北欧ウイスキーの新たな潮流

北欧ウイスキーの新たな潮流

北欧のウイスキーが熱い。今、デンマークやスウェーデン、ノルウェー、フィンランドなどのスカンジナビア諸国、そしてアイスランドを加えた北欧5か国でのシングルモルトウイスキーの新たな蒸留所から本格的なウイスキーがリリースされ始めている。彼らの造るウイスキーはシングルモルトの本家であるスコッチウイスキーの伝統にリスペクトを払いつつも、それを自分らなりに解釈して、自らの住む土地のテロワールであったり、既存の作り方に縛られないイノベーティブなアイデアを元に作り出すウイスキーに特徴がある。まずは地元での愛好家を中心に国内での販売が中心ではあったが、ここにきてヨーロッパやアメリカさらには日本を含むアジアに販路を拡大し、ウイスキー業界に新たな風を起こそうとしている。 スコッチウイスキーの蒸留所造りにとりかかる彼らのアプローチは非常に興味深い。このホームページの中でも取り上げている二つの蒸留所を例にとりあげて紹介したい。まずはデンマークのスタウニング蒸留所。創業者は「ウイスキー業界とは縁もゆかりもなかった9人の愛好家たち」。また、スウェーデンのマックミラ蒸留所の場合は、「大学の同窓生」、こちらもウイスキー好きのグループの集まりというだけで、業界経験者と言う訳ではなかった。スコッチの本場でもウイスキー好きが高じて蒸留所造りを始めたというポート・オブ・リース蒸留所のような事例もあるが、まったくのド素人がウイスキーの蒸留所を一から始めて運営することが難しいのは想像に難くない。まずは既存のスコッチだけでも何百と言う蒸留所が存在するのに加えて、新興勢にとっての試練は「資金」。蒸留所を作るためのお金だけでなく、スコッチであれば最低3年は熟成期間が必要となり、生産を開始してもすぐには商品化できない(しかも、熟成を経て生まれる味がどのようなものになるかは神のみぞ知る!である)。余市や宮城狭で知られるニッカウヰスキーも名前の由来は「大日本果汁株式会社」というように設立当初はリンゴジュースを作っていた。現在でも新興蒸留所の多くはジンなどのスピリッツから販売を始めて少しでもキャッシュを作ろうという試みも見られる。資金面の問題をクリアしても、実際に作ったウイスキーが商売になるのかは未知の世界。長年の伝統と豊富な経験、更には大型資本による規模の拡大により益々競争が激しいウイスキー業界で新興勢が生き残っていくのは至難の業。新たなウイスキー造りを開始するに当たっては、ある程度の「経験」や「ノウハウ」を会得したベテランなどが創業チームに加わることも多い。その中で、スタウニング蒸留所やマックミラ蒸留所の創業メンバーに共通した勝算は北欧の「自然」であり固有の「テロワール」であった。 "その時に自然と、「なぜスウェーデンにはウイスキーを造る蒸留所が無いのか?」という疑問が起こった。確かに、その通りであった。自然豊かなスウェーデンには良質の水源もあるし、大麦もある、樽づくりに欠かせないオークの木もあるのだ。" ウイスキー造りに必要な材料は三つだけ。穀物(大麦)、水、酵母。穀物に関しては本場のスコットランドでも実はフランスなどの穀倉地から輸入することも多く、酵母に関してもウイスキー熟成に最適化したウイスキー酵母が用いられることが一般的で天然酵母などが用いられることもあるが生産効率などを考えると大量生産には向かないため、一部のクラフトウイスキーや少量生産のバッヂ向けを除いては主流ではない。こうして考えると、残るは「水」ということであるが、自然豊かな北欧の地において良質の水が得られることは疑いようのないことである。すなわち、ウイスキー生産に必要な要素は既に全て揃っているワケで、「なぜ北欧の地にウイスキーを造る蒸留所が無いのか?」という疑問に至るのは当然であった。彼らのその問いに答えることを目標として、まずはスコッチウイスキーの作り方を現地見学やテキストなどから学び、その上で「北欧らしさ」を加えて新たな付加価値を付けた商品提案をしている。 「北欧らしさ」というのは単に大麦などの穀物を現地調達することにとどまらない。その生産工程においても北欧らしいイノベーティブなアイディアに満ちている。スコッチの伝統とローカルな要素をブレンドした取り組みとしては、特に原料のモルティング・プロセスが面白い。発芽した麦芽を乾燥させるときに加熱をするのだが、アイラなどのスコッチでは、ピート(泥炭)が使われており特徴的な香りで知られている。この時に、ローカルなピートを使うだけでなく、例えばアイスランドのアイムヴァーク蒸留所では昔から燃料として使われている「羊の糞」を使用してあり、スウェーデンのマックミラ蒸留所では当地のジュニパーベリーを合わせて焚いたりして新たなフレーバーを探求している。原料についても、スコットランドやアイルランドなどの欧州は製法に違いがあるものの「モルトウイスキー」が主流であるが、ライ麦を原料とする「ライウイスキー」やモルトとライのブレンドウイスキーを作ったり、熟成樽も多様な材料の樽や産地のものを取り入れたりと、既存の製法の枠に囚われない自由なアプローチが特徴である。ライ麦ウイスキーでいえば、フィンランドのキュロ蒸留所が作る100%フィンランドライ麦を使用したライウイスキーが最近注目をされている。