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ピートウイスキーが無くなる?

whiksycastの2月19日付の放送は「The Barrel Problem」というテーマでした。もうタイトルを聴いただけで内容はおおよそ想像できるのですが、昨今のバーボンブームとクラフトブームでアメリカンオークの新樽需要に樽の供給が追い付かないという話。ご存じの通り、バーボンはアメリカンオークの新樽をチャーしたものを使用することが法律で決められています。しかし、その大元となる森林資源は限られており、需要が増えたからといって簡単に増やせるものでもない状態。また、樽職人だけでなくオークの木を伐りだす職人も家族経営の小さな業者が多く、危険を伴う仕事であることから若い世代に人気が無く後継者問題にも悩まされている状態とのこと。自前のクーパレッジを持ち樽を管理しているブラウンフォーマン社でさえ足りない分を他から買い足しているような状況で、小さなクラフトディスティラリーはお酒を作ってもそれを熟成させる樽が調達できないということで悲鳴を上げているのだとか。ホワイトオークの森林資源に関する危機的な状況は以前にこちらのブログでも取り上げたので、そこも見てもらえればということで、今回はスコットランドのピート問題の気になる話題についてです。こちらも以前にチラッと取り上げた記憶があるのですが、当時は半信半疑でした。しかし、それがいよいよ本格的な流れになってきているようなのです。

泥炭としてのピートを考える。

スコットランド政府は「ピートの採掘禁止」について民意調査を開始したというのです。ご存じのとおりですが現在のスコットランド政府は、スコットランド独立を目指すスコットランド国民党が率いており、スコットランド政府の長は同党の党首二コラ・スタージョンです。ウイスキーのピートというと、もうこれは説明をする必要もありませんが、ラガブーリンやラフロイグなど独特のピート臭で知られるアイラモルトに代表される通り、スコッチウイスキーに欠かせない要素です。スモーキーな香りとフレーバーは、モルト加工をする際にピートを焚くことで生じるもので、愛飲家のなかでも好き嫌いは分かれるかもしれませんが、スコッチウイスキーの聖地とされるアイラ島のモルトウイスキーとそのピートは切っても切り離せないものと言えるのでないでしょうか。そのピートが採掘できなくなると、当然のことながらピートウイスキーの生産ができなくなってしまいます。これはピートウイスキーという一つのジャンルがスコッチウイスキーの中から消滅することを意味します。このためすでに著名なウイスキー評論家からは懸念の声が出ています。

そもそもピートはウイスキーのモルティングにも使われますが、その主要な用途は堆肥として園芸やガーデンニング向け用途がほとんどを占めるといわれています。ピートのモルティングとしての使用は1%程度ともいわれており、全体に占める影響は微々たるものであるというのが実態です。TheNational(スコットランド)の2月18日のネット記事によれば、現在の政府の計画によると、まずはガーデニング向けの使用を禁止して、その後に他の産業向け使用についても同様の措置を拡張していくというのものだそうです。この意図はスコットランドの湿地帯の環境保全であり、ピートランドは同じ面積で比べても森林の倍以上の炭素を蓄える能力があるといわれています。ピートを採掘するということは、蓄えられている炭素を排出することになり、気候変動の問題にも大きな影響を与えることになります。スコットランド政府として、ピートの採掘禁止は環境保全の政策を進める上でも欠かせないもので、2.5億ポンドを投じて2030年までに25万ヘクタールのピートランド復元を目標としているほどです。環境大臣のマイリ・マカランは「ピートランドはスコットランドの面積の3分の一を占め、文化的にも自然的にも重要な財産であり、良い状態で保つことで気候変動を抑止し、地域の環境保全の仕事を支えることができる」としており、スコットランド政府と国民党の環境問題に関する取り組みは非常に熱のこもったものがあるようです。この動きで真っ先に影響を受けるであるのは園芸関係ですが、こちらも業界としては環境保全から理解を示しているようで、すでにピートの代替材利用を進めており、ピート採掘廃止の動きは自然環境の保全の観点から賛同するものと思われます。そうなると、たとえ1%とはいえピートを利用しているスコッチウイスキー業界がこの動きにどう対応していくのかというのは今後注目されていくでしょう。

経済的な観点からすれば、スコットウイスキーの業界はスコットランドに大きな貢献をしてきていることは事実です。それはただウイスキーを販売することだけにとどまりません。ウイスキーを生産する蒸留所とそれに関連して働く人々の雇用を生むだけではなく、世界中のウイスキーファンを蒸留所に呼び込み観光客向けの需要も創出しています。イギリス全体で見てもスコッチウイスキーは重要な「輸出品目」であり、スコッチウイスキー協会(SWA)の調べによると、昨年(2022年)のスコッチウイスキーの輸出総額は60億ポンドを超え、数量ベースで21%増、金額ベースでは37%増であった報じています。(→“Scotch Whisky Exports Over £6bn for First Time”)スコットランド政府の関係閣僚もこの快挙について祝福し、食料品加工の産業がスコットランド経済にとって重要であり、その中でもスコッチウイスキー業界が多大な貢献をしていることを認めています。このように、環境保全問題が取り上げられる中で、スコッチウイスキー産業の経済的な価値も当然のことながら認識をしているわけで、今後スコットランド政府とスコッチウイスキー業界団体で、ピート採掘やその使用についてどのような展開になっていくのか、引き続き注目をしてきたいと思います。

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