ONODA-BAR

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【岡山】オノダバー(倉敷)

盛り上がりをみせるスコットランドの蒸留所の中でも、時代の波の中で廃業してしまった蒸留所も数多くあり、特に1980年代前半に廃業した蒸留所の中には幻のウイスキーと呼ばれ未だに人気の高いものがあります。蒸留所の閉鎖とは面白くて、蒸留所が操業を止めても樽に眠るウイスキーがなくなるわけではないのでテクニカルには熟成という意味でのウイスキーの生産はまだ続いているということになります。そのストックとなったウイスキーが蒸留所の廃業後も世間に少しづつ流通することで、閉鎖したはずの蒸留所のボトルを今日でも見かけることができます。もちろん、その希少性から相当な高額な値段で売買されるため入手するのは極めて難しく、モルトバーでもオーナーが昔からのウイスキー愛好家でオールドボトルを集めていらっしゃるようなところではもしかしたらお目にかかる機会はあるかもしれませんが、そのボトルが一般向けに飲めるものであるかというとこれは分かりません。こうした事情などがあるので、自分はあまり希少性の高いオールドボトルなどには普段はあまり興味を示さないようにしているのですが、今回たまたまフラりと立ち寄ったところその幻のウイスキーと対面することができたのみならず、ハーフショットで試すことができたのでその思い出を書いておこうかと思います。

お店のバーカウンター。上品な大人の空間。

帰りの電車の時間を考えながら夜の浅い時間に1軒だけ少し立ち寄れるところはは無いかと探していたところ、幸運なことに倉敷駅から少し歩いた商店街の外れに今回のバーがありました。パッと見どこにバーがあるのか看板が見えずに分からなかったのですが、googlemapで示された建屋の横に外階段があり、そこを二階に上っていくとバーがありました。一階は別の飲食さんが入居されていて、その二階がこちらのオノダバーさんになります。建物は安藤建築のようなコンクリート打ちっ放しの豪快な建築。天井もかなり高く、隙間からは自然の光が漏れてくるような感じで、夕方のまだ明るい時間ではありましたがミュージックバーのようなシックな雰囲気です。倉敷は有名な美観地区という観光名所などがあり、昔ながらの風情ある街の景観が残ります。そうかと思いきや昭和感満載の商店街の中にもオシャレなカフェなども点在していたりして、レトロ感が良い具合に残っているといった印象です。オノダバーさんのある一角は、どちらかというと住宅街の一角という感じでしたが、喧騒から離れた落ち着いた雰囲気のところで隠れ家的なモルトバーを見つけるというのも街歩きの醍醐味ではあります。

ポートエレン蒸留所のシングルカスクをバカラのアンティークグラスで!

さて、今回発見したのはこちらの「ポートエレン」。ボトラーズのゴードンマクファイル社。1983年に蒸留所が閉鎖した幻の蒸留所の一つです。ボトルには蒸留年が1979と表記されていますので、蒸留所が閉鎖される少し前にボトリングされたものだろうと思われます。ポートエレンはアイラ島にかつて存在した蒸留所でした。ブレンド向けに使用されるピートウイスキーの供給過多とシングルモルトとしてのニーズの低迷などにより閉鎖を余儀なくされました。この当時は特にイギリス経済が全体的に不況であったことから他にも例えばハイランドのブローラ蒸留所なども同じ年に閉鎖をしています。(参照記事)ポートエレンは蒸留所が解体された後もアイラの蒸留所向けにヘビーピートのモルトを提供するなど精麦業者としての操業は続けています。しかし蒸留所としての操業は1983年までなので、ゴードンマクファイル社が閉鎖前に買い取った樽を、その後(1999年)に瓶詰してリリースされたものと思われます。それから更に20年の時を経てこの貴重なウイスキーと巡り会えたというワケです。ここまでレアなウイスキーというのは自分もそんなに飲む機会も無いので、比べようも無いのですが、一口口に含んで試してみましたが、とにかくクリアでまろやかなボディ、おそらくバーボン樽での熟成かと思うのですが角が取れていてものすごく美味しかったです。またオールドボトルで時々あるような変な後味のようなものも全くなく、保存状態の良さにも頭が下がります。オーナーによると建物の構造上どうしても高温多湿になるので、保管には結構気を使われているそうです。

さて、口直しというと語弊あるのですが、トマーティンの旧ボトル?があったのでこちらも少し味見にいただきました。先ほど述べたようにイギリスは1970年代はいわゆる「イギリス病」ともいわれる産業政策の失敗と経済的な不況に苦しんでおり、その影響でスコッチの蒸留所も過剰生産を是正する合理化政策で閉鎖させる蒸留所が出てきました。(因みに「鉄の女」として知られる保守党のサッチャー政権が誕生したのが1979年。これにより国有企業の合理化政策などが進んでいきます)こうした時代の中で、日本企業による救済により閉鎖を免れた蒸留所がこのトマーティン蒸留所であったわけです。1986年のことでした。元々京都に拠点のある宝酒造はトマーティン蒸留所からウイスキーを購入していたのですが、その縁もあり当時の大倉商事と組んでスコットランドのトマーティン蒸留所を日本企業として初めて買収しました。写真のボトルは2006年リリースの16年モノ。1stフィルと2ndフィルのヨーロピアンオークのホッグスヘッドで熟成し、最後の8か月をオロロソシェリー樽でマリッジしたようです。ほんのり甘味がありますが、味わいはきれいなキレのある原酒のトマーティンらしさがはっきりと感じられます。こちらのボトルも相当古いとは思いますが、年月を感じさせない爽やかな味わいでした。

貴重なウイスキーのボトルの数々を眺めながらマスターにその秘訣を伺いました。その理由は、このバーを訪れる方の一人でも多くに楽しんでもらえるように、一度にたくさん出したりしないようにして来たのだとか。念願のボトルに出会えたのなら、一期一会と思ってしっかりとその味わいを堪能する。そして、残りは次来られる方のために残す。こうしたことの積み重ねで、幻(まぼろし)とまで言われれるウイスキーのボトルが今日まで残っているのだとか。素晴らしいポリシーだなと思いました。昨今は注目のあるボトルがリリースされると、まるで投機の対象であるかのように取り扱われ巷になかなか出てこないものもあります。そのような高い評価を得るということはある意味「成功の証」なのかもしれませんが、ウイスキーの味が楽しまれることなくただ棚の奥に仕舞われたままであることは生産者の方にとっては残念なことではないのかと思います。貴重なお酒とこれからも巡り会えるようにするためにも、時には造り手の苦労に思いを馳せながら、こうして出会えた運に感謝をしつつ常に「一期一会」の気持ちで楽しんでいければと思います。貴重なお酒をいただきありがとうございました。

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