IWSC2020に金賞を受賞し、日本にも入荷されて始めている。このホームページではまだ取り上げてはいないが、ゆくゆくは調べてみたい。自由なアプローチという意味では、マックミラが最も面白い。ブレンドウイスキーのレシピ選定にAIを活用した入り、日本のお茶を使って樽をシーズニングしてみたりと、既存のウイスキー造りでは考えられなかったようなチャレンジングな商品が定期的にリリースされている。ウイスキー造りの歴史が始まったばかりの北欧では、伝統的なウイスキー造りの枠に固執することなく、新しいウイスキーの楽しみ方を積極的に開拓していこうとする姿がみられる。 リカーズ長谷川本店様にて ストックホルム蒸留所ブランネリ(ドライジン) 北欧は豊かな自然だけでなく、シンプルでイノベーティブなクリエイティビティの高さにおいて産業面では既にそのブランド価値を確立している。長い冬を自宅で過ごすことが多いためか、特に家具やインテリアなど良く知られているように思う。アラビアやイッタラ、マリメッコなど(全部フィンランドですが)は好きな方も多いのではないか。北欧諸国には自分も何度か足を運んだことがある。ヘルシンキなどの街を歩いていると、外見は西欧などの華やかさはなく地味なものが多いが、建物の中に入るとカラフルなインテリアなどになっていたりしてそのコントラストが非常に面白いと感じたい。そのデザインも、明るい色が多く使われていても「派手さ」というよりは、むしろ「温もり」のようなものが感じられた。残念ながら冬季には一度も訪問はしたことがないのだが、恐らくそうした時期に訪れればより一層その温もりが増すのかなと感じたものだ。こうした北欧らしさ(もちろん国によって違いはあるだろうけど)が根付く場所に生まれるウイスキーも、派手さは無くとも確かな個性のあるブランドを確立していくのではないかと思っている。また、北欧らしいイノベーティブな発想を活かして、クリエイティブな商品が今後も出てくることは間違いない。それは造り方だけではなく、商品の見せ方であったり、どのように楽しむか、ということにおいても新たな視点を提供しウイスキー全体の知名度と親近性を更に高めていくのではないか、そしてゆくゆくは「北欧ウイスキー」という地場を作り出しているのではないだろうか。スコッチウイスキーの楽しみ方をマスターしていく中で、機会があればぜひ北欧ウイスキーもご賞味いただきたい。 画像クリックでトップページに戻ります。
ビースポークン・スピリッツ

ビースポークン・スピリッツ

https://jp.techcrunch.com/2020/10/09/ 如何にもアメリカ的なアプローチという感じではある。何の話かというとデータサイエンスを駆使してウイスキーを造ろうという、いわばウイスキー錬金術のような話。出所はベンチャー企業の聖地シリコンバレー。3億円の資金を集めて創業。目指すものは「サービスとしての熟成処理」(Maturation-As-a Service)、それがこの「ビースポークン・スピリッツ(Bespoken Spirits)」。(会社の名前であると同時にブランド名でもあるようだ) ところで、"Bespoken"とはbespeakの過去分詞形。意味は「予言する」。要するに予言されたお酒、という意味。これは何かと言うと、伝統的なウイスキーは長期間(スコッチの場合は最低でも3年)オーク樽の中で熟成をさせるわけだが、この期間に起こることはある意味「神頼み」、要は自然任せ。しかも「エンジェルシェア(天使の分け前)」分だけ、原酒は貯蔵期間中に水分とアルコール分が揮発し中身が減り続けていく。ただ、その間に荒々しい原酒の味がまろやかに仕上がったりしていく訳で、このプロセスはただの「時間の無駄」というよりは、ウイスキー好きなら誰しもが「崇高な待ち時間」と捉えるているだろう。結果的には望んだ味わいにならないことも勿論あるが、これも神の思し召しとして潔く受け止めるしかない。この労力こそが、ウイスキーの素晴らしい味わいの源泉となっていることを否定するものは、いない、はず、、、なのだが、である。 それを「無駄」と捉え、現代のテクノロジーとデータサイエンスを駆使して、「熟成」プロセスを解体し、再構築する動きこそが、このBespoken SpiritsのACTivationプロセスなのである。すなわち、ウイスキーのA(アロマ)、C(カラー)、T(テイスト)を制御して、自分たちが望む味を科学的に作り出す技術である。これにより、時には数十年にも及ぶ熟成プロセスも、数日単位に大幅短縮され、その間にかかりうる「エネルギー」や「労力」またエンジェルシェアによる原酒の「ロス」も大幅に削減が可能。こうしてエコロジカルで、且つ、エコノミカルなウイスキーが出来上がるというワケ。 すでにいくつかのラインアップがアメリカではリリースされている。ウイスキー評論家などの間では辛口コメントもあるものの、世界的に著名なウイスキーのコンペであるサンフランシスコ・ワールド・スピリッツ・コンペティション(SWSC)の直近2021年の大会において、ライ・ウイスキーのカテゴリーで金賞を獲得、その他のカテゴリーでもいくつかの賞を受賞するなど確実に実績を上げてきている。