今回はカナディアンウイスキーの話題をお伝えします。Whisky Cast(Episode988号)を聴いていたら、毎年1月にカナダの西海岸、ビクトリアで開催されているウイスキーフェスティバルの模様が紹介されていました(ビクトリアの位置は以下の地図を参考ください)。その目玉は最優秀賞であるウイスキー・オブ・ザ・イヤーに「サンズ・オブ・バンクーバー」というまったく無名の蒸留所が選ばれたことにあります。今回はその話題について紹介していこうかと思いますが、とりあえずその前にサラリとカナディアンウイスキーについて復習をしておこうかと思います。カナディアンウイスキーとは何か?という問いなんですが、「カナダで作られたウイスキー?」。まあ、たぶん正解には違いないのですが、もう少しだけ教科書的な定義の確認をしておきたいと思います。
簡単に特徴を要約すると、スコッチと違い原料はモルトというよりライ麦とかコーンが使われます。Barrel365さんのページからの引用ですが、「ライ麦主体のフレーバリングウイスキーと、トウモロコシ主体のベースウイスキーの2つをブレンドするという、一般的なカナディアンウイスキーの製法でつくられています。」とのことです。バーボンはメインがコーンなので、バーボンともちょっと違う感じで、ドライでさっぱりした感じが特徴なのかと思います。有名ブランドとして、カナディアンクラブとクラウンローヤルの2強でしょう。どちらも発祥は東部オンタリオ州で、五大湖の対岸のあたりになります。カナディアンウイスキーはもともとは米東部の影響を受けて誕生し、アメリカの禁酒法(1920~33年)の時代に、その代替需要として発展したというのがざっくりとした経緯になります。
主に東部で発展してきたカナディアンウイスキーの歴史から見て、西海岸のバンクーバーにある新しいクラフト蒸留所が、カナディアンウイスキーの最優秀賞を獲得したというのは、地理的なことを考えると非常に面白いのでないかと思います。カナディアンクラブやクラウンローヤルに期待するような、ライ麦をベースとしたスパイシーさのあるオーソドックスなウイスキーが定番のイメージですが、西海岸の遊び心にあふれるクラフトウイスキーによって多面的な、新しい展開を迎えようとしているのでないかということです。アメリカの西海岸にはすでにいくつかのチャレンジ精神に溢れるクラフト蒸留所が誕生し、成功を収めています。ウエストランド蒸留所やウエストワード蒸留所(→リカマンさんの紹介記事)などです。特に興味深い流れとして、「アメリカン・シングルモルト」という独自のブランドを確立しようとしている動きは特筆に値します。(→詳しくはこちらの記事など参照)今回、最優秀賞を受賞した「パームツリー&トロピカルブリーズ」はその名前から想像できるようにラムカスクのウッドフィニッシュで味わいの深いカスクストレングスの仕上がりになっているとのことです。1樽分のみの販売のため、受賞時にはすでに完売していたということです。これ以前に商品化されたボトルもピートウイスキー樽や自社で製造しているアマレット樽などを使用し独自のフレーバーを追求している、職人(アルチザン)気質が特徴。ジェンナ・デュバルド(Jenna Diubaldo)さんという女性の方がいわゆるマスターディスティラーのようです。他にジェームズ・ラスター氏(James Lester)と、マックス・スミス氏(Max Smith)を含めた若い3名が経営陣として運営をしているようです。ホームページを確認すると以下の写真があったので、おそらくその3名かと思います。ウイスキー造りのほかに、アマレットやウォッカ、ジンなども製造をしているようです。
同社ホームページの商品販売のページを確認してみましたが、半分くらいはすでに売り切れとなっていました。クラフト蒸留所なので、生産量が多くない事情もあるとは思いますが、注目を受けて受注が殺到しているものと思われます。ウイスキーもすべて売り切れ。すでに新しいバッヂ「SUMMER ROAD TRIP ACROSS THE MIDWEST」のボトルが紹介されていましたが、今月(2023年3月)発売予定となりながら、すでに「SOLD OUT」の文字が。187本の限定販売なので、これもシングルカスク品でしょうか。もはや、プレミアムウイスキーのような感じですね。レシピを見ると基本はブレンドで、熟成も3~5年くらいとのことなので、まだまだ若いウイスキーなのかとは思います。蓋を開けてみないと分からない段階にもかかわらず、これだけの注目を受けるというのは、期待値の高さを証明しています。カナディアンウイスキーは他にも注目を受けているクラフト蒸留所が出来てきていますので、今後も話題が出てきたら着目をしていきたいと思います。今までの定番品と違うという意味では老舗ブランドではありますがサントリーさんが扱っている「アルバータライ」とか(→サントリーさん紹介記事)が手ごろな価格でかつ面白いのかなと思います。「スムースで軽快な飲み口に、リッチで複雑な味わいとバニラのような甘みの中にほのかなスパイシーさを感じられ」るとのことです。作り手がどのような経緯で酒造りを学び、どのようなウイスキーを目指して行くのかというのも非常に面白いかなと思っています。ウイスキー造りの中心では無いけれど、辺境でもない、ある意味適度な距離感にあることでユニークな発想が今後も出てくることに引き続き期待していきたいと思います。!
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