高き王室御用達のブレンドスコッチ、「ロイヤルハウスホールド」。このウイスキーのストーリーを少し復習しておきたいと思います。
このウイスキーと英王室の関係は100年以上前に遡り、時は1897年。
「当時自社ブランドが英国下院の公式ウイスキーにもなっていたジェームズ・ブキャナン社が、英国王室によって皇太子(後のエドワード7世)専用のブレンデッド・スコッチウイスキーを造るよう、勅命を受けたことに由来」。
要は英王室のご用命で特別に作られたブレンドウイスキーになります。
繰り返しになりますがこのウイスキーが飲めるのは、イギリス以外では、日本だけなのです。
イギリスでさえ特別な場所に行かないと買えないそうなので、町の酒屋さんでも(値段はともかく)普通に買えて、家で飲めますというのは、素晴らしいことです。
なぜ日本で飲めるのか?という話ですが、昭和天皇が皇太子時代にイギリスを訪問された際、英王室からこのブレンドを授かり、特別な許可を経て日本でも楽しめるようになったからだそうです。
今回ALBAさんを再訪したのは、このロイヤルハウスホールドのキーモルトである「ダルウィニー」を飲むためでした。キーモルトというのは、ブレンドウイスキーにおいて味の中核を為すウイスキー原酒のことです。
そんな訳で、開口一番「ダルウィニー(15年)」を注文しました。
香りは確かにロイヤルハウスホールドと同じような感じもするかなあ、と思いましたがテイスティングしてみてちょっとビックリです。
丸みのある味を想像していましたが、シャープですっきりした感じです。あまりフルーティとか、まろやかとか、そういう感じではありません。
そこで、蒸留所について考えてみました。ダルウィニーはスコットランド北部にあり、いわゆるハイランズという分類に分けられます。
蒸留所はスコットランドの蒸留所の中でも最も高い場所にあり(とは言っても300mそこそこですが)、年間を通じた気温がイギリス国内で最も低い所として知られています。
ということは?味にどのような影響があるのでしょうか。
通常ウイスキーは貯蔵庫で熟成する際に、温度の変化により樽が膨張と収縮を繰り返し、中のウイスキーも「呼吸」をします。
気温がずっと低いということは、呼吸が静かでゆっくりと熟成することを意味します。
比較的温度の高い条件で熟成をしたりすると樽感が良く出る反面、味わいが結構丸みを帯びることがありますが、低温熟成というような感じのため蒸留した後のスピリッツの感じが生きているような気がしました。生半可な知識の中でただの想像に過ぎませんが、こうしたいろんなことを考えながら飲むのも楽しみの一つです。
ロイヤルハウスホールドには、モルトとグレーンの原酒が45種類も使用されています。
キーモルトのダルウィニーの静かな佇まいを下地として、様々なウイスキーの調和により独特な柔らかさが作り出されているのだと思います。
以上が、ロイヤルハウスホールドと、そのキーモルトであるダルウィニーをテイスティングした上での感想です。
お次は何を頼もうかということで、棚をチラチラ見ていると隅の方に面白そうな銘柄を発見。「ウルフバーン」とあります。モノクロのラベルに動物の絵が。ウルフ(狼)なのでしょうか。
ウルフバーン蒸留所が出来たのは今世紀。2012年12月に誕生しました。
場所はスコットランドの最北端、ケイスネス州にあります。
2013年から稼働を始めたこの蒸留所が、スコッチの規則である「熟成3年」の時を経て、出荷を始めたのが2016年。
従って、まだまだ熟成年度が若いボトルしか登場していません。
今回トライしたボトルもいわゆるノンエイジ、熟成年数の表記が無いものです。
テイスティングして、こちらも驚きです。
とても透き通るような感覚です。なんというか、本当に何も無い皿のような感じです。
先のダルウィニーもそうですが、いわゆるスコットランドの北部地域はハイランズと言われます。
スペイサイド地区がフルーティさ、芳醇さを特徴とするのに対して、ハイランズ系はウイスキーの純朴な味を極めているような感じがあります。
さて、この新設のウルフバーン蒸留所ですが、設立に至る経緯についても述べておきたいと思います。
先ず「ウルフバーン」という名前は、1821年~1877年の間、この地で約50年間創業した蒸留所の名前からとっています。
設立者はアンドリュー・トンプソン氏で、ウルフバーンのあるケイスネス州の出身。
これだけだと、どこか別の蒸留所で経験を積んだ後に故郷で操業したのだろう、と推測してしまいそうですが、前職はかなり異色の経歴の持ち主です。
なんと元軍人。英海軍に7年間勤務し、アフガニスタンやイラクなどにも派遣された経験があるようです。
その後は南アフリカに移住し、通信関係のビジネスを起業しバリバリのビジネスマンとして活動。
まるで、スーパーマンのような人です。
そんな彼ですが、休みも十分に取れず人間らしい生活ができない事に疑問を感じたとのこと。
また、さびれゆく故郷を目の当たりにしながら、考え始めました。
「この土地で事業を始めることで雇用を生み、地域の活性化に役立ちたい」。
そんな訳で、図書館でウイスキーの事を勉強しながら、事業で稼いだ資金を投じて、まるっきり一から作られたのがこの蒸留所です。
この蒸留所の製法的なこだわりも面白いです。
これだけビジネスをした彼なら、最新鋭の設備を導入した現代的な作り方をするかと思いきや、こだわったのはあくまで「昔のやり方」。
そうです、かつて19世紀に操業し、廃業してしまったあの当時の製法。
「デジタル時代だからこそ、徹底してアナログでいることが強みを持つ」という考え方です。
しかも、雇うのは円熟したベテランではなく、あくまでまだ成長過程の現役組。
若い蒸留所の活力を生かすためには、若い力が必要だと考えているようです。
ここまで蒸留所の設立の経緯を振り帰ってみました。他にもネットで探せばいろんな記事がありますが、詳しく知りたい方は
など参考ください。
改めて、このウイスキーの透き通るような味を考えたときに、これは新たな始まりの味なのだと思いました。
ウイスキーが熟成を得て本来の旨さを持ち始めるには10年以上の歳月が必要です。
まだまだ若い蒸留所と、若い年数のボトルしかありませんが、今後蒸留所がどのような進化を遂げていくのか、ウイスキーの味がどのような深みを持っていくのか、非常に楽しみです。
さて、このバーを総括して、良いと思う事。
マスターともお話したのですが、やっぱり基本的なラインアップが棚一つ分くらいで並べられていること。
中には壁にぎっしりと敷き詰められているところもありますが、ウイスキーの経験が浅いうちはこれぐらいがちょうど良いと感じました。
棚にあるボトルがある程度わかるからこそ、珍しいものや面白いものが「見える」。
壁一杯にあると、どれを頼んで良いか分からず品揃えに「圧倒」されることがあります。
マスターはウイスキーの事を分かりやすく解説してくれますので、ウイスキー初めての肩には特にお勧めしたいバーです。