もちろん、ライ・ウイスキーやコーン・ウイスキー(バーボン)などのいわゆるグレーン・ウイスキーはモルトに比べて長期熟成はしないと思うので、その辺りは差し引いて置かねばならないのかもしれない。長期の樽熟成といえばスコッチを代表とするシングルモルト。今後はこのジャンルでどれだけの成果を残せるかがカギにはなるのだろう。ただ、とりあえずは「科学的な精製」により、美味しいウイスキーが出来たという事実は評価されねばらない。いずれにせよ、今後の挑戦はこれからも様々な議論を投げかけていくような気がする。 このビースポークン・スピリッツの取り組みについて、個人的に注目したいのは「エコロジカル」な視点。つまり、作業ロスの少ないウイスキー造り、という視点である。この問題意識は恐らくスコッチをはじめとするウイスキー造りにはあまりなかった考え方であるように思う。最近でこそ新興の蒸留所を中心として、環境に配慮したウイスキー造りというものが様々なステージで実践されてきている。例えばオーク樽についていえば森林資源の保護であったり、大麦であればローカルで無農薬な栽培であったり、また蒸留所のエネルギーについてもバイオマス発電を使ったり、といった動きである。しかしながら、根本的にウイスキー造りというのは相当なエネルギーを実は消費しているのでないかというのも事実であると思う。樽の出所については、確かにそれは何度も使い回しはするけれども、森林資源を消費し、様々なフレーバーを作り出すために多種多様な樽を世界中から買い付けることもある(輸送コスト)。熟成のための保管ということでいえば、自然の為せる技とはいえエンジェルシェアによるロスもさることながら、長期保管をしなければならないという保管コストもかかる。こうしたコストというのは熟成によって得られる価値への対価として消費する側に転嫁されうのだが、その過程でコストを上回る付加価値が着くのであれば消費者は喜んでその対価を払うわけで、ウイスキー業界はこのようにして経済的には着地点を見出してきたともいえる。ただし、環境への負荷や原料ロスの発生という現象そのものは現状の製法では避けて通れない。こうした観点において、樽での熟成をせずにステンレスタンクの中に原酒を入れて、必要な樽の成分片を投入し、あとは機械的な処理で条件設定をして促進試験のようにコマ送りで熟成を達成するというのは画期的なアイデアである。(なお、こうした加速度的な熟成により超早熟のウイスキーを造ろうとする蒸留所はビースポークンだけではないことを断っておく)新たなフレーバーを開発するのにも、多くの試行錯誤をせずに少量の資源(原酒)を以て、それを無駄なく完成品にまで仕立て上げることができる。これは、単なる伝統に対するチャレンジということではなく、さらにより多くのポジティブな可能性をもたらすものではないか。 更には次のような応用も考えられるという。今回のコロナ禍において、クラフトビールを作る醸造所で大量のビールが販売機会を失い、期限切れの売れ残り在庫を抱えてしまった。普通なら廃棄をせざる得ないところである。頭を抱えた醸造所の中には、売れ残りビールを蒸留してウイスキーにしようということも考えたが、こうした間に合わせの試みは多くのの場合うまくはいかない。そこにビースポークン・スピリッツのACTivationプロセスが登場するのだという。このプロセスを使うことにより、少量のバッヂで様々な試作も可能であるだろうし、最適解が分かれば後はそのレシピ通りに大量生産をするだけ。本来は廃棄されてであろう「期限切れの商品」が再度「ウイスキー」として復活する、資源のリサイクルならぬ「アップサイクル」(付加価値を付けたリサイクル)が可能になるという。 この他にも、バーやレストンランが個別にカスタマイズをしたウイスキーを欲しいと思った場合。恐らく通常なら高いお金を出してプライベートカスクのようなものを蒸留所に頼むなどしかないだろうが、ビースポークン・スピリッツであればイメージするウイスキー通りのものがACTivationプロセスにより出来上がる。しかもお手頃な価格で。顧客の好みをヒアリングして、レシピとマッチングすることで自由自在な対応が可能となる。つまり、有るものの中から受動的に選択するのではなく、より積極的に自らが望むフレーバーや味わいといったものを、顧客の側が主張するこができる、というもので、これまでのウイスキー業界の慣習とは全く違う世界感といって良いのかもしれない。 ビースポークン・スピリッツが最終的にどこを目指そうとしているのかは分からないが、伝統的なスコッチなどの蒸留所と対立するものではなく、ウイスキーをより多くの消費者に楽しんでもらうための新たな視点をもった協業者として、業界的な認知が広がっていってほしいと思う。スコッチのシングルモルトの世界というのは、日本酒やワイン、ビールなどの醸造酒の世界に比べれば、ごく少数のニッチな世界であることは否めない。巷ではせいぜいブレンドのハイボールが良いところではないか。他の記事でも紹介しているスウェーデン(マックミラ蒸留所)やオーストラリア(スターワード蒸留所)、デンマーク(スタウニング蒸留所)などの取り組みで共通するのは、ウイスキーを如何に消費者に近づけることができるか、というテーマがあった。この一つとして、ビースポークン・スピリッツがウイスキーのいわばエンタメ的要素として今後も注目されていくことに期待をしている。

