埼玉県で蒸留所といえば、もちろん、イチローズモルトの秩父蒸留所が真っ先に想像できるのですが、埼玉の小江戸として有名な川越近郊にクラフトジンを作る蒸留所があると聞いて立ち寄ってみました。どうしてこの蒸留所を知ったかというと、埼玉アリーナで開催された物産イベントでこちらの会社さん(㈱マツザキ)が出店をしていたからです。直接お仕事の上では関係が無いのですが(m(__)m)、興味本位でブースに立ち寄り、その場に居た方と話をしてみた次第。そしたら、なんと川越でクラフトジンを作られているということを(おそらく社長さんから)紹介されまして、初めて「棘玉」というクラフトジンのことを知ったという経緯です。すでにIWSCなどの国際コンペでも賞を獲得すrほどの評価があるのですが、クラフトジンを作り始めたのは最近のようです。本業は酒屋さんで1887年(明治20年)創業の老舗。クラフトジンを作る蒸留所があるのはその酒屋の敷地の中にあります。「武蔵野蒸留所」と呼びます。地域環境保全の観点から武蔵野の森を守る活動もされているということ。クラフトジンの原料となるジュニパーベリーの植林にも挑戦されているという話もお伺いしました。
そんな話を展示会のブースでお聞きした後です。川越に用事があって出かけた際、足を延ばして蒸留所のある場所に立ち寄ってみました。「中福本店」という酒屋さんがあり、その裏手が林になっていて、その中に小さな蒸留所を見つけました。一般向け非公開ということで、中の様子を見ることはできなかったのですが、いかにもクラフトな感じの趣がありました。社長さんが直接酒造りをしているのかと思いきや、キーマンはこちらの記事を見て知ったのですが、社長の息子さんのようです。特徴としては、地元産のボタニカルを活用した川越産のジン造りを目指しているとのことです。ご存じの方もおられるかと思いますが、川越近郊といえば「狭山茶」(実は狭山茶とうのは川越茶から派生したものだそうですが)。他にも、山椒(さんしょう)だとか、越生(おごせ)のゆずだとか、近隣のボタニカルを使って独自のテロワールを表現しようとしているようです。そして、その目玉となるのが、敷地内に植えられたジュニパーベリーの木。日本でジュニパーベリーが育つなんて知りませんでしたが敷地裏の林に生育している若木を見つけました。もしかしたら何年か後に川越産のジュニパーベリーで造られた、川越オリジナルのクラフトジンができる日が来るのかもしません。
裏手の林は散策道にもなっていていました。休憩ができるベンチも用意されていて地元の方々にも開放されているようです。こちらの酒屋さんは昔からこうした環境保全活動をされているようです。日本ではまだまだ「環境」をテーマとした酒造りは目立った動きにはなっていないような気もするので貴重な取り組みだと思いました。同時に、こうした動きがさらに広がっていってほしいなとも思います。お酒とはいっても穀物などの食物がベースになっているわけで、自然のオーガニックが母体。野菜や果物は有機栽培などがとてももてはやされますけれども、どうしたわけかお酒はあまりそこのところがクローズアップされず、「フレーバー」のみが注目されてしまっているような気がします。熟成した蒸留酒などはもちろん穀物感というのが埋没してしまうことも多いのですけど、スコッチの本場やアイルランドなどでは(実は原料の大麦を農業大国のフランスから大量に輸入している現状の問題意識もあるのかもしれませんが)テロワールにこだわる動きや地場で育った大麦を使っていることをクローズアップしているケースが最近増えているような印象を受けます。イチローズモルトの秩父蒸留所も地元産の大麦使用に力を入れているようですし、国産オークのミズナラ樽を自社で作るなど、そのフレーバーだけでなく地元のテロワールや環境を意識した酒造りをされていと聞いたことがあります。マツザキさんも同じ県内ということで、イチローズさんとも交流があるとの話。環境に配慮した酒造りが埼玉県から育まれていくというのはとても面白いです。立地的には都内からも非常に近く、西武新宿線の特急であれば1時間程度です。マツザキさんは新宿にも店舗を構えられているので、今後さらに人気が出てくるのではないかと思います。最近は焼酎などでもライチ香りが特徴な「DAIYAME」など国際コンペで受賞して認知度が上がったりと、ウイスキーや日本酒、ワインに限らず、世界的に注目される地元に根差したローカルな醸造所や蒸留所に元気があります。もしかしたらお住いの地域にも人知れずその界隈で注目されているようなところがあるかもしれませんね。
Share via: