2010年にマット・ホフマンらによって創業したバーボンの地、アメリカでモルトウイスキーを作る蒸留所。蒸留所運営のアプローチは「西海岸スタイル」で、創造性、革新性、透明性をモットーとしている。彼の語る「NORTH WEST」は、ウイスキーの生産地の特色を前面に出すと同時に、起業家精神が旺盛な同地のアイデンティティも指しているように思える。

ウイスキー作りにおいては、蒸留所が立地するワシントン州のテロワールを最大限に活かす取り組みをしている。すなわち、地元産の大麦であったり、乾燥用のピート、樽を作るオーク材に地元固有の種である「ギャリアナオーク」を使う試みをしている。

農家との関係づくりにおいては、単なる原料の仕入れ先としての位置づけではなく、協業先として信頼を築くアプローチをしている。その上で、新たな麦の品種への挑戦などに共にチャレンジ。生産高のみを重視する従来のやり方ではなく、持続可能で環境にも優しい農業を目指している。このアプローチは地元産オークにおいても同じであり、希少品種となってしまったギャリアナオークを護るために森林保護にも取り組んでいる。

スタンダードな商品としては、アメリカンオーク、シェリー、ピートの3種。その他に、OUTPOSTという新たな商品群を計画しており、ギャリアナオークを使用したGARYANA、Alba barley(※)などの大麦を使ったCOLERE、そしてローカルピートのピートウイスキーSOLUMである。2020年の11月から順次リリースされる予定である。

※通常ウイスキーには2条大麦が使われるが、これは6条大麦。その他にも20種以上の品種の大麦の可能性を研究しているようです。

バーボンのアメリカにおいてモルトウイスキーの歴史は無いに等しい。モルトウイスキーを作る蒸留所もいくつかは存在したが、アメリカにおいてその定義はあいまいでブランドも確立しなかった。ホフマン氏らは、シングルモルトウイスキー「AMERICAN SINGLE MALT」の位置づけを明確にし、同様にシングルモルトウイスキーを作る蒸留所とともに業界団体を結成。現在は170か所以上のモルトウイスキーの蒸留所がアメリカで稼働している。

2016年12月、ウエストランドは仏レミー・コアントロー社に買収された。しかし、大規模資本の傘下に入るも両社の関係は良好だと言われている。それは同社が、ウイスキーなどの愛好家が今後「価格」以外の要素ではなく、こうしたウエストランド蒸留所の取り組みに新たな「価値」を見出すと考えているからに他ならない。ウエストランド蒸留所は自らの個性をこれからも最大限に引き出しながら「自分たちのウイスキー」と「価値観」をこれからも表現していくだろう。

“More and more, the concepts of authenticity and ‘doing right’ and sustainability all become as much a part of the equation as the flavor and the price, and that’s where we operate.”(M.Hoffman)/thecounter.org

「正しくビジネスをやるという考え方や、サスティナビリティ(持続可能性)への関心は、(ウイスキーにおける)味わいや価格と同様にこれから益々重要なものになる。われわれはそうした世界観に立って仕事をしている。」(マット・ホフマン氏)