【静岡】バー寿美(静岡)

静岡駅 今回は久しぶりの出張ということで静岡に来訪。ここはもともと徳川家康の居城である駿府城があったところ。それがなんで「静岡」という名前になったかというと明治維新の後の廃藩置県のころに名称を一新するということで市内の真ん中、浅間神社の裏手にある「賤機山(しずはたやま)」から名前をとり「静岡」となったそう。個人的には無味乾燥としたネーミングだなあ、と思うけれども当時の新政権からすれば「駿府」などというのは忌々しい旧政権を連想させるということだったのかもしれない。そんな訳であるけれども、この静岡県というのも奇妙な県で、伊豆、駿河、遠江の3国を合体したような造り。西の三島・沼津、富士、そして中の静岡、東の浜松は東海道にあるということを除いてはかなりカラーが違うということで、歴史の流れから考えるとかなりムリがあるような気もするけれども、そもそも明治維新とはその「断絶」と「刷新」が大元にある訳で致し方ないところか。 さて、歴史の議論はこれくらいにして。とりあえず静岡である。実はこの静岡(静岡市)というのは、経緯は別にして、とても良いところである。何が良いか?それは海と山と平野が1式揃っている、これに尽きる。自然と都会がコンパクトにまとまっていて、そのど真ん中を交通の大動脈が走っている。西(名古屋・関西)に行くにも、東(東京)に行くにもとにかく便利。ただしリニアを建設している中央アルプスだけは如何ともしがたく、北隣にある信州に行くにはどちらか迂回をしないといけないため不便ではある。ただし、恐らくスキー場を除いてはだいたいのものは揃っている気はする。 今宵のお店 Bar寿美(sumi)さん さて、何の話かというとモルトバー巡りの話ということで、この辺で切り替えます。静岡駅に降り立ち目指す場所は一つ、それは「BLUE LABEL」という老舗バーが目的でした。場所は既にgooglemapに登録済みであったので、さほど迷うことなく到着、なんですが空いていません。それも無理のない話でまだ時間は18時過ぎ。ならば、なぜに事前に電話するなり調べておかないんだ!ということですが、自分はこうした運命に身を任せるすごろく的な感覚が好きで、出た目の数であきらめる?!のが信条故。とにかく空いて無いのでどうしようもない。ただ、こちらは日帰りでしかも帰りの切符もすでに買ってしまっている放浪の身。どうしようかと少し通りを歩いていると、何やらすでに営業されている看板を雑居ビルの奥に発見しました。 お店のバーカウンター 店の外の看板からしていかにも昭和のノスタルジックな感じが良いです。スコッチウイスキーが目当てではるのですが、他を探す時間ももったいないので入口で即決。恐る恐る扉を開けましたら、予想通りというか、看板の感じのままに30年くらい時間を遡ったような空間が展開しておりました。(決して悪い意味ではありません、自分は昭和の純喫茶など含めてこうしたノスタルジックの空間は大好きなのです。)そして、棚にはずらりとジャパニーズウイスキーが。スコッチもバーボンもなく、ただサントリーのウイスキーが鎮座しております。さすがです。そして、カウンターにいらっしゃったママさんはなんとこの道50年以上のベテラン。早速ビールを注文して先ずは乾杯。突き出しがいくつか出てきまして、これまた絶品の数々。モルトバーでは中々味わうことができないおふくろの味です。また一つ一つの小皿も洒落ています。(特に高価だというワケではなく、一つ一つがうまく料理とマッチングしているという意味です。こうした境地はそうそう簡単に立てるものでは無いと思います。)近頃は洒落たバーで、料理も酒を皿も色々垢ぬけたところはいくらでもあるような気がしますが、なんでもお金をつぎ込めば良いというものでもない。バランスというものがあると思うんです。そうした全体のバランスというのがやっぱり日本的な感性の為せる技かと思っていて、ただ高級な食材を高価な皿にのっけて、高額のレシートを用意すれば良いものでは無いと思うんです。(また脱線。閑話休題) 先ずはサントリー・ロイヤルをストレートで。   さて、そういう訳でビールの後にはサントリーのウイスキー。「ロイヤル」です。実は初めて飲みます。初めてなので、ストレートで。これはいわゆるジャパニーズブレンドということです。というかサントリーブレンドとでも言うべきでしょうか、山崎とか白州とか、知多とか、サントリーさんの蒸留所のウイスキーを混ぜ合わせたものという認識です。(すみません、「ジャパニーズ・ウイスキー」はあまり知見が無くて、その程度の認識しか持ち合わせが無いのです。ホームページも見てみましたが、あまり詳しく混合率がどうだとかは書かれていませんでした。)初めて飲んでみて思ったのは、「奥ゆかしい味わい」。重厚感のあるボトルとかなりうまい具合にマッチングしています。なんとなくスコッチ風の荒々しさも感じはするのですが、とてもバランス良くできている。さすがに、これが世界に名高いジャパニーズ・ウイスキーというワケで、とても納得。ストレートでなくても、ロックとかでも十分に楽しめそうです。 サントリー「碧」 次に頼んだのが、「碧(Ao)」。これはワールドウイスキーというカテゴリーで、要するに世界五大ウイスキーと言われるスコッチやバーボンなどをミックスしたブレンドウイスキー。こちらの方は青々としたボトルの感じもそうなのですが、若者向けと言うか、少し若々しさを感じさせるフレッシュでフルーティな味わい。ストレートも良いけど、ロックやハイボールなんかでも良いかもしれません。スーパーとかでもたまに置いてあるのを見ますが、普通のブレンドウイスキー(1000円~2000円/ボトルくらいのもの)に比べるとお値段相応のクオリティがあるように感じました。 所狭しと並んだ突き出しの数々 久しぶりのバーで飲むウイスキーと、美味しい突き出しを十分に堪能。古きノスタルジックな空間も最高です。最後にはそうめんまで出てきてお腹も満たされました。モルトバーでは中々味わえない高級居酒屋のような手料理の数々。朝採れのお野菜なども頂きました。なんとも贅沢です。時折、古いダイヤル回転式の電話が「ジリジリ」とけたたましい音を立てて店の中に鳴り響きます。お話を伺っているとかつては国会議員や県知事の方も通われたのだとか。時代の流れとともに、以前の常連さんも引退されたり故郷に帰ったりで、さすがに今も通われている人は少なくなっているのだとか。それでもママさんはしっかりとドレスアップしてシャンとカウンターに立っています。やはり最後には女の人が強いということなのでしょう。途中で中学の同級生だという知人の方が来店され、仲睦まじく話をしておられました。こういう友情関係というのは見ていてもうらやましいです。 昭和の黒電話 古いバーとは良いものです。新しいものは作れますが、古いものは作れません。店の中に染み付く時の流れの刻印は、何を語らなくてもしっかりと感じることができます。それは長い期間、じっくりと樽の中で寝かせたウイスキーの味わいと激しく共鳴します。奥行きがあり、深く、複雑な余韻を残す、静かにそこに佇むだけで、あるいはゆっくりと味わうごとに、何か遠い昔に帰っていくような、そんな気さえしてきます。そんな何とも言えない心地に浸りながら、ハッと時計を見たらもう帰りの時間が。ようやく周りの店も少し賑わい始めてきたところでしたかが、致し方ありません。恐縮にもビルの表まで案内をして頂き感謝しかありませんでした。どうか長くお元気でいらしてください!そしてまた美味しい料理を食べにお伺いしたいです。 お店の看板 Bar 寿美
「くればわかる」(新宿ゴールデン街)

「くればわかる」(新宿ゴールデン街)

今回は少し番外的な話になりますが、新宿ゴールデン街と、その中の素敵なお店「くればわかる」さんのことについて感謝の気持ちを込めて!書きたいと思います。 まず、新宿のゴールデン街について最初に説明をさせてください。ご存じの方も多いかと思いますが、新宿ゴールデン街は新宿歌舞伎町の一角にある木造長屋の飲み屋街。2000坪(サッカー場くらい)の大きさの区画に一説には280軒ものお店が密集した、ディープでノスタルジックな空間です。 また、場所柄もあるそうですがここの界隈は文芸・音楽・舞台関係の方が昔から多いそうで、「文壇バー」のようなところもあったりするそうです。サラリーマン生活をしている自分から見ると、普段は接することの無い方も多く、お酒目当てよりも色んな方の「話」を聴くのが楽しみで来ているという感じでしょうか。 新宿ゴールデン街(https://www.tokyo-np.co.jp/article/71810) そんな訳もあって、常に違う店を回り歩くと言うのが自分の信条なのですが、とっても印象に残ったお店もあって、ついつい足が戻ってしまったお店が数件だけあります。「くればわかる」さんもそのうちの一つです。 「くればわかる」なんてチャーミングな名前をどうやって考えられたのかはいつかお伺いしたいところですが、奄美ご出身の親子(母娘)さんが経営されています。同じ建屋の1階と2階にお店があり、現在は2階だけで営業をされています。お店は奄美のお酒や九州の焼酎、ウイスキーもスコッチがいくつか置いてあり良心的な価格設定です。 ゴールデン街のお店はどこも個性的なお店が多いです。それはお店の中に置いてあるお酒や料理であることももちろんありますが、特に自分が惹きつけられるのがお店の方とお客さんが作り出すその時々の雰囲気です。カウンターに立たれている方も日替わりだったりするお店も多く、お客さんも何店舗が界隈で梯子をされる方も多いので、お店の中の様子も凄くめまぐるしく変わります。ある時は結構盛り上がったりしたかと思えば、次にはガラッとゆったりした時間が流れたり、お客さんも(時には店の方も)入れ替わりがあるので見てるだけでも楽しいです。 また、基本は独りで来られる方が割合に多いので、見ず知らずの人同士の会話を楽しめるというのも自分は好きです。誰の紹介でもなく初対面の人と気軽に話をする機会というのがあまり無いので、一人でも気軽に呑めるという意味でもこの街が面白いなと思います。その上で、やはりお店の方の切り盛りというか采配というか、これは重要な要素だと思います。これも各店舗さんで様々で、どういったスタイルが一番良いと思うかは人それぞれだと思いますが、自分は「くればわかる」さんに一番「温もり」を感じました。また、こちらの母娘さんがとても素敵な方でで、掛け合いが見てていつも楽しいです。(あまりにもの居心地の良さに前回訪問時は完全に酔っぱらってしまいました。