【新潟】Caf’e Bar K’s(直江津)

新潟県直江津市の駅近くにあるCafe Bar K's(ケーズ)を訪問しました。カジュアル系のスタイルですが、カウンターでモルトウイスキーを一人で楽しむこともできるし、テーブル席もあるのでカップルやグループでも大丈夫です。店内は割と広く、肩ひじ張らない雰囲気。でも、モルトウイスキーのセレクションもオフィシャルを中心にきっちりとありました。 駅近のカジュアル系バー 「直江津」と聞いてパッと来る人は、たぶん地元の人か旅好きの人では無いでしょうか?今は北陸新幹線という大動脈が出来たためかつてのような面影はありませんが、この直江津というのは北陸本線と信越本線が交差する鉄道交通の要所でした。現在は、北陸本線は第三セクターに移管され、(群馬県高崎と新潟を結んだ)信越本線も新潟側はこの直江津が終着駅となり、長野方面は同様に第三セクターの運営となっています。 着いたときはどっぷり更けてた汗 今回この駅にフラッと立ち寄って街を探索してみましたが、とても重厚感のある歴史を感じある街の趣がありました。何と言っても名所は「五智国分寺」ではないでしょうか。「国分寺」というのは、いつしか学校の歴史の授業で習ったはずです。「奈良時代に聖武天皇が仏教による国家鎮護のために各地に建立した寺院」。その越後(新潟県)の国の国分寺がこの五智国分寺というワケです。 さて、こういった街の中ですが、駅から少し歩いた神社(八坂神社)の近くに歓楽街があり(なんと境内の敷地内にスナックが!)、その裏に今日お目当てのバーがありました。ちょうどお店が開くところでマスターが玄関で準備をされてました。ということで、連れられて建物の2階のお店に案内頂きました。 入ってすぐのカウンターの端っこに陣取り、ざっと棚に陳列してあるボトルを眺めます。そこで、ふと目が留まったのがコレ。JURAの基本ラインアップの中で、ライトピートが特徴のSUPERSTITION(迷信)だけがまだ飲んだことがありませんでした。少し口に含んでの印象は、心地よいピート感と甘さ、そしてジュラらしい穏やかな味わい。割と控えめにまとまっている感じですが、とても個性的な味です。 JURA SUPERSTITION PORT ASKAIG 次に頼んだのがこちら。アイラの新生「ポートアスケイグ」。こちらは少し由来を説明します。イギリスにELIXIR DISTILLERSという有名なウイスキー専門業者があります。経営するのはスキンダー&ラジ・シン兄弟というインド系英国人で、ロンドンなどにあるWHISKY EXCHANGEというウイスキー専門のリカーショップが良く知られています。(この屋号は元々兄弟の両親が経営していた酒屋さんの名前に由来)ウイスキーのネット商売で成功し、また希少性の高いウイスキーのコレクションにも定評があります。そしてELIXIR DISTILLERSがオリジナルでリリースしているボトルがこの「ポートアスケイグ」シリーズ、こちらはその16年です。中身は公開されてませんが、パッと飲んですごく分かりやすいアイラピートが!ネットみるとカリラかライフロイグのようですが、自分はライフロイグに1票でしょうか。 最後にグレンモーレンジ。アイラとアイランズのピートを続けたので、最後に口直しと想い選びました。グレンモーレンジは、「ハイランズ」ですが、味わい的には中性的な印象があります。頂いたのは「ネクタドール」、フランスの超甘口の貴腐ワイン「ソーテルヌワイン」樽で後熟したのが特徴。ですが、味わいはそこまで甘口というほどでもなく、程よくマイルドな味わい。グレンモーレンジは樽にこだわりがあることでも知られ、ボディの「滑らかさ」が特徴と言われます。ネクタドールも基本のベースは、マイルドで滑らかにまとまっている感じがしました。 開店直後で、こういった時節柄ということもあり、1時間強滞在しましたが、お客さんは自分一人だけでした。お話を伺っていると常連の方には「公務員」の方も多いらしく、そうした方がめっきり来られなくなったとのこと。改めてサラリーマンというのは気楽な身分だと痛感。地方のバーの良いところは、やっぱりラインアップがベーシック中心で、あとはオーナーの個性で趣向や「変わり種」が少し置いてあること。沢山ずらりとボトルが並んでいるのを見るのも壮観ではありますが、こじんまりとしたところで落ち着いてじっくりと何かテーマを決めて飲む、というのも十分に楽しめます。 最後にこちらのバーの所在をご紹介しておきます。JRの直江津駅を北口に出て歩いてすぐです。夜の8時から開いてました。マスターも気さくな方。他に従業員の方もいるようですが、自分が訪問したときは生憎不在でマスターお一人でした。店内も広めで、落ち着いた雰囲気で楽しめます。

【特派員投稿】蒸溜所ってどんなとこ?

