弘前にて、青荷温泉記
太宰治の故郷、五所川原。 2月のある日に、日経新聞を眺めていたら下に掲示するような面白い記事が出ていた。要は日ごろネットワーク付けの毎日から解放されるという空間を提供してくれる宿があるのだという。「デジタル断食」とでもいうのか。思えば、携帯などというものを皆が手にするようになってから、どこにフラフラしていようともすぐに追ってかけられるという事態になってしまった。これは仕事に限らずプライベートでも同じ、すなわち24時間365日、衛星(GPS)に追われる続ける現代人。しかし、この追及から解放を提供していくれる秘境がまだこのように存在していたいという知らせである。インターネットがつながらないならまだしも、ここは携帯の電波も届かないわけである。つまり、外界から連絡をする際は、この宿に電話をしてもらい、「おーい、○○さん!いますかあ!」という具合で呼び出してもわなければならいということ。ちなみに、ひねくれ者の諸君の中には、だったらあらかじめ映画をダウンロードしていけば良いではないか、と。まあ、そうかもしれないが、ここは電気も通らぬ秘境中の秘境、山小屋に来たようなものである。なので、十分にバッテリーを満タンにしていくくらいしか対策ができないだろう。部屋に貼るのは、おおよそ布団とストーブだけ。あかりはもちろん部屋に頼りなく灯る「ランプ」のみである。 新聞記事でデジタル断食の宿として紹介されていた。 さて、まずこの宿にどうやってたどり着けばよいのかということを知らせておきましょう。まず、場所は青森県の津軽地方にあります。太宰治の故郷として、もしくは、鉄道好きの方であれば「ストーブ電車」で知られる津軽鉄道の始発駅として知られる「五所川原駅」、は実はあまり関係ないのですが、ここから五能線、奥羽本線と上った弘前が旅の始まりになります。この弘前は「藩士の珈琲」でも知られるように、実は喫茶店とコーヒー文化が有名。(→詳しくはこちらの記事など参照)こうした歴史文化的な背景もあってか、弘前市内には城跡近くのレトロな文化財建築(その実は戦前弘前に拠点がった旧第八師団の長官舎であるとのこと)にスタバが入居してたりします。今回はこちらが気になってしまってスタバでいつものドリップを飲んでからその先へと進みます。この弘前には地方鉄道で「弘南鉄道」というのが運行されていて、ここからさらに内陸の黒石まで向かいます。いわゆるローカル鉄道というやつで、昔の東急の車両がリユースで使われています。二両編成で、乗客はほぼ学生。車内はみんなスマホに夢中の様子。いやはや、こうしたことは本当に都会も地方も同じになりました。地方だと学生は未だに赤本にかじりついているなんてのは偏見ですよ!って誰に対する叫び?!笑 ようや終着駅の黒石に到着。 黒石からはまだ先があります。ここからは路線バスで宿からの送迎バスが待つ虹の湖公園PAまで向かいます。天気が崩れていて外は強風、雪が降ってくるというのではなく、積もった雪が強風で下から舞い上がり視界は真っ白です。これがいわゆるホワイトアウトというやつなんでしょうか。昼間ですが対向車もライトを点灯するなど、とにかく何も見えません。しかし、やはり雪国の人はなれたもので、ハザードを点灯している車とかはまれ。特に混乱がある様子はありませんでした。ちなみに、東京を出る前は、「大雪暴風警報」なるものが発令されるという天気予報があり、かなり焦っていました。しかし、ここまでは問題なく飛行機も飛ぶし、電車も動く、バスも走る、雪国の生活とはこういうものなのかと実感しました。しかし、まだまだこれからなのです。山間の湖(虹の湖公園)の湖畔にあるパーキング施設で宿からの送迎車が迎えに来てくれることになっています。宿泊者は車でもこのパーキングに車を置いて、ここからは宿のマイクロバスに乗らなければなりません。そこまでのものか?と初めは思っていたいのですが、道の両端が除雪した雪の壁で塞がっており、車1台がようやく通れるようなスペースの、しかも山道を、しかもマイクロバス!で登っていきます。えっと、ひとつ間違えば崖から落ちるようなところです。これはかなりスリリングです。とにかく運転手に身を委ねて走ること20分くらい。ようやく、秘境の宿に到着しました。 路線バスと送迎バスが接続する虹の湖PA(施設は冬季閉鎖) 宿の建物は意外に大きかったです。どのくらいの人が収容可能か、おそらく100名くらいはいけるのではないか、そのくらいのサイズです。部屋数も20~30くらい、あるいはもっとあるように感じました。そのほか、離れのような建物も点在していました。そして、温泉は内風呂と外風呂、さらには露天風呂の合計で4か所。すべて、違った雰囲気なので、これらを一つ一つゆっくり回っているとそれだけで相当な時間がかかります。関西方面からの団体さんも一緒に来られていて、宿はかなりにぎわいがありました。皆さん、登山でもするかのうような恰好。電気もガスもないので、電気ストーブだけの暖でしたが、不思議と寒いとは感じませんでした。お湯に浸かってばかりいたからかもしれませんが。ただ、夜はやはり昏かった。電気の無い生活の何たるかが身をもって体験できます。食事も暗がりで食べるのでハッキリとはよく見えません。次第に目も慣れては来ますが、夕食後風呂に浸かった後はさすがに何にもすることがなく、布団を敷いて、そのまま寝ました。まだ夜の8時くらいだったかと思います。でも、不思議なもんで、旅路の疲れもあったと思うのですが、そのまま寝れました。普段の生活ではちょっと考えれらないですね。※因みに記事にもありますが、トイレは明かりがありました。一応、自家発電があるようで必要最小限の電力は使っているようです。あと、外も真っ暗で敷地内に小川のようなものも流れているのですが、危険!とか注意!とかそういうのは一切ありません。分かりきってることは自己責任で、ってことなんだと思いますが、こちらも非常になぜか新鮮に感じました。 ひたすら雪が降ったり止んだり、つららがすごい。 さて、完全な温泉日記になる前に、最後にスコッチウイスキーのネタを一つしておきます。こちらの宿に来る前にホワイトホースの小瓶を鞄に忍び込ませておいたのです。とりあえず、寝る前に雪見酒ならぬ、雪見ウイスキーでも興じようかと思っていたら、屋根の下に大きな氷柱を発見。そのうちの、ひとつを拝借して、天然のロックでホワイトホースをいただきました。少ししゃれたカップも持ってこればよかったのですが、そこは忘れていて仕方なく宿の湯飲みで代用しました。飲んでみての感想は、ううむ、実は特にありません。いくら天然のロックでも石油ストーブを前にして湯呑でのみもんじゃないですね、とうのが率直な感想でしょうか(笑)。 今夜はホワイトホースを天然ロックで! 今回はちょっと温泉の旅の日記のようなものになってしまいました。ウイスキーの楽しみ方というのはそれぞれにあって、飲む場所とか、飲むシチュエーションなんかもいろいろあって良いのかなとは思います。でも、自分の場合はやはりバーで一人チビチビとやるのが性に合っているなと改めて思いました。そうはいっても、こうした山の中の自然にあふれた中でウイスキーを味わうというのも、また違った味わいがあるというものです。今度は弘南鉄道みたいなローカル線の車内で電車に揺れながらの一杯というのもまたよいかもしれません。ではでは、失礼いたします。この宿に興味のある方はぜひ調べて実際に訪問いただければと思います。関西からでも、関東からでも、アクセスにはかなり時間を要しますが、行ってみる価値は十分にあるのかと思いました! 源泉かけながしのお湯で体の芯まで温まる