ホワイトオークイニシアティブ

アメリカのバーボンメーカー、ブラウンフォーマン社とホワイトオークイニシアティブについて。バーボンウイスキーはスコッチと違い新樽を使用します。新しい樽はホワイトオークという木が使われますが、昨今のウイスキーブームなどにより将来的な安定調達が課題になっています。ウイスキーメーカーと森林資源保護について簡単に紹介します。

そもそも、どうしてホワイトオークの話なんかが出てきたんだということなんですが、これはいつも聞いているwhiskycast(リンクはreferenceにもありますが)の7月4日の放送(”Preserving the American White Oak’s future)で取り上げられていたからです。オーク材がワインやシェリー、ウイスキーなど保管や熟成用とに広く使われていることはご存じの通りかと思いますが、アメリカンバーボンはホワイトオーク材が主に使用されます(※)。スコッチと違い「新樽」で熟成することが条件なので、常に新しい樽を作る必要があり、簡単に言うと森林を伐採する必要があるということです。もちろん、森林を伐採するからダメだとか言う話ではな無く、ホワイトオークは熟成用の樽向け以外にも、建材(フロアリング)や家具、鉄道の枕木など広く使われています。このため、いかに有効的に森林資源を保護し活用するかということが課題になっています。昨今のウイスキーブームなどもありホワイトオークの将来に向けた安定的な調達は、すでに大きな不安を抱えているのが実態です。その中で、プレミアムバーボンのオールドフォレスターなどで知られるブラウンフォーマン社は、2017年に「ホワイトオークイニシアティブ」という森林資源保護の取り組みに、ウイスキーメーカーの立場で創立当初から参画。放送ではホワイトオークイニシアティブのメンバーとしてブラウンフォーマン社の樽製造部門のグレイグ・ロシュコフスキー氏がその活動内容を紹介するという内容でした。

※因みに、オークは産地によりいくつか種類があり、それぞれ蒸留酒の熟成用樽として活用されてきました。アメリカではホワイトオークですが、ヨーロッパではシェリー用に使われるヨーロピアンオーク(スパニッシュオーク)やコニャック向けのフレンチオーク(セシルオーク)が知られています。日本ではミズナラが有名で、昨今はミズナラの樽で熟成したウイスキーがジャパニーズのみならずスコッチなどでも使われています。また、アメリカではホワイトオークの他にも、ギャリアナオークと呼ばれる希少なオークが米西部に生育しており、こちらのホームページでも紹介をしたウエストランド蒸留所などがその資源保護と熟成樽の活用に取り組んでいます。

ホワイトオークは主に米東部に植生している

さて、なにゆえにこのホワイオーク材の供給が問題になっているのかをホワイトオークイニシアティブがyoutubeにアップしている動画などを見ながら少し掘り下げてみました。まず先にも紹介したようにオーク材を含む森林資源の用途は多岐にわたります。ウイスキーやワインなどの熟成用に使われる割合というのは数パーセント程度ですが、主として建材などの産業用途に広く使われており、バーボン業界としては他の用途と競合しながら調達をしないといけない状態にあります。上の地図はホワイトオークのアメリカにおける植生分布になります。見て分かるように、主にアメリカの東部を中心に分布しています。保有者は個人が多く、材木業社などが切り出して、各向け先に販売をしているようです。つまり民間で個々に取引が行われて流通しており、全体としてどのような管理をしているのかを把握するのはかなり難しいという状況にあります。そうした中、ホワイトオークイニシアティブが各業界団体の支援なども取り付けて、オーク材が植生する森林資源の保護と有効活用に乗り出しています。とりわけブラウンフォーマン社はバーボン業界を代表するような形でそのリーダーシップを発揮しています。ブラウンフォーマンは傘下のブランドとしてオールドフォレスター(あまり日本では馴染みがないですね。どうしてなのか?はこちらの記事など参考になります。)の他に、ジャックダニエル、スコッチではベンリアックやグレンドロナック、グレングラッソーなど複数の有名なブランドを保有しています。

ブラウンフォーマン社の現チェアマン、キャンベル・ブラウン氏
ブランフォーマン社傘下のウイスキーブランド

さて、オーク材の保護という意味で別の観点からみた課題が下の表になります。これはオークの木の樹齢分布になります。樹齢50年~70年あたりがピークになっているのが分かります。そして、この樹齢50年以上のオークというのがオーク材の資源的価値が高く、それ未満のオークというのはまだ成熟をしていない若い木になります。一目で分かるように、樹齢50年未満のオークは他と比べても少なく、すぐにまだ資源が枯渇するような状況にはありませんが、20年先、30年先を想像すると確かに不安な要素があるように見えます。

ホワイトオークの樹齢分布

“Trees that are harvested to make distilling barrels can take up to 100 years to grow, so you have to think ahead,”     

蒸留所向けの樽に使われる木が生育するには100年近い時間を要する。だから先を見越して考えねばらないなんだ。Dr. Jeffrey Stringer

だったらもっと植えれば良いじゃないかという話かと思いますが、どうもなかなかそう単純ではないようです。まず、オークは他の木と比べて成熟するのに時間がかかる上、生育のスピードも遅いです。また、森林の中における生育環境も昔と比べて変化があるようです。以前は自然の森林火災や低木などを好んで食べる動物などによりオークにとって好ましい生育環境がありました。ところが昨今、森林火災や動物活動の減少により、日陰でもよく育つカエデやブナなどに(オークの苗木や若木が)競り負けるようになっているのだとか。その結果、成熟したオークの木を伐採した後には、本来あるべき若いオークの木がほとんど生えていないという状況になっているようです。樹齢分布もまさにその実態を裏付けています。

ではホワイトオークの未来はどうなのか?マークは放送の中で「最悪のシナリオは?」と問うていましたが、ロシュコフスキー氏の回答は「いまのところ”母なる自然”(mother nature)がよくやってくれている」というものでした。昨今のウイスキーブームにより当然のことながら良質な樽に対する需要が増えていることは容易に想像ができます。また、スコッチはホワイトオークの新樽を使いませんが、バーボン樽を使うため間接的につながっています。またワインやコニャック、シェリーなど全体を見渡せば、今のクラフトブームなどで良質な材料への需要というのは木材に限らずより一層高まっていくことでしょう。その時にやはり考えたいのが、それがクラフト(手作り)だから、天然由来だから、良いのか?という問題です。確かに木材は自然由来の資源ではありますが、皆が一様に欲してその資源を一斉に消費すると、当然のことながら近い将来に「枯渇」の危機に直面します。もちろん、森林資源の後先を毎回考えながらウイスキーを選ぶ必要は無いと思いますが、プレミアム的な価値などを求めて加熱するクラフトブームには少し注意を払う必要があると感じています。何事もそうですが、過ぎたるは及ばざるが如し。自然の恵みにも時には思いを馳せながら、品良くお酒を楽しみたいものです。

参考記事:https://whiskymag.com/story/white-oak-is-vital-for-whiskey-production-but-its-future-is-uncertainwhite-oak-is-vital-for-whiskey

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