ウイスキーを初めて飲んだのはじつはいろんな事がキッカケだったりするけれど ウイスキーの世界に完全に惹きこまれたのはあの時、白州の蒸溜所を訪れたからだとはっきり言える。 ちょうど今頃の秋晴れの日に穏やかな木漏れ日と鳥のさえずりがやけに印象的だった。あれから4年も経っていて自然と忘れている出来事も多いのに、どうしてかその日のことは忘れない。   本当に美味しいウイスキーだった。 だから、そんな私にとってウイスキーの蒸溜所を訪れることは凄く特別なことだけれどこれを読む皆さんにとっては、どうなのだろう。 酒造りは基本的に風土を重視するなどから蒸溜所の多くは自然の奥地にあり、わざわざそこへ足を運ぶほどではないかもしれない。その労力と移動のお金をかけるくらいなら近場のBarや宅飲みで….そう考える方もきっといると思う。 でも あなたがもし、今まで飲んだウイスキーやその他お酒の中で感動!と言わずとも「あれ?もしやこのお酒…」「何か美味しいかも」という覚えが少しでもあるのなら 蒸溜所に行くことは必ずその人生を豊かにする。 決して難しい知識なんて必要ない。"蒸溜所を訪れること"が馴染みあるお酒の味を何倍も美味しくさせる。 今回はこれについて話をしていこうと思う。 蒸溜所の魅力について・五感で楽しめる・貯蔵庫で眠る熟成樽・お酒で繋がる人との出会い・蒸溜所限定ウイスキー ・五感で楽しめる 今回この記事を書くにあたって、自身のTwitterでも"蒸溜所を訪れる醍醐味"について伺ったところその土地の「風土」だと言う意見も多かった。 蒸溜所に着いた瞬間の麦の香り。モルト(麦芽)は実際、一粒かじってみると口いっぱいに広がる香ばしさと少し甘い味。発酵槽で酵母がブクブク発酵する様子や蒸溜しているスチルによる室内の熱気。 お酒の知識だけならバーテンダーさんから話を聞くこともできるが、馴染みのお酒がどう生まれるのか、その過程をこの目で見るか否かではやはり全然違う。 できるだけ蒸溜所の様子を写真を通してお伝えしたいが、写真からでは絶対伝えきれない世界観がそこにはある。 ・貯蔵庫で眠る熟成樽 蒸溜所ツアーの終盤で最後の製造工程として案内されるのが貯蔵庫。ここは、本当に圧巻だ。静寂で仄暗い、湿った木や苔の香りがする空間で熟成の樽が何年、何十年と時を刻んでいる。 ただ目の目にするだけでも圧倒されるが貯蔵庫については、中でも強く印象に残っている出来事がある。 それは以前、スコットランドにあるグレンファークラスの蒸溜所を訪れた時にツアー中、貯蔵庫でウイスキーをサンプリングしている現場に偶然、立ち合ったことがあり その時にスタッフが、サンプリングしていた1974年のウイスキーを贅沢にも、私の掌に注いでくれたのだ。こんな風にウイスキーを直接、掌で掬うように飲むのは後にも先にも、この時だけだと思うが私にとってこの出来事は本当に特別だった。 また蒸溜所によっては貯蔵庫の樽からウイスキーを自ら瓶詰めし持ち帰りができたり、樽出しのウイスキーをそのままテイスティングをするツアーなどが開催されているのでおすすめ。 ・お酒で繋がる人との出会い 蒸溜所のスタッフや製造に携わる職人さんから直接、話を伺えるのも蒸溜所を訪れる魅力の1つである。 先ほど話したグレンファークラス蒸溜所での出来事は、スタッフさんにとってはちょっとした"ノリ"だったかもしれない。だがこんな突然のサプライズも、スタッフさんとのふれあいも正直言って本当に嬉しい。 以前、英語が全く自信のなかった私はスコットランドの蒸溜所スタッフの方に予め用意したスケッチブックを持って行き筆談でこんな質問したことがある。 "もし(あなたが作る)ウイスキーがあなたの特別なベストフレンドだったとしたらあなたは、知人にその親友を何と紹介するか?" 今でも、おかしな質問だったとは思う。…

【東京】バー恵(II)(中野)

中野駅から歩いてすぐのバーBAR恵さん、こじんまりとした店内の落ち着いた雰囲気の中で、美味しいウイスキーが楽しめる隠れ家的な場所。個人的には「ゴールデン街の飛び地」の位置づけです。笑 また、お邪魔してしまいました。何か惹かれるものがあるんだと思います。バー巡りのブログで同じ店の2度目のレポートをするのは、近所の行きつけのお店を除いてはた初めてです。それくらい個人的に好きなお店。店内はとカウンター席のみだけで、決して広くはありません。小さな箱の中に入った様な感じですが、雰囲気がとても良いです。新宿のゴールデン街とかによくあるような隠れ家的な雰囲気、加えてちょっぴりエレガントです。ここは、「大人の」ゴールデン街なのです。お店に入ってまず目を惹くのがこの灯り。手前と奥に二つあるんですけどオシャレで良いと思います。(いつもこの由来をお伺いしようと思っているのですが、毎回行く度に忘れてしまいます。)レトロチックというか、昭和の純喫茶のナイト版とでも申しましょうか。小さなお店の中で、煌々と光る行灯でございます。そして、なんといってもカウンターの中にいる方も素敵な方で、とても奥行のある方です。なので、本当に小さな空間ではあるのだけれども、場全体が和やかになって、心地よい空間を醸し出しているのだと思います。ところで、ここは「BAR」とある通りなんですが、どちからというと店内は居酒屋風ながらも、棚にあるウイスキーも凄いです。それもそのはずでなんとこの店はソサエティの会員であります。ですから、とっても良いお酒(ウイスキー)も飲めるのであります。 ウイスキーのモルトバーに行くと、棚に所狭しとずらりと並んだウイスキーのボトルの数に圧倒される事が多々あるかと思います。ここは、そういう点で心配ご無用。セレクションはミニマムです。最初にお伺いした時もそうでしたが、おススメのものがちょこっと並んでいる感じ。そして、お手元に並ぶのは非常にお手頃な感じです。これまたドンピシャですね、自分がいまハマっているキルホーマン(マキヤベイ)がど真ん中、そして隣にアラヒーと、ティスプーンのモルト?がありました。残念ながら、どれも今回は飲んでないのですが、とりあえず何を頼んで分からないときにはおススメから行くのが良いかもしれません。アラヒーは自分も気になりました。今回頂いたのは、ソサエティのこの2本。ベンリアック(だったかなあ、すみません、もしかしたら違ったかも)とリベット。ところで、「ソサエティ」について、一応補足しておきます。ソサエティは「ザ・スコッチモルトウイスキー・ソサエティ」(SMWS)のことで、スコットランドに本部があるウイスキー愛好家クラブのことです。(詳しくは同会HP→The Scotch Malt Whisky Society)ここの特別なボトルは会員でないと購入できない仕組みになっていいます。なので、バーでこのボトルを見かけたらとてもラッキーです。恵さんのウイスキーラインアップは初心者向けと、愛好家向けの両方に割とはっきりと対応しています。 ソサエティのウイスキーというのは、蒸留所本来の味を最も引き出したものと言えるかもしれません。ソサエティのエキスパートが蒸留所で厳選した樽を、加水せずにそのまま熟成させボトリングさせたものです。また、パッと見て、どこの蒸留所なのかも記載されていません。番号があるそうですが、先入観無く楽しんで欲しいという願いからだそうです。うちらは飲む前から「答え」を教えてもらっていたんですが、自分はグレンリベットに驚きました。グレンリベットは、グレンフィディックと並び最も良く販売されているスペイサイドのメジャーな蒸留所。自分も何度か飲んだことはあるんですが、全然印象が違いました。軽やかなフルーティーさが特徴とされるんですが、すごく味に深みを感じました。蒸留所の名前を教えてもらっていなかったら、たぶんどこのものかサッパリ分からなかったと思います。 さて、このウイスキーに合う突き出しは何かないかなあ、なんて思って訪ねてみたところ、「缶詰ありますよー」ってことで、オイスターを頼みました。これがまた非常にマッチングします。盛り付けも良いですね。たぶん、男同士とかで飲んでると、缶詰開けて割りばしでつつく感じになると思うんですがクラッカーとレモンがついて、雰囲気を盛り立てるお皿に乗っかってやってきました。ただの缶詰が、立派な缶詰に変身しました。(笑)というわけで、ソサエティのウイスキーと集合写真!とても良い眺めです。 オイスターの缶詰とクラッカー まったりとした時間を過ごしながらつくづく思いました。やはり、色々なアイテムが沢山揃っているのも楽しいのですが、実際のところ一回で楽しめる量っていうのは限りがあると思うんです。そういう意味で、ミニマリズム的な楽しみ方というか、選択肢が限られているからこそ、ひとつひとつを吟味する機会にもなるのかと思います。また、こちらは座席数もカウンターに8席ほど。色んな意味で「密な」空間を提供してくれます。(残念ながら今のご時世はあまり歓迎されないワードになってますけど、いつかまた復活するはずと信じてます!)こちらのバーの場所ですが、中央線の中野駅北口を出て5分ほど歩いたところにあります。詳しくはgoogle mapを確認してみてください。パッっと見、隠れスナック的な雰囲気でたぶん自分も一人だと扉開ける勇気はなかったかもしれません。以前にブログでも書いたんですが、こちらは別のお店の子の紹介で初めて門をくぐりました。中身はとても大人の空間で、自分も何度か来店させてもらいましたが、いつも落ち着いた空気が流れています。早めの時間帯にしか来たことが無いのですが、夜中とかになるとまた雰囲気が違うのかもしれません。いつか機会があれば、そういう時間帯にふらっと立ち寄ってみたいです。また、最後になりましたが、恵さんを紹介した子が一押ししていた「わさび漬け」のお酒も頂くことができました。わさびのピリッとした感じが、お酒と非常に相性良くマッチングしてました。ハイボールと抜群のコンビです。常に置いている訳では無いと思うんですが、おススメです。 ポタージュスープ ウイスキーとマリアージュのレベルが更に進化してました!(2021年12月再訪)

【香川】BAR タビ(弐)(高松)

先ずは香川県民の皆様に深くお詫び申し上げます。正直、甘く見ていました。 1件目に訪ねてみたシャムロックさんが開いてなかったので、google mapで再検索してふらっと寄ってみただけだったのですが、激しく期待を裏切られてしまった次第。その顛末を謹んでご報告申し上げます。 最近キルホーマンに魅せられていたので、とりあえずマキヤベイくらいが置いて有れば良いかな、むしろ置いてなくてもまあ仕方無いかな、なんて思いながら聞いて見だけなのですが、これはどういうことですか?!店の方が「ちょっとお待ちください!並べてみますので。」と言われてカウンターの前がこんな感じになりました。 キルホーマンがズラリ! 確か四国に行く飛行機に乗ったかと思ったのですが、もしかしてアイラ島に来ちゃいました?その割には1時間くらいしか乗ってなかったような気がするのですが、気のせいでしょうか?? 少し目も慣れてきたのでが、ちょっと待ってください!このバーはかなり「半端無いです」。 先ず、よく見たら目の前に石垣らしきものがあります。お聞きしたら、本物の石垣のようです!そして、江戸時代頃の棚を活用した改造シェルフ!前にも横にもリアレンジした骨董品、そしてその中にはリキュールやジンのボトルがお宝のようにズラリ。さらに、さらに!グラスやコーヒーメーカなどの備品や器具にもかなりこだわりがあるのが見て取れます。スゴイ!地方のバーで内装に凝った歴史を感じさせるオーセンティク・バーは結構あると思うのですが、ここは自分が今まで行った中でも一番「今風に」オシャレな感じ。 カウンター内 客層も面白いです。老若男女がいる感じです。カウンター側も女性が二人。実はこの日、カウンターは満員御礼でした。一人で来ている方は少なくて、自分ともう一人の男性の方以外はペアかカップルでした。あと、話を聞いている感じでは、そこまでウイスキー好きが集まるというよりかは、リキュール的なものを楽しみにくる方が多いように見受けました。お酒の楽しみ方は色々なので、自分も逆にジンやラム、メスカルといった他のお酒も少し勉強させてもらいました。 また、フードも充実しているようです。自分は頼んでいないのですが、「突き出し」(関西では「お通し」をこう言います)ででてきたのはミニクロワッサンに生ハムを載せたかわいらしいもの。ウイスキー専門バーだと、だいたいナッツとかの乾きモノくらいしか出て来ないので、これは新鮮です。地方のオーセンティックバーは、内装やフードなど初めての方にも楽しめる演出に凝っているところが多い気がします。都内とかは、専門で細分化され過ぎてしまっていて、分かっている方には天国でも、初めての方とかには少し難しいと思われる店も少なくありません。(もちろん地方にもそういった超マニアックのモルトバーもあります。実はこの香川県内にも「聖地」と呼ばれているところがあって、自分も一度だけ立ち寄らせて頂いたのですが、また自分が投稿するには恐れ多いのでまたの機会にします!) さて、バーに戻りましょう。先ずはキルホーマンとは何ぞや?というところを一応説明します。詳しくはホームページの蒸留所ページ(→キルホーマン蒸留所)を参照頂ければと思いますが、ここでは簡単に。キルホーマン蒸留所はアイラ島にある家族経営の小規模なクラフトディスティラリーです。その特色を一言でいうなら「モルト感(大麦)」。大地の蒸留所とでも良いでしょうか。アイラ島の他の蒸留所が海沿いに立地するのに対し、このキルホーマン蒸留所は内陸にあります。その意図するところはFARM DISTILLERY。要するにウイスキーの原料である大麦を自家栽培し、その大麦畑の中に蒸留所があるのです。この蒸留所を開設したのは、アンソニー・ウィルス氏。2005年の事で、アイラ島で新しく蒸留所が開設されたのは、なんと124年ぶりのことでした。 という訳で、このキルホーマンの特色は、なんといっても「モルト」だと個人的には思っています。もちろんアイラ独特のピート感もあるのですが、ラフロイグやアードベッグのような磯風のピートとは少し違うような気がします。やはりこれは内陸にあるので、潮風などの影響が少ないからなのかもしれません。因みにこのキルホーマンは大麦栽培からボトリングまでの全ての工程をワンストップで行っています。現在、ほとんどの蒸留所はモルトやボトリングなどの工程を外注に出して、発酵~貯蔵のメイン工程に特化している中でかなり珍しいと思います。要は100%テロワールといったところでしょうか。 という訳で、キルホーマンを飲むなら、自分が一番オススメするのは、100%自家栽培の大麦を使用した、「100%アイラ」(現状は、蒸留所で作る全ての大麦を賄うだけで生産できていない。将来的には全量を自家栽培にしたいようです)。ただし、今日は目の間にボトルを並べて頂いたので、そこから選んでみることにしました。先ずは、「LOCH GORM」(ロッホ・ゴルム)。キルホーマンのベーシックなラインアップの中で、最もシェリー感にあふれます。それもそのはず、熟成は100%オロロソ・シェリーです。バーボンが基調のキルホーマンにしてはかなり珍しいと言えるでしょう。 LOCH GORM 飲んでみての感想ですが、ボディのモルトにシェリー感が覆いかぶさっているような感じ。これまで飲んできたのでは確かに一番甘い。でも、個人的にはこの「覆いかぶさる」感が、要はうまくマリッジしてないように感じました。要は強烈なモルト感とシェリーがうまくマッチしてないのかなと。この辺は、個人の好みの範疇ですが、自分の正直な感想です。 という訳で、やっぱりバーボン熟成のものを頼みました。ヴィンテージ品のシングルカスクです。 Bourbon matured single cask (2011) 2011年蒸留の2018年ボトリング、なので7年熟成。50ppm。はい、案の定というか、めちゃストライクです!やっぱり、バーボン熟成がマッチしている気がしますね。次は、セカンドフィルのバーボンで10年以上熟成させたものとかを飲んでみたいなと思いました。アイラモルトは、アードベックやラフロイグだととにかく薬品のようなピートとスモーキーさがぶぁっとと口の中に広がるのですが、その代わりというか、あまりモルト感を感じにくいのかなと思います。キルホーマンは、ピートとモルトの両方のダブルパンチがさく裂します。これが爽快です。 さて、最後にちょっと口直し的に「ボウモア12年」を頼んでみました。近頃はコンビニとかでも小さな瓶に入ったのを見かけます。口に含んで思ったのですが、やはりかなりマイルドです。アイラ初心者向きですね。正直、どこでも目にするので頼んだ記憶が無かったのですが、実際にこうして飲んでみてコンビニやスーパーでも並んでいる理由が分かる気がします。アイラに抵抗感のある方や、ウイスキー初めての方でもトライできますね。逆にキルホーマンは、そういう意味ですと初心者の方にはパンチが強すぎるかもしれません。一発KOも有り得ます。(笑) Bowmore 12yo 蒸留所は、それぞれのこだわりで自らの味を作り出しています。伝統の味を守り続けるところもあるし、消費者目線で作るところもあるし、はたまた作り手のこだわりを前面に押し出すところもある。そういう意味では、キルホーマンは、キルホーマンですね。わが道を突き進む感じです。まだ若い蒸留所ですが、すでに様々なボトルをリリースしてきているようなので、これからもっと発見がありそうです。…

【埼玉】バー亀(久喜)

