群馬県の太田を仕事の関係で訪問した。
太田といえば、自動車メーカSUBARUのお膝元。
静岡の浜松とかと同様に、日系のブラジル人が多く住むことでも知られる町です。
仕事の用事が終わって車を太田駅に返却したところで夕方の5時くらい。
さすがにバーが開店するにはちょっと早い時間帯。
しかし、ここまで来るのは滅多に無い。特急電車の待ち時間もある。
色々と言い訳を自分なりに作って駅前をフラフラしていると、駅近くの雑居ビル2階に見つけました。お目当てのウイスキー・バー。
扉の近くに行くと、マスターがバタバタと店を開ける準備をしていたところでした。
店内にもまだ日が差し込む夕暮れ時にカウンターに着席。さて、このお店ですが、
入店した瞬間からちょっとただならぬモノを感じていました。
なんというか直感です。やはりスゴイものって、理屈無しで伝わるものあります。
カウンターに座ってちょっとビックリ。薄暗くて良く見えませんでしたが、ボトルを逆さに宙吊りした状態で、ウイスキーの銘柄がずらりとカウンターの上と後ろに並んでいます。
ボトルを逆さにしているのには仕掛けがあります。
通常は、ボトルを毎回開けて、ワンショットをマスターが計量して、ウイスキー用のチューリップ型のグラスにつぎ込ます。
このボトル逆さタイプ(「ワンショットメジャー」とか言うようです)は、キャップの所にバルブが付けられていて、バルブをひねると、その下の計量カップにワンショット分が自動的につぎ込まれます。
要するに手間がかからないという訳。中にはボトルを逆さに吊るすように、ラベルも逆さに貼ったボトルまであるそうです。
海外では多いと聞きますが、個人的にはあまり国内で見かけたことは無いです。
さて、ズラリと並んだボトル。棚の奥はオフィシャルのスコッチ、カウンターの上に吊り下げられているのはバーボンと、きれいに並べ分けられています。
そして、カウンターの背面の壁には、いわゆるボトラーズのボトルがズラリ。
ちょっと興奮を抑えながら、とりあえずバーボンをロックで。
「バーボンがお好きなのですか?」と聞かれたのですが、これはあくまで準備運動。
本命(スコッチ・ストレート)の前に、最初に少し違う系統のお酒を敢えて頼むのが自分流。
生ビールやスコッチのソーダ割りを頼むことが多いのですが、今日は頭の上にズラッと並んでいるバーボンを選んでみました。
さて、何から頼もうかと頭の中で思案しつつ、マスターにお話しを伺いました。
なんでも、御年80歳で現役。30年以上もお店を続けられているとのこと。
サラリーマン時代にいつかは脱サラすると決めて、40代で少しずつウイスキーのことを勉強し始め、50代で独立されたとのこと。
近くには繁盛している時で、30軒以上も同じようなウイスキー・バーがあったそうですが、現時点で残っているのはココぐらいだとか。
周辺の前橋とか、足利とかからもお客さんが来るそうです。
店のスタイルはいたってシンプル。ウイスキーのみの提供。食べ物は一切無し。
そういえば、ナッツ系のお通しすらも無かったです。
長く続ける秘訣は何でしょうか?との問いかけに、
「軸をブレないこと」との答え。
そういえば、以前に横須賀のスナックで飲んでいた時に、隣のおじさんから同じようなことを言われたことがあります。
「飲んでも軸はブレんな!」、と。
他の廃業されたバーはお客さんからのリクエストで、食べ物とか色々と工夫をされたところもあったようです。
しかし、結局はお店の特徴があやふやになり、どこも上手くいかなかったとの話。
そんな話を伺いながら、何を頼むかを決めました。
ズバリ、「マスターのおすすめ」。
人任せに頼むのは久しぶりですが、ここまでの話の流れで、マスターの飲まれる銘柄が気になってしまいました。
そこで出てきたのが、「グレンドロナック」。
マスターはシェリー樽熟成が好みなようで、同じくシェリー樽熟成で有名なウイスキーのロールスロイスと呼ばれる「マッカラン」と似たような系統。
実は、この間ちょっと寄ったバーで「マッカラン12年」を飲んだばかりだったので、予習はバッチリでした。
香りは確かに、マッカランと同じ様な感じですが、味はかなり引き締まった感じ。
ネットのレビューを見るとフルーティで甘いとかありましたが、個人的にはテイスティングはナッティーでドライな感じがしました。
「どうですか?」とマスターに聞かれたのですが、うまく答えられませんでした。
自分はまだノージングやテイスティングの感覚には自信が無くて、30年以上もベテランのマスターに感想を述べるのは緊張しかありませんでした。
しどろもどろしている自分に、
「これと比べるともっと面白いですよ」
と、出てきたのが同じくグレンドロナックの18年。
熟成年数が長いだけでなく、熟成樽も違います。
12年モノはオロロソ・シェリーとペドロヒメネスのバッティングですが、18年はオロロソのみ。
オロロソとか、ペドロヒメネスというのはシェリー(酒精強化ワイン)の種類です。
産地はスペイン。簡単には、オロロソは辛口で、ペドロヒメネス(PXとも)は甘口。
18年は単一の樽熟成なので、シンプルかと思いきや、やはり熟成年数が高いので深みのある香りと味わい。色もかなり深いルビー色です。
こちらもやっぱり一味飲んだ後に、「どうですか?」と質問が。
しかし、「深いですねえ」としか返せませんでした。汗
結構色んな風合いが混ざっていて、せめてどれか特定できればと慎重に一口、一口、口に含んでみたものの、良く分からない。(笑)
この辺のセンスは全く無いと改めて自覚。でも良いじゃないですか。
お金はちゃんと払うのだし、ウイスキーの博士号が無くても、飲みたいものは飲みたい!
自分みたいな素人相手でも丁寧な接客をして頂いて本当に最高でした。
で、棚をジロジロみながら、ちょっと気付いたことをマスターに質問。
「どうしてジャパニーズ(国産ウイスキー)は置いてらっしゃらないのですか?」
確かに、あまりジャパニーズが置いて無いことも珍しいことではないです。
ジャパニーズは、サントリーとニッカぐらいしか無いので。
山崎のエイジモノ(熟成年数が明記されているボトル)は入手が非常に困難ですし、 ニッカの余市や宮城狭と、あともう一本ぐらいということも普通にあります。
でも、一本も見当たらない。これは間違いなく理由があると思ったのです。
案の定、有りました、「理由」が。
マスター曰く、それは若いころのジャパニーズに対する「幻滅」だそうです。
昔は、好きだったそうです。敢えてここでは特にどの銘柄かは書きませんが、憧れのジャパニーズ・ウイスキーが。
でも、ある時、そのウイスキーが実はマガイモノであることを知ったそうです。
実は、日本の法律上での「ウイスキー」の定義は極めてあいまいです。
これは今も変わっていません。
本場のスコッチウイスキーは、基本的には大麦、水、酵母(イースト)の3つの原料のみを使い、3年熟成が条件です。
しかし、日本のウイスキーは、「混ぜ物」があってもOKなのです。
穀物由来のウイスキーが10%以上配合されていれば、ウイスキーを名乗れる。
一応、法律上はそういうことになっています。
ウイスキーというものを深く知る前に、マスターはそれを知らず、純粋に憧れだけを抱いていたボトルがあった。ところが、それが実はマガイモノで、自分はそれを知らずに「素晴らしいもの」と妄信していた。その悔しさが忘れられず、ジャパニーズは置いていないのだそうです。
自分の軸を守り続けてきたマスター。芯が通るというのはこういうことなのでしょうか。
そんな話を聞いていると、頼んでみたくなったモノがあります。
ラガブーリン16年。これは、自分にとっては、「軸がブレそうになったときに飲む」モノです。(笑)
アイラの巨人、ラガヴーリン。自分は初めてこれを飲んでアイラのファンになりました。
自分にとってスコッチ・ウイスキー元年とも言うべき起点です。
ラガヴーリンがどのような味なのか?それは皆さんに味わっていただきたい、という意味で敢えてここでは語りませんが、個人的なお勧めは16年モノです。
今日は色んなことを勉強させてもらいました。マスター、ありがとうございます!
以上