北欧初のニューノルディックスタイル・ウイスキー。追い求めるのは熟成期間の長さではなく、ウイスキーのフレーバー。スコッチウイスキーの本場の作り方をただ真似るのではなく、自らでデンマーク発のウイスキーの新たなスタイルを作り出すことを目標としている。革新的レストラン「ノーマ」で知られる世界的に有名な同国の料理研究家レネ・レゼピ氏は、全てのウイスキーを排してスタウニング・ウイスキーのみを提供。ノルディック文化とスコッチウイスキーの伝統が新たな境地を開く。
スタウニング蒸留所の創設は2005年、ウイスキー業界とは縁もゆかりもなかった9人の愛好家たちが始めたものだ。彼らにはウイスキー造りのノウハウは無かったが、良いウイスキーを造りたいという情熱と、北欧デンマークの恵まれた風土と気候があった。すなわち、それは大麦畑であり、ピートやヘザーなどの燃料であり、ピュアな水源であった。初めは食肉工場跡を間に合わせで作業場としたという。精麦は工場の床タイルに大麦を敷いて行い、乾燥に使用するピートは近くの自然博物館から調達、ミリング(粉砕)は肉挽き器を使い、クラフト精神そのもので造った初めての蒸留酒が翌年に完成した。
元々はビジネスを立ち上げると言うよりも、「趣味の延長」であったという。もし何か理由があったかとすれば、そもそもデンマークでウイスキー造りが可能なのかを確かめること、であったかもしれない。しかし、彼らには初めから一つのこだわりがあった。それは、スコットランドで古来に営まれてきたウイスキー造りを再現して作ること。最初のニューメークが2006年に出来たとき、この蒸留所をあるスコッチウイスキー界の大物が訪れ、それが蒸留所の転機となる。『ウイスキー・バイブル』などの著書で知られる、ウイスキー評論家のジム・マレー氏である。彼はこの蒸留所のニューメークを試飲し、最高のピートウイスキー候補となる可能性があると高く評価をした。その評価は彼らに自信を与えた。資金を借りた銀行からは、パン屋にしてはどうか?などと忠告されるなど、誰も蒸留所としての成功を予測はしていなかったが、マレー氏の後押しを受け本格的に蒸留所としての道を歩み始めたのだ。
ジム・マレー氏と同じく、スタウニング蒸留所を評価したのは同じデンマーク出身で革新的料理研究家で、世界的に有名なミシュランレストラン「ノマ」の経営者でもあるレネ・レゼピ(René Redzepi)氏であった。彼はスタウニングのウイスキーを大変に気に入り、他の全てのスコッチウイスキーを片付け、スタウニング蒸留所のウイスキーだけを自らのレストランで提供するにまで至ったほどだという。この理由としては、恐らくいくつかの共感が考えられる。まず一つは、共にデンマークを拠点とすることの地元愛、そして原材料を全てローカルなものにするというこだわり、また古くから伝わる伝統的な手法(「発酵」など)を取り入れながらも新しいチャレンジ精神を忘れないという姿勢なのかもしれない。いずれにせよ、スタウニング蒸留所の目指すものは本場スコッチウイスキーのコピーではなく、デンマーク発のウイスキーという新境地の開拓なのだ。
2007年に現在の場所に移転し本格的なウイスキー造りに着手。2009年に操業を開始し、2011年に初ボトルをリリース。一番最初のボトルはスコッチなどモルトウイスキーが主流のヨーロッパでは珍しいライ・ウイスキーであった。翌年にはシングルモルトをリリース。ジム。マレー氏のウイスキーバイブルや国際的なコンペで賞を取るなど認知度が高まったのもこのころからである。レゼピ氏の「ノマ」に採用されたのも2012年頃。ベーシックのボトル・ラインアップはライ・ウイスキーとスモーク、ノンスモークのシングルモルト。2016年にはDIAGEO社からの出資を受けるなどして新たな蒸留所の建屋の新設工事を開始し、2018年に完成。導入した28基の小型ポットスチルは既にマッカランなどにも並ぶ世界最大規模。大幅に生産規模を拡張し、更なる飛躍が期待される。
メインラインアップについて、蒸留所ホームページのボトル紹介のページから(https://stauningwhisky.com/collections)紹介をしておきたい。まずは、出来立てのデンマーク産ライブレッドをウイスキーで表現したという「ライ」。ライウイスキーとモルトウイスキーのコンビネーションで、アメリカンオークの新樽で熟成。深く香ばしい香りと、フルーティな余韻が特徴。次には「カオス」。名前の由来は選挙スローガンで、北欧デンマークの福祉国家としての礎を築いたことで知られる社会民主党トーバル・スタウニング(1873-1943)氏が1935年に自身の再選を目指した議会選挙で使われた標語。中身はブレンドウイスキーで、スタウニング蒸留所が作り出す3つのタイプのウイスキー、すなわちライウイスキーと、ノンスモーク、スモークのモルトウイスキー、をブレンドしたもの。いわばスタウニング蒸留所のフラッグシップ的なボトルといって良いかもしれない。熟成にはヘビーチャーのヴァージンアメリカンオークとファーストフィルのメーカーズマーク旧樽を使用。最後に、「スモーク」、ローカルのピートとヘザーを乾燥工程で使用したスモーキーなウイスキー。原料の大麦もユトランド半島西部のローカルなものを使用しており、テロワール感100%のウイスキーといったところで、「ニューノルディックスタイルのウイスキーの神髄」ともいえる。バーボン、マデイラ、ジャマイカラムのファーストフィル、そしてアメリカンヴァージンオークといった多様な樽で熟成したものをミックス。スモーキーな原酒が個性的な樽の熟成を経て生み出すフレーバーとは如何なるものか??