今回は仕事帰りに埼玉県の久喜のバーにお邪魔しました。 少し前まで栃木と勘違いしていましたが、久喜は埼玉県に位置するのですね。 先日、知人の方に体験談を話していて注意されました。 「久喜の人に怒られるよ!」。 大変申し訳ありません! とは言っても、土地勘の無い人には分かりづらいかもしれないので、 一応「どこか」というのを言葉で説明しておきます。 久喜は東北本線で大宮から宇都宮方向に電車で20分くらいのところです。 また久喜は東武伊勢崎線とも連絡をしていて、東武線の久喜駅のエキナカにはスタバや本屋さんがあったりします。 こうした地方のバーに行くというのは、行きつくまでに多少の不安があります。 特に今こういった状況なので、ホームページや連絡先が無いと、果たして本当に営業されているのか、わざわざ途中下車して開いてなかったらどうしよう、なんてことを考えたりします。 しかし、こういったこともある種の「ご縁」だと思い地図を頼りに目的地を目指してみました。 ところで今回辿り着いたバーは実際の目的地の手前にあり、間違って入ってしまったことを先に断っておきます。汗 (またまた申し訳ありません。) 途中のお店にウイスキーの空き箱のようなものが表のショーウィンドウに積んであるのを目撃。シングルモルトのウイスキーのバーがこんなところにも!と思い勇気を振り絞って店の扉を開けてみたのでした。 「勇気」といったのは、ちょっと店の感じから、本当にウイスキーのバーなのか?という確信が持てなかったのです。ですが、幸運なことにとても良いバーでしたので、今から体験談を語っていきたいと思います。 入ってすぐに感じた店の感じは、ちょっとした「秘密基地」みたいな感じでした。 すでに常連さんと思わしき方が座っていらしたので、とりあえずマスターに席を確認し、L字型のカウンターバーの真ん中くらいに腰をかけました。 何を頼もうか迷いましたが、目の前にあったアードベッグを一杯目にロックで。 Ardbeg “Wee Beastie” 5yo アイラのスモーキさを堪能したければ、ラフロイグかアードベック。(別にオクトモアとう化け物もあるのですが、こちらはとりあえず別枠にしておきます。興味のある方はぜひ試してみてください。) 酒屋さんで見かける定番は10年かなと思います。次に最近ではこのWee Beastieでしょうか。他にはAn Oa(アン・オー)、Uigeadail(ウーガダール)、Corryvreckan(コリーヴレッカン)などがあります。それぞれ熟成樽の違いで、アン・オーはシェリー・バーボン、新樽のトリプルカスクでバランス系、ウーガダールはシェリーで甘さとスモーク、コリーヴレッカンはフレンチオークでスパイシーさが特徴。この辺は専門の酒屋さんとかでないと見かけないかもしれません。 今回頂いたのは5年のWee Beastieと言われる銘柄。若さのあるスモーキーさかなと。なんというか瞬発系というのでしょうか。そういうイメージがあります。最初からガツンと来るような。スコットランドの言葉で「リトル・モンスター」という意味だそうで、小さいながらも手を付けられない強烈なインパクトを表現したようです。後で確認したオフィシャルページにも「ストレート」がオススメと書いてありましたが、初めての一杯でついついロックにしてしまいました。それでも味はアードベッグらしさが十分に伝わってきました。アードベッグのラインアップは全体的に熟成年数が若い印象ですが、これは「5年」。たったの「5年」でこれだけの爆発力が出るとは驚きです。次回はぜひストレートでも試してみたいと思いました。 さて、次に気になったのが同じく手元に並べてあった「アラン」のピート。…

【栃木】bar as ever(小山)

今回の訪問先は栃木県の小山市。仕事帰りに足を伸ばしてみました。先日訪れた足利のバーのマスター曰く、この小山が今は栃木県の中では「熱い」(実質的に経済的にも工場誘致などに成功し、人口も増加傾向なようです)とのことで、勢いのある街に繰り出してみました。 ところが最初に目をつけていたお店の灯りが無く、もう1度Googleで調べ直して辿り着いたのが今回のお店、東口から少し歩いたところの「Bar as ever」さんです。 お店はまだ開業2年の若いお店、当然ながらマスターもお若い感じの方でした。インテリアもいわゆる「今風」にシックな感じでとても良い印象を持ちました。 お店はカウンター席の他にテーブル席も。夜中の3時まで営業されているそうで、お一人でもグループでも利用できそうな雰囲気です。 こちらのバーですが、いわゆるモルトバー的な品揃えではありません。ですが、シングルモルトの基本的なラインアップを小さな棚にコンパクトにまとめています。 そこまでニッチなものや掘り出し物できなくて類いは期待できませんが、ベーシックはバッチリ揃えてあるので、ウイスキー好きの方でも十分に楽しめるかと思いました。 こちらの店の特徴ですが、これはなんといっても店内の演出ではないでしょうか。ウイスキーバーというと狭苦しい店内にウイスキーのボトルが所狭しと並んでたりするお店もあります。 もちろんそうした店も秘密基地的な味があって楽しいのですが、やっぱりもう少し違った「余裕のある」楽しみ方があっても良いと思うにです。それがズバリこちらのバーです。 目玉は何と言っても「円盤」、すなわちレコードのミュージックです。 ウイスキーの楽しみ方というのは、その味わいだけには限りません。それを賞味する、場の雰囲気も大切だと思うんです。これだけでも味は全く異なった印象になると思います。 確かに真剣に全神経を研ぎ澄まし、ウイスキーの香りを嗅ぎ、口の中に含んではそれを転がすようにして味を楽しむのも醍醐味ではあります。 でも、時にはただ流れる時間に身をまかせながら心を無にして、ただそこにあるものを「楽しむ」というも有りかなと。そんな空間をこのバーは提供してくれます。 エアコンには温度調整のリモコンがありますが、このバーには音楽を流しながら時間の流れを調整できるような、そんなリモコンがありような気さえしました。 さて、そんな調子でノンビリと寛いでしまったので本日の写真はこの1枚だけ。最後に今日頂いたボトルを、敢えてレコードの棚を背景に写させてもらいました。 バーカウンターから 1杯目は「C.C(シー・シー)」。これを先ずはハイボールで。(これをシーシー・ソーダともいうようです)。因みにシー・シーは、シーシーレモンではありませんよ。(笑)もちろんウイスキーです。カナディアン・ウイスキーの筆頭、「カナディアン・クラブ」の頭文字の略称です。 カナディアン・ウイスキーはスコッチから見るとかなり変わったウイスキーです。グレーンウイスキー(大麦以外の穀物を原料としたウイスキー)の一種であるアメリカの「バーボン」に近いですが、それとも少し違います。 簡単に言うと、バーボンベースのウイスキーにライ麦主体のフレーバリング・ウイスキーを合わせた「ブレンド」が一般的です。 このカナディアン・クラブはハイラム・ウォーカーにより1858年、当時の主流であったスコッチやバーボンと一線を画す新たな風味を探求したウイスキーとして誕生しました。 その特徴はライ麦由来の香味がスパイスとしてほんのり効いた甘みのあるバーボン、と言った感じでしょうか。これはやはりスコッチウイスキーとはかなり違います。飲み口も良く、ソーダ割りでも十分に楽しめるキャラを持っています。ロックで飲めばもっとライ麦に香味が楽しめたのかもしれません。融通が効くウイスキーということで、初めての方にもオススメです。 マスターの話ですと、ソーダ割りだとそこまで主張しないウイスキーが好まれているようです。スコッチだとバランタイン、アイリッシュのジェムソンなんかも人気のようですね。 さて、次は本名のスコッチを頼みました。ハイランドの「トマーティン」。この蒸溜所は「松竹梅」のお酒で知られる日本の「宝酒造」と繋がりがあります。 1980年代、同社は当時経営難に陥っていたトマーティン蒸溜所に出資。日本勢で初の蒸溜所のオーナーとなりました。その後は日本向けの輸出に力を入れるなど、国内でのスコッチウイスキーの知名度を上げることに寄与してきました。(現在、宝酒造さんは撤退され、食品大手の国分さんが輸入代理元となっているようです。) このトマーティンの味は如何なるものか?実はトマーティンを飲むのはこれが初めてではないのですが、ハイランド系はなんとも表現がしづらいのです。恐らくものすごくクリアでシャープな味がベースにあって、樽由来の風味とかもそこまでインパクトがないものが多く、強いていうなればウイスキー本来の「穀物=大麦」感が表現されているからでしょうか。 この12年については他の方のレビューも拝見してはみたのですが、自分が一言で言うなら「モルト」の感じですかね。麦芽が発酵したときの香りとでもいうのでしょうか。それをテイスティングしたときのボディに強く感じました。 一応、悩んだときはほかと比べてみるのが一番と言うことで、トマーティンを取り出した棚の後列にあった「アバフェルディ12年」と最後に飲み比べ。 アバフェルディはよく見かけますが、自分は今回が初めて。ブレンドスコッチの「デュワーズ」のキーモルトとして有名。こちらは他にレビューと同様に甘い感じ。「豊潤な蜂蜜」とまで形容しているものも。とても飲みやすいです。「甘い」と言っても、バーボンの甘さとスコッチの甘さはちょっと違います。これは本当に飲んで体感していただく他ないのですが、例えるならバーボンはチョコレートのように舌に残る感じ、スコッチはどちらかと言うと「通り過ぎる」スッキリした感じです。 こんな感じでノンビリとゆっくり杯を重ねていたら、早や帰りの時間が近づいてきました。日帰り出張だとどうしようもありません。最後にマスターにちょっと質問をしてみました。…

【東京】the TRAD(上野)

本日は久々に東京の北の玄関口とも言われる上野に来ました。 ところで、「上野」というのは、皆さんはどういう印象を持たれているでしょうか? 浅草の玄関口であったり、動物園であったり、アメ横であったりと色々な顔のある町かなと思います。自分にとっての上野というのは鉄道(JR)の「ターミナル駅」(終着駅)という印象が未だに強いです。 とは言っても鉄道好きか、ある年齢層より上の方でないと、もうピンと来ないかもしれませんので簡単に説明します。 昔、(こんな表現をすること自体、時の流れを感じてしまいますが)、上野駅というのは東北方面に発着する、恐らくすべての列車の起点(=終点)となる駅でした。 現在はといと、新幹線は東京が始発になり上野は途中駅、在来線も東海道線との直通運転。このため、「上野行き」という列車は非常に稀になりました。 でも一昔前は、東北・上越の新幹線は上野が始発駅でしたし、在来線の普通電車も上野が始発でした。 また、今はもう無くなってしまいしてしまいましたが、昭和の時代は、上野発の夜行寝台列車「ブルートレイン」が全盛期で。夜になると多い時には数分置きに東北方面へ長距離列車が旅立っていきました。 なので、今でいうところの「飛行場」のような感じで、上野駅というのは大きな荷物を抱えた人たちが集まる、旅情感満載の「駅」というイメージが自分の中にはまだあります。 もちろん、今でも時々地下ホームに降り立つと、往時の雰囲気を感じることがありますが、在来線が直通運転になり、ブルートレインも廃止されてからは、「旅情」を感じることは少なくなってしまいました。 でも上野の街から活気が失われた訳ではありません。駅の周辺の名所は、今まで通り活況があります。特に駅の西側にある上野公園は博物館や美術館がたくさんあり、緑も多く、駅前の雑踏から解放されます。 近くを散策してみましたが、古い様式の独特な建物が多いことに改めて気づかされました。さながら、建築博物館のようでもあります。近くには東京学芸大学や、東大もあります。国立の大学は敷地が大きくキャンパスの中を散策するのも楽しいのですが、残念ながら今は「関係者以外入門禁止」の貼り紙が。 さて用事を済ませたところで、帰り際にどうしても一杯飲みたいものがありました。上野・湯島にあるオーセンチック・バーTRADさんのアイリッシュ・コーヒーです。 先日読んだ村上春樹の『もしも僕らのことばがウイスキーで会ったなら』という本。 スコットランド・アイラモルトのことについては前回述べましたが、隣のアイルランドにも訪問されています。アイルランドといえば、アイリッシュ・ウイスキー。 これは世界5大ウイスキーのひとつに数えられるばかりではなく、ウイスキー発祥の地としても知られています。かつては世界最大のウイスキー生産国でもありました。 それではアイリッシュ・ウイスキーとは何か? スコッチと何が違うのか? 原料が大麦であったり、単式蒸留器を使ったりと、基本はスコットランドのシングルモルト・ウイスキーとほぼ同じですが、一部の工程が違います。 簡単に言うと、スコッチは蒸留工程、つまり発酵してできたお酒(醪)を加熱してスピリッツにする作業、が2回ですが、アイリッシュは3回行います。(細かく言うとスコッチでも3回行っているところもあります。) また、通常のモルトウイスキーとは別に、「シングルポットスチル」という未発芽の麦芽を使ったアイルランド独自のウイスキーもあります。 このような違いによって生み出されるウイスキーの特徴は、どんなものか?ということですが、自分は当初は少し飲みにくいウイスキーなのかなという感じがありました。昔からの伝統にこだわる少し古臭いイメージしかなかったのです。 今回こちらのバーでそのアイリッシュ・ウイスキーの銘柄をいくつか飲ませて頂きました。飲んで驚いたことですが、「まろやか」であるということです。正直びっくりしました。 この驚きを例えて言うなら、お昼のランチにお店を探していて、なんとなく外見から頑固おやじが切り盛りをしている定食屋に仕方なく入ってみたら、意外にフレンドリーな対応に好感を持ってしまったときの感じ、とでも申しましょうか。(笑) 隣で同じようにアイリッシュを飲まれていた方がうまいことをおっしゃいました。 「日本酒みたい」。 いや、全くその通りだ!と思いました。これは日本酒です! (でも日本酒は有りません、アイリッシュ・ウイスキーです。度数も40度超えています。) でも日本酒のようなまろやかさが確かにあります。それはあの「獺祭」の様な、透き通る感じではなく、「灘の酒」のような辛口というものでもなく、例えるなら、地方の田舎の町を訪問したときに偶然出会うようなまったりとした「地酒」のような感じです。 香りの芳醇さ、フルーティさでいえば、スコッチのスペイサイド系の感じも確かにあります。…

村上春樹さんの『もし僕らのことばがウイスキーであったなら』を読んで、

村上春樹さんの『もし僕らのことばがウイスキーであったなら』という本があります。『ノルウェイの森』や『海辺のカフカ』など(古くてスミマセン)大作が色々とありますあ、こちらの紀行文はあまり知られていないのかなと思います。平易な言葉の連続で、本当に種も仕掛けも無いのに、読み進めていくうちに完全に虜になっている。不思議な本です。 この小さな旅行記もまさにその氏の魔法的な性質を十分に宿したものだと思いました。答えは本当に単純なのです。氏は冒頭でこう宣言しています。「ささやかな本ではあるけれど、読んだ後で(もし仮にあなたが一滴もアルコールが飲めなかったとしても)、ああ、そうだな、一人でどこか遠くに行って、その土地のおいしいウイスキーを飲んでみたいな、という気持ちになって頂けたとしたら、筆者としてはすごく嬉しい」 はい、当にそういう気持ちになりました。読み終わった後に、居ても立ってもいられないような、すぐにでも飛行機で旅立ちたいような。それぐらいに、自分の心をズバン、ズバン、と打ち抜くものが、この文章には詰まっていました。 この本ではスコットランドとアイルランドが紹介されていますが、こちらのホームページはスコッチウイスキーを一応メインに据えているので、スコットランドの部分だけを切り出して少し紹介できればと思います。 スコットランドの部分に関してですが、内容は全てアイラ島での話です。アイラ島というのは、スコットランドの西側にある島々の中のひとつの島で、ウイスキーの生産地として古くから有名です。 この島のウイスキーはモルトを乾燥するときに使う泥炭(ピート)の香りが特徴的で、スコッチファンの間でも、好みが分かれるところかと思います。個人的にはクセのある味わいというのが好きなのタイプなので、自分は最初から抵抗がありませんでした。むしろ、その特徴に惹かれて好きになったくらいです。 まずは次の箇所。これはアイラ島の最初の紹介の場面です。アイラ島は辺鄙な場所にあり、天候も厳しく、観光名所と呼ばれるものはほとんどない。それにも関わらず、この島を訪れる人がいる、とした上で次のように続けます。 「暖炉によい香りのする泥炭(ピート)をくべ、小さな音でヴィヴァルディのテープをかける。上等なウイスキーとグラスをひとつテーブルの上に載せ、電話の線を抜いてしまう。文字を追うのに疲れると、ときおり本を閉じで膝に置き、顔を上げて、暗い窓の外の、波や雨や風の音に耳を澄ませる。」(pp. 22-23) まさに「英国人的な」余暇の過ごし方なのかと思うとともに、このようにしてウイスキーを楽しむものなのかと強く胸打たれました。 アイラ島のシングルモルトは、それぞれが個性の塊。アイラのシングルモルトといえば、「有難い教祖様のご託宣のようなもの」との表現には、思わず微笑みがこぼれました。もともとはブレンドウイスキーを作るときの隠し味的な要素ととして使われており、原酒そのものを楽しむというのは島の中だけのことであったようです。それが昨今のウイスキーブームなどによりその個性的な味わいが評価され一躍有名に。今では世界中からウイスキーファンが「巡礼」に訪れるようになっています。 小さな島の中で、各蒸留所がそれぞれの個性を維持し続けるとはどういうことなのか?そのことを次のように説明しています。 「それぞれが自分の依って立つべき場所を選びとり、死守している。それぞれの蒸留所には、それぞれのレシピがある。レシピとは要するに生き方である。何を取り、何を捨てるかという価値基準のようなものである。何かを捨てないものには、何も取れない」(pp. 38-39) 後半では、ボウモア蒸留所を訪れた際のことが書かれています。当時の蒸留所のマネージャーであったジム・マッキュアンとの対話が印象的です。ジムは樽職人の仕事から始めたそうですが、樽熟成の様子を次のように語ります。 「アイラでは樽が呼吸をするんだ。倉庫は海辺にあるから、雨期には樽はどんどん潮風を吸い込んでいく。そして乾期(6~8月)になると、今度はウイスキーがそいつを内側からぐいぐいと押し返す。その繰り返しの中で、アイラ独特の自然なアロマが生まれていく。」(p.42) アイラウイスキーの特徴ともいえるのが「磯の香」。 この島は一年を通して風が強いため、島の至る所にその匂いがしみ込んでいるそうです。それを「海藻香」と島の人は呼ぶそうです。泥炭(ピート)も、その土地の特徴によって香りが異なりますが、アイラモルトはこの磯の香りがのったピート感が特徴的(※)。この独特な香りは初めて飲まれる方には、少し驚かれるものかもしれません。 ※厳密にはアイラ島の蒸留所すべてがピートっぽいわけでなく、ピートを焚かない蒸留所もあります。 しかし、あなたがアイラ党(アイラが好きになるか)かどうか、このようにユーモアある表現で説明されています。 「一くち飲んだらあなたは、これはいったいなんだ?、とあるいは驚かれるかもしれない。でも二くち目には、うん、ちょっと変わってるけど、悪くないじゃないかと思われるかもしれない。もしそうだとしたら、あなたは、かなりの確率で断言できることだけれど、三くち目にはきっと、アイラ・シングルモルトのファンになってしまうだろう。僕もまさにそのとおりの手順を踏んだ」(p.46) アイラのウイスキーの特徴は、「土地の香り」を明確に感じることができるシングル・モルトだという点です。具体的にそれは、磯の香をたっぷり含んだ泥炭(ピート)の香りであると、言い換えることもしれません。しかし、アイラの中にある蒸留所は、その同一条件でも、さらにそれぞれに個性があります。それは恐らく各蒸留所の微妙なレシピの違いであり、その伝統を純朴に今に至るまで守ってきた結果であると思います。 アイラウイスキーの特別な味の正体は何なのか?。最後にもう一度ボウモアのジムに問いかけます。ジムはその味を決める上で、島の水やピート、上質な大麦などの要因が間違いなくあるとしたうえで、次のように答えます。 「いちばん大事なのはね、ムラカミさん、いちばん最後にくるのは、人間なんだ。ここに住んで、ここに暮らしている俺たちが、このウイスキーの味を造っているんだよ。(中略)それがいちばん大事なことなんだ。だからどうか、日本に帰ってそう書いてくれ。俺たちはこの小さな島でとてもいいウイスキーを造ってるって」(p.65) 新潮文庫(1999)

【栃木】BAR×BAR×BAR WATARASE(足利)

今日の訪問先を語るにあたってまずお見せしたいのはコレです。 夕陽がまた素敵だった! ものすごく素敵な景色ですよね?! でも北海道とかじゃありません、完全に関東圏内です。場所は栃木県の足利市です。 雑居ビルの5階だったかと思います。店の看板すらありませんでした。オーナーのこだわりのようで、敢えて出してないとのこと。意外性という意味では憎らしいほどの演出です。 ビルを上がるエレベーターも昔の旧式のもので、ゆっくり、ゆっくりと上がっていきます。 因みに上昇中にも外が窓を通して見えるようになってました。恐らくこのビルとエレベーターができた時は、最新式だったのだと思います。 この感じ。もうこのブログをいくつか読んでらっしゃる方にはお分かりかもしれませんが、私の大好きなノスタルジック昭和です。 そもそも、この足利という街自体が少し昭和ノスタルジーの遺跡のような感じです。このバーの開店まで少し時間があったので街中を散策していた時に撮ったのがこちらの写真。 時が止まったままの劇場(映画館) ただの廃虚じゃないかって?いや、私にはこのくらいが丁度良い感じです。笑 廃墟マニアという訳では無いのですが、その毛は多少あるものと自覚はしています。時間の中に溶け込みながら往時を少し偲ばせるような佇まいがとても惹かれます。 なんですかね。ものすごく安心してしまうんです。こうして時の流れるままに身を委ねられる建物が存在する、そのような街はある程度の「器の持ち主」であると思います。 それもそのはず、この足利というのは平安時代から存続したと言われる学府「足利学校」を擁した地。当時は関東の最高学府であったそうです。もちろん江戸とか東京とかのずっと前の話です。 明治以後も一時は栃木県の中で、県都のある宇都宮に次ぐ2番目の人口を誇りましたが、時代の流れとともに周辺地域の開発(郊外型ショッピングモールなど)により繁華街が廃れてしまい、現在は閑散ととした状況。デパートも複数あったようですが、今では見る影も有りません。しかし、街の各所に点在する寺社仏閣の多さは目を見張るものがあり、その価値は全く色褪せていないように感じました。 さて街の観光案内はこれくらいにしておきますそろそろお店の扉を開けましょうか。 因みに玄関にも看板はありませんでした。一瞬本当に営業してないのかと思いましたが、消毒用のスプレーが置いてあり、なんとなくコレは店の方針だろうと解釈してインターホンを鳴らしました。 少し間を置いてから扉が開かれました。店に通されたら第一印象。え、ここは何処?! インテリアが凄すきます。さっきの街の感じと全く噛み合ってません。笑 都心の繁華街にある隠れバーに、どこでもドアで通された感じです。 そう考えて今までのことを逆戻しして、もう一度再生してみました。普通の街、どちかというと寂れた繁華街、そしてたどり着いた雑居ビルの一階、看板もない、とりあえずオンボロにエレベーターで上に、またもや何の挨拶もないただのドア、その横にアルコールひとつが暇そうに置かれている。 全ての期待を裏切り、不安感がクライマックスに到達したところで開けられた魔法の世界。洗練された内装、垢抜けたバーカウンター、綺麗に並べられたボトル、そして窓から見える優雅な景色!渡良瀬川が静かに流れ、視界を遮るものは何もありません。 いやいや、これは反則でしょう!こんなところで!あ、失礼しました。地方都市を、そして足利市を見下している訳では無いのです。お許しください。全く心の準備ができていなかったもので!汗 正直申し上げてこのようなバーに出会えたことは全くの「想定外」であったことは告白します。潔く。 さて、想定外ばかりが続きます。こちらのバーマスターがまさにその張本人です。なんとバーテンダーの大会で優秀な成績を収めただけでなく、コーヒーのバリスタの大会でも好成績を収められたとのこと。 因みにバーテンダーとは、バーでカクテルなどのお酒を作る人のこと。よく金属の水筒のようなものをシェイクして、シャカシャカ音を立てている格好良い感じの人がいますよね。 バリスタとはお酒ではなく、こちらはコーヒーのスペシャリストになります。エスプレッソマシンの使い手のような感じです。 片方だけでも難しいと思うのですが、両方とは凄すぎます。しかも店の内装とかも全て自己流アレンジだとのこと。何でもできるスーパーマン・タイプですね。恐れ入りました! さて、恐れ入ってばかりでも始まらないので、飲み物を頼みます。ここはどうやらジンをベースにしたカクテルが看板商品の様子。 とりあえず一杯目はマスターお任せのカスタムアレンジのカクテルを注文。こちらの味の好みなどを伝えれば、それに合ったカクテルをオリジナルに即興アレンジしてくれると言うもの。…