カバラン蒸留所

https://www.forbes.com/
世界的な注目を浴びている台湾初のウイスキー蒸留所、カヴァランKAVALAN。同蒸留所は亜熱帯気候に位置する台湾北東部の宜蘭県に位置し、夏場の気温は30度を優に超える。しかし、その特徴を樽熟成の利点に変えてトロピカルな個性とスコッチモルトを巧みにブレンド。国際的なウイスキー品評会でも優れた評価を数多く受賞し、今や世界を代表する銘柄に成長した。創業者である李氏父子は2018年にワールド・ウイスキー・アワード(WWA)において中華人として、そして親子で、初めて「殿堂入り」の偉業を成し遂げた。

蒸留所の建設は2005年4月に着工、わずか9か月の超短期間で完成させ同年12月に稼働開始。2006年3月11日に最初のニューメークが生まれた。2008年に台湾で最初のシングルモルトとなる「カバラン・クラシック」をリリース。世界的な注目を浴びるようになったきっかけは2010年のこと。スコットランドを代表する詩人ロバート・バーンズを祝う「バーンズ・ナイト」というイベントのブラインドティスティングのコンペ。当時新しくリリースした「イングランド産」のウイスキーに対して、本場スコッチの優位性を世に示すためだったそうだが、予想に反してカヴァランが最高得点を獲得し本場スコットランドにその名を知らしめる結果となった。2015年にはワールド・ウイスキー・アワード(WWA)においてカスクストレングスの「ソリスト・ヴィーニョバリック」が最優秀賞を獲得。その味わいは「バーボン入りミルクチョコレート」”bourbon infused milk chocolate”と評された。

金車グループ創業者の李添財氏と現社長の李玉鼎氏
その歴史は2002年に遡る。当時迄の台湾はアルコールの製造は政府の専売で、民間参入が出来なかった。ところが、台湾がWTOに加盟したことにより同年に規制が緩和され民間での製造が可能となった。長年その時を待ち望んでいた台湾飲料大手「金車グループ」(KING CAR GROUP)李元総経理はすぐさまウイスキー造りの挑戦を決意。しかし、ウイスキー造りのノウハウが当時の台湾には無く、まずは人材探しから始めた状態であった。そこにネット経由で応募してきたのが、初代マスタディスティラーでKAVALAN成功の立役者の一人であるイアン・チャン(張郁嵐)氏だった。
https://www.forbes.com/
当時のチャン氏もウイスキー造りはおろか、特にお酒のビジネスに関わっていいた訳でも無かった。チャン氏は英国の大学で勉強した後、中国で事業を経営。ところが、同氏の父親が病に倒れたことから生まれ故郷である宜蘭市の実家に帰ってくるように母親から言われて戻ってきたそうだ。故郷に帰省して一から「就活」活動を始めたときに、インターネット上で、金車グループが「蒸留研究者」(”SPIRIT RESERCHER")の職を募集していることを知る。ウイスキー好きであったチャン氏は興味を持ち、レジュメを送付、その後しばらくして面接に進んだ。まずは、当然業務経験を聞かれたが、同氏は「無い」と正直に答えるしかなかった。ただ、英国在学中に数多くのウイスキーを飲んだ経験はあるとアピールをしたところ、「ノージング試験」に進んだ。与えられた課題はティスティンググラスに注がれた15種のウイスキーについて、(一回限りの)ノージングをして特徴をコメントするというのも。その試験で高いスコアを出したことが、採用の決定要素となったそうだ。当時を振り返り、カヴァラン・プロジェクトとの出会いを「運命"fate”」だったと回顧する。
Kavalan Whisky | Ian Chang | Talks at Google
カバランの特徴はなっといっても夏場40℃にも達する「亜熱帯」気候の特徴。しかし、そこを敢えて逆手に取ったのがカバランの強さ。高温になる夏場には貯蔵庫の窓を閉め切り内部を温室化することで、樽の木の成分の抽出を促進。冬場は窓を全て開け冷気を取り込み、樽内に酸素を取り入ることで液体の中での熟成を早めるのだという。つまり、本場スコットランドなどの寒冷地にある蒸留所の貯蔵庫での熟成を「鈍行列車」とすれば、カバランでの熟成は目的地により早く到達できる「新幹線」なのだ。
http://www.kitasangyo.com/

水より沸点の低いアルコールは気温が高い夏場になると樽の中から揮発してしまう。そのことを「天使の分け前」(エンジェル・シェア)という。一般的には、年間で本場スコットランド2%程度、より温暖な日本で4%が揮発すると言われているが、カバランでは10%近いと言われる。カバランのウイスキーでは熟成年数を表記したものが無いのも、スコッチウイスキーのように10年以上も熟成させてしまうと中身が無くなってしまうことも要因。ただし、チャン氏はカバランは熟成スピードが早いので「長熟」をする必要がそもそも無いのだと指摘。

ジム・スワン博士

カバラン成功の立役者として故ジム・スワン博士を挙げない訳にはいかない。カバランがウイスキー造りをするにあたり、イアン・チャン氏はスコッチを学ぶために2年間ウイスキーの本場のスコットランドに「留学」した。その時に師事したのがスワン博士。その後カバランが操業を始めてからも技術顧問として樽選定を含む全ての製造プロセスのマネジメントに関与、何よりもチャン氏のメンターとして大きな貢献を果たした。スワン博士はウイスキーのフレーバーウィールを初めて創り出した人物とも言われ、ウイスキー業界のコンサルとして長年活躍、STR樽のパイオニアとしても知られる。リンドーズアビー蒸留所や、アナンデール蒸留所など数多くの新興蒸留所の立ち上げにも深く関与した。

アナンデール蒸留所
リンドーズアビー蒸留所
Scroll to top