その節は大変に失礼をいたしました!) こういう表現が適切か分かりませんが、何となく小学校のときの「放課後の教室」的な空気感とでも言いましょうか。。 現在は時節柄、大変な時期ではあります。でも、こうした大変な時期だからこそ、お店とお客さん(特に常連さん)の関係、つまりお客さんに愉しんでもらいたいというお店側の気持ちと、また頑張っているお店を応援したいという常連の方の気持ち、この両者の「支え合い」の中で経済を回している。また、新米の客にも店側と常連さんの両方が迎えいれてくれるような独特の雰囲気。こうした空間は独りフラフラするのが好きな自分のような人間には最高の「癒し」の場でしかありません。 恐らくこの界隈を歩けば、確実にどこか、自分の居場所みたいなものを見つけることができると思います。それくらいに色んなスタイルと言うかバリエーションがあります。一時期は外国からの観光客が大挙して押し寄せたこともありましたが、今はやはり静か、逆に言えば落ち着いています。また、昔は不夜城のような場所で、早い時間に開けている店も少なかったですが、今はランチ営業などもされている店もあるようです。そういった意味で、この界隈での楽しみ方も多様化しているのかとも思います。今の状況が改善して新宿に立ち寄る機会があれば、ぜひゴールデン街に、そして「くればわかる」さんに、足を運んでみて欲しいと思います。必ず、くればわかります! 奄美の黒糖焼酎(https://shochuishinkan.jp/collections/kokutou) ところで、奄美の黒糖焼酎について少しだけ最後に。(そもそも奄美ってどこ?って言う方は先にgoogle map で検索ください。簡単にいうと、九州と沖縄の間です。)奄美諸島というのは古くから「さとうきび」が名産らしく、糖分あるところにアルコールあり、と言うわけで黒糖と米麴を原料にしてできたのが黒糖焼酎、分類としては「本格焼酎」になりますが、あまり全国的な地名度は高くないような気がします。「泡盛」や「ラム酒」などとも比較されることがありますが、とにかく黒砂糖をそのまま使っているところが大きな違いかと思います。(ラム酒は廃蜜という「搾りかす」を使います)くればさんで取り扱っているのはその中でも奄美大島の町田酒造さんというところが作っている「里の曙」(通称:さとあけ)。黄色いボトルが特徴的です。1階のお店は今は残念ながら営業されていないのですが、棚が黄色いボトルで一杯だそうです。まさに「奄美愛」。ですが、味わいはというと、奄美と言うよりキリっと引き締まった感じです。この他にも、同酒造のラインアップにはウイスキーのようにオーク樽で熟成させたボトルもあるそうで、アメリカのスピリッツコンテストで賞を取るなど海外でも注目されているようです。最近は焼酎も色々な銘柄が出て来て楽しいですが、「黒糖焼酎」はなかなかお目にかかることが無いと思うので、何を飲もうか迷ったらまずは「さとあけ!」と頼んでみましょう!

【島根】Kagoya Bar(松江)

㊗47都道府県制覇記念 47都道府県巡り?というのをやっていたのかどうかは定かではなが、今回の島根県訪問でついに制覇。その記念にと訪れたのがこちらのバー。全都道府県制覇、というのが頭にチラついて来たのは、ラスト3つくらいかな、ということに気づいたころからだった。45番目は沖縄、46番目は熊本であった。自分はあまり暑い場所には興味が無くて、どちらかというと雪深くて寒い地方への憧れが子供の頃からずっとあった。そのために北海道や東北、甲信北陸などといった地方はかなり早い時期に制覇した気がする。昔は結構「乗り鉄」で青春切符を駆使して色々と当てもなく、ただ電車に「乗る」ために周遊を繰り返した。今となっては、JRも新幹線の延伸が進み、並走する在来線が第三セクターなどに移管されて鉄道網が細切れとなってしまったため、青春切符での周遊はめっきりご無沙汰になってしまった。昔と違って、「鉄道」というもの利便性が、特に日本では「通勤」と「通学」というものに集約されて来たような気がするが、とてもなんだか寂しさを感じている。「鉄道」というものは、そもそもは陸の王者であり、産業や国土開発、更には重要な平坦線として非常に重要な役割を果たしていた。海外では未だに、そのような目的で活躍しているところもあるが、今の日本は道路網の整備やもびもは陸の王者であり、産業や国土開発、更には重要な兵站線として非常に重要な役割を果たしていた。海外では未だに、そのような目的で活躍しているところもあるが、島国の日本では道路網の整備やモータリゼーションで鉄道の役割は都市を除いて衰退した気がする。話が脱線したが、実は最後の島根訪問ということでこの話はしておきたかった。というのは、結局のところ島根が「最後に」残ってしまった理由というのは、やはり交通の便というものが大きく関与しているからだ。当たり前の話ではあるが、交通の便が不便というのは理由がある。便の良いところには人が集まるし、不便であれば人は離れていく。人が集まれば、さらに利便性は良くなるし、離れればさらに交通網の維持をする必要が難しくなる。そういった意味では、島根県はまさに「不便な場所」である。新幹線も通ってないし、高速道路も細切れの状態。そしていわゆる東海道山陽地区とは中国山脈で隔たれている。まさに「陸の孤島」と化していると言えるかもしれない。ところが、である。 上の図は江戸時代中期から明治時代くらい、すなわち鉄道網が全国に発達するまでの間(恐らく200年くらい)、交易の「幹線網」として活躍した北前船の航路と寄港地を示したものである。鉄道や車が出来る前というのは物資の輸送において大量の物が一度に運べる「海運」の役割はとても重要で、現代なら空路、鉄道、道路、などいくらでも便利な代替手段はあるだろうが、当時は「船」が王者だったのだ。寄港地の場所から明らかなように、今でこそ日本海側というのは不便なイメージがあるが、江戸~明治期は海運の幹線に沿って荷下ろしや風待ちに使われる寄港地は「繁栄」していた。島根県は江戸時代の国の名前いうと、東部が出雲、西部が石見になるが、「美保関」や「鷺浦」には往時を偲ぶ街並みが今でもそのままに残っている。建物や店の名前などにもその名残があって、例えば鷺浦にあるカフェ「しわく屋」さんは、四国丸亀の塩飽諸島出身の船乗りの定宿だったそうだ。 美保関の石畳 鷺浦の街並み(sukima.com) つまり、島根県と言う場所は、今でこそ時代の流れによって現代の交通の幹線網から離れた「奥地」となってしまったが、昔は交通幹線の中にあって繁栄をしていた時代もあったこと。これをまずは頭に入れた上で、この島根県の県都である「松江」の話をしたい。 「水都」、松江の図。 松江とは何か?この答は「水都」ということに尽きると思う。実際にこの地を訪れるまで、自分はこのことについて全く意識が回らなかった。恐らく日本地図で見る中国山脈の「山」のイメージがありすぎたのかもしれない。しかし、これだけはハッキリと言いたい。「松江」に山は無い。あるのは「水」である。すなわち、「宍道湖(しんじこ)」と「大橋川」がそれである。今回訪問したBar Kagoyaさんも大橋川の川沿いに位置。松江は城下町で、繁華街はお城寄り(要は昔の遊郭)の「東本町」と、駅寄りの「伊勢宮町」の二つがメイン。簡単に言うと、「東本町」が格式高めで、「伊勢宮町」はワイワイ・タイプということだそうだ。 Kagoyaさんは東本町の中心通りから少し離れた路地裏という隠れ家的な場所で、夜も更けた時間帯は静かな水辺のひっそりとした佇まいという感じであった。 目の前には大橋川が流れる お店は入ってすぐのカウンター席と、窓辺のテーブル席があり、一人でもカップルやグループでも入りやすい感じのカジュアルバー。店内は落ち着いたシックな雰囲気で、棚に並んだウイスキーの他、各種カクテルやフードメニューなどもあった。オーナーさんはとても物腰の柔らかい方でフレンドリー。松江のご出身ということで、他県で修行された後に故郷に戻ってきたとのこと。店舗は元々は雑貨屋さんだったようで、店内もいわゆるウイスキーバー的な長細い空間にカウンターという感じではなく、席も広く取られているので比較的広々としたスペースで十分なゆとりを感じた。スコッチウイスキーの品揃えということでは、ベーシックなオフィシャルが中心。さすがにマニアックなものはニーズがそれほどないらしく、これは致し方ないところ。それでもこうした静かな路地裏の落ち着いた空間で楽しむウイスキーというのは同じものでも、せせこましい都会の喧騒なバーで飲むのとは違う格別な味わいになるというもの。良いお酒はあくまで「五感で楽しむ」ものなので、その場の雰囲気でも味わいの印象は全く異なってくる。素敵な空間を提供してくれるバーというのは、大変に貴重だと思う。今回頂いた銘柄は二つ。一つ目は、スコッチブレンドの「ベル」。この「ベル」(BELL)という名前に肖って、向こうでは結婚祝いにも贈られたりするそうだ。(少し前まではイギリスで最も人気なブレンドウイスキーであったが、今はその座を「フェイマス・グラウス」に譲っているそうだが、、)何となくフルーティで軽い味わいがするものだというイメージがあったが、今回初めて飲んで思ったのはかなりスモーキーでハード、意外にもどっしりした重量感のある味わいにびっくり。キーモルトはハイランドのブレアソール蒸留所ということであるが、シングルモルトとしての流通量が少なく正直ほとんどイメージがない。いずれにせよ、スペイサイド的なフルーティ感とは違った、男っぽい味わいといったところか。 二つ目はアードナムルッカン。これは、プレミアムなシングルカスクウイスキーを出すことで有名なボトラーズのアデルフィ社が新たに建造したアードナムルッカン蒸留所のシングルモルト。ただし、まだ3年の熟成を経ていない時期のもので、正確にはまだスコッチウイスキーと呼べない。ただし、このアデルフィ社は上質な樽熟成が特徴で、3年の熟成を経ていないにも関わらず樽の質感を十分に感じる。アードナムルッカンは2019年よりシングルモルトをリリースしており大変に興味はあるのだが、残念ながら未だにその幸運には出会えていない。 Ardnamurchan 2017 AD 47都道府県制覇の記念ということで訪問した今回のバーは、「リバーサイド」にある素敵な場所だった。次回来るときはもう少し明るい時間帯にお店のテラス席に座って、ゆっくりとした大橋川の流れを見ながらスコッチを一杯してみたい。滞在中は雨が降ったりやんだりのどんよりした天気ではあったが、それ故に立ち込める山の雲と宍道湖の水辺がとても幻想的な雰囲気を醸し出していた。 昼間に立ち寄った宍道湖畔のカフェ 宍道湖と船と雲 川を望む絶景のテラス席 バーカウンターと店内の様子

【香川】A’s(高松)

ローカル電車の走る風景 またやって来ました。用事があるのはいつも対岸の岡山なのですが、最近はこの高松がマイブームなのです。なぜなのか?なんとなく都会からきっぱりと「離れた」気持ちになれる、からでしょうか。新幹線が通っているところは、駅に「東京行き」とか「大阪行き」とか視界に入ってきます。その瞬間に現実がまた戻ってくる感覚になります。また、新幹線という大動脈があると、人の流れも当然にあります。駅近くで飲んでいると、隣に座っている人と出身が同じってことも結構ザラにあります。「高松」という都市は、比較的容易にその動脈から「脱線」できて、でもそこまで田舎風ということでもなく、バー巡りを楽しめる繁華街もあります。なので、本当に最近は一押しの場所です。 駅は海の側(kagawakenudon.com) その玄関口となるのがJR四国の高松駅。今では数少ない「ターミナル駅」(終着駅)です。関西で言うと阪急の梅田、東京だと昔の東急渋谷的な感じでしょうか。要は線路がそこで終わるところ、そしてまた、これを始点として同じ四国内の徳島や松山、さらには瀬戸大橋を渡った岡山に行く電車の始発駅となります。(夜にはサンライズ瀬戸という夜行列車が1便東京に向けて出ています。鉄道ファンには人気の列車です。)さて、駅を降りると大きな広場があり、近未来的というかモダンな建物群が目の前に展開します。ちょっとした飲み屋街も右手にあります。ここで注意したいのは、この界隈が高松の中心ではないことです。繁華街は「古馬場町(ふるばばちょう)」と言いまして、駅から南東の方角にあります。空港からのバスや琴電というローカル電車でいうと「瓦町」という駅を降りた正面に広がります。アーケード街が縦横に走り、その隙間の横道に飲食店などが立ち並びます。規模は大きくありませんが、小さく密集しているので、街歩きには非常に都合の良い大きさです。 カウンター真ん中に鎮座してたアードベッグ10年 今回お邪魔した「A’s(エース)」さんは、その瓦町のバスターミナルから歩いて数分の場所。夕方に高松に着いたのですが、日帰りの予定であったので長居ができませんでした。まだお店はどこも開店前のような感じでどこも営業しておらず、困り果ててアーケードの酒屋さんに立ち寄り、ダメ元でどこか早く開けているお店(バー)をご存知ないか伺ったところご紹介頂いたのが今回のエースさんになります。(買い物もせずご親切にありがとうございます!)丁度酒屋さんからも近く、お店は階段を上がった2階にあり、カジュアルとオーセンチックの間くらいの感じでした。でもカウンターの中の方は皆正装で落ち着いた雰囲気、接客も非常に丁寧、お値段もとてもリーズナブルでハーフ(ショット)のオーダーもOKでした。品揃え的には、ウイスキー、バーボン、ラム、ジンなどオールラウンドに揃えていて、お目当てのスコッチウイスキーについては棚に出ていないモノもあるとのこと。とりあえず、キルホーマンのマキヤベイを頼んで、寛ぎます。お伺いした際には、男性二名女性一名で切り盛りされていて、お客さんにマンツーマンで接客するようなスタイルでした。毎回思うのですが、地方のバーテンダーの方は接客に対する流儀がしっかりしているなと感心します。都会は人が多いので色んな客層の人もいて、サービスも各種各様といった感じですが、地方都市のバーは「それなりの人が来る場所」という感じがします。 いつもはスコッチウイスキーを中心に攻めるのですが、今回はカウンターに座った目の前にあったラム酒に興味が惹かれ、また接客して頂いたバーテンダーの方が「ラム酒」押しの方であったので、今宵はスコッチではなくラム酒の飲み比べをしました。という訳でズラッとならんだラム酒(全てハーフ)です。 ラム酒 ラム酒というのは簡単にいうと、サトウキビ(の糖蜜)を原料とした蒸留酒です。簡単に右側から紹介します。まずは「MOUNT GAY」(マウントゲイ)。「1703」は蒸留所の創業年で、カリブ海のバルバドスにあります。バルバドスは「ラム酒発祥の地」とも言われ、マウントゲイ蒸留所は現存する最古の蒸留所とのこと。(たぶん非合法とかいれたら話は違ってくるかとも思いますが、そこは深く立ち入らないことにします。(笑))バルバドスは元々イギリスの植民地であったこともあってか、蒸留はポットスチルで2回蒸留したものも使われているそうです。また、マウントゲイはイギリスのスパイ映画007シリーズでも、主人公のジェームズ・ボンドと共に登場します。(CASION ROYALE)飲んでみての印象ですが、かなりバーボンに近い芳醇な味わいで、ライウイスキーのようなスパイシーさもあり、パッと思ったのは「カナディアンクラブ」に近いかなと感じましたん。それもそのはずで、熟成にはバーボン樽が使われ、フィニッシュには中をじっくり焦がした(いわゆるヘビーチャーの)アメリカンオーク樽が使われおり、BLACK BARRELというのはじっくり樽を焦がした質感のことかと思います。 カクテルベースにも使われるハバナクラブ ベーシックなハバナクラブと比べてみると分かるのですが、バーボン樽熟成による独特なまろやