今回は久しぶりの出張ということで静岡に来訪。ここはもともと徳川家康の居城である駿府城があったところ。それがなんで「静岡」という名前になったかというと明治維新の後の廃藩置県のころに名称を一新するということで市内の真ん中、浅間神社の裏手にある「賤機山(しずはたやま)」から名前をとり「静岡」となったそう。個人的には無味乾燥としたネーミングだなあ、と思うけれども当時の新政権からすれば「駿府」などというのは忌々しい旧政権を連想させるということだったのかもしれない。そんな訳であるけれども、この静岡県というのも奇妙な県で、伊豆、駿河、遠江の3国を合体したような造り。西の三島・沼津、富士、そして中の静岡、東の浜松は東海道にあるということを除いてはかなりカラーが違うということで、歴史の流れから考えるとかなりムリがあるような気もするけれども、そもそも明治維新とはその「断絶」と「刷新」が大元にある訳で致し方ないところか。
さて、歴史の議論はこれくらいにして。とりあえず静岡である。実はこの静岡(静岡市)というのは、経緯は別にして、とても良いところである。何が良いか?それは海と山と平野が1式揃っている、これに尽きる。自然と都会がコンパクトにまとまっていて、そのど真ん中を交通の大動脈が走っている。西(名古屋・関西)に行くにも、東(東京)に行くにもとにかく便利。ただしリニアを建設している中央アルプスだけは如何ともしがたく、北隣にある信州に行くにはどちらか迂回をしないといけないため不便ではある。ただし、恐らくスキー場を除いてはだいたいのものは揃っている気はする。
さて、何の話かというとモルトバー巡りの話ということで、この辺で切り替えます。静岡駅に降り立ち目指す場所は一つ、それは「BLUE LABEL」という老舗バーが目的でした。場所は既にgooglemapに登録済みであったので、さほど迷うことなく到着、なんですが空いていません。それも無理のない話でまだ時間は18時過ぎ。ならば、なぜに事前に電話するなり調べておかないんだ!ということですが、自分はこうした運命に身を任せるすごろく的な感覚が好きで、出た目の数であきらめる?!のが信条故。とにかく空いて無いのでどうしようもない。ただ、こちらは日帰りでしかも帰りの切符もすでに買ってしまっている放浪の身。どうしようかと少し通りを歩いていると、何やらすでに営業されている看板を雑居ビルの奥に発見しました。
店の外の看板からしていかにも昭和のノスタルジックな感じが良いです。スコッチウイスキーが目当てではるのですが、他を探す時間ももったいないので入口で即決。恐る恐る扉を開けましたら、予想通りというか、看板の感じのままに30年くらい時間を遡ったような空間が展開しておりました。(決して悪い意味ではありません、自分は昭和の純喫茶など含めてこうしたノスタルジックの空間は大好きなのです。)そして、棚にはずらりとジャパニーズウイスキーが。スコッチもバーボンもなく、ただサントリーのウイスキーが鎮座しております。さすがです。そして、カウンターにいらっしゃったママさんはなんとこの道50年以上のベテラン。早速ビールを注文して先ずは乾杯。突き出しがいくつか出てきまして、これまた絶品の数々。モルトバーでは中々味わうことができないおふくろの味です。また一つ一つの小皿も洒落ています。(特に高価だというワケではなく、一つ一つがうまく料理とマッチングしているという意味です。こうした境地はそうそう簡単に立てるものでは無いと思います。)近頃は洒落たバーで、料理も酒を皿も色々垢ぬけたところはいくらでもあるような気がしますが、なんでもお金をつぎ込めば良いというものでもない。バランスというものがあると思うんです。そうした全体のバランスというのがやっぱり日本的な感性の為せる技かと思っていて、ただ高級な食材を高価な皿にのっけて、高額のレシートを用意すれば良いものでは無いと思うんです。(また脱線。閑話休題)
さて、そういう訳でビールの後にはサントリーのウイスキー。「ロイヤル」です。実は初めて飲みます。初めてなので、ストレートで。これはいわゆるジャパニーズブレンドということです。というかサントリーブレンドとでも言うべきでしょうか、山崎とか白州とか、知多とか、サントリーさんの蒸留所のウイスキーを混ぜ合わせたものという認識です。(すみません、「ジャパニーズ・ウイスキー」はあまり知見が無くて、その程度の認識しか持ち合わせが無いのです。ホームページも見てみましたが、あまり詳しく混合率がどうだとかは書かれていませんでした。)初めて飲んでみて思ったのは、「奥ゆかしい味わい」。重厚感のあるボトルとかなりうまい具合にマッチングしています。なんとなくスコッチ風の荒々しさも感じはするのですが、とてもバランス良くできている。さすがに、これが世界に名高いジャパニーズ・ウイスキーというワケで、とても納得。ストレートでなくても、ロックとかでも十分に楽しめそうです。
次に頼んだのが、「碧(Ao)」。これはワールドウイスキーというカテゴリーで、要するに世界五大ウイスキーと言われるスコッチやバーボンなどをミックスしたブレンドウイスキー。こちらの方は青々としたボトルの感じもそうなのですが、若者向けと言うか、少し若々しさを感じさせるフレッシュでフルーティな味わい。ストレートも良いけど、ロックやハイボールなんかでも良いかもしれません。スーパーとかでもたまに置いてあるのを見ますが、普通のブレンドウイスキー(1000円~2000円/ボトルくらいのもの)に比べるとお値段相応のクオリティがあるように感じました。
久しぶりのバーで飲むウイスキーと、美味しい突き出しを十分に堪能。古きノスタルジックな空間も最高です。最後にはそうめんまで出てきてお腹も満たされました。モルトバーでは中々味わえない高級居酒屋のような手料理の数々。朝採れのお野菜なども頂きました。なんとも贅沢です。時折、古いダイヤル回転式の電話が「ジリジリ」とけたたましい音を立てて店の中に鳴り響きます。お話を伺っているとかつては国会議員や県知事の方も通われたのだとか。時代の流れとともに、以前の常連さんも引退されたり故郷に帰ったりで、さすがに今も通われている人は少なくなっているのだとか。それでもママさんはしっかりとドレスアップしてシャンとカウンターに立っています。やはり最後には女の人が強いということなのでしょう。途中で中学の同級生だという知人の方が来店され、仲睦まじく話をしておられました。こういう友情関係というのは見ていてもうらやましいです。
古いバーとは良いものです。新しいものは作れますが、古いものは作れません。店の中に染み付く時の流れの刻印は、何を語らなくてもしっかりと感じることができます。それは長い期間、じっくりと樽の中で寝かせたウイスキーの味わいと激しく共鳴します。奥行きがあり、深く、複雑な余韻を残す、静かにそこに佇むだけで、あるいはゆっくりと味わうごとに、何か遠い昔に帰っていくような、そんな気さえしてきます。そんな何とも言えない心地に浸りながら、ハッと時計を見たらもう帰りの時間が。ようやく周りの店も少し賑わい始めてきたところでしたかが、致し方ありません。恐縮にもビルの表まで案内をして頂き感謝しかありませんでした。どうか長くお元気でいらしてください!そしてまた美味しい料理を食べにお伺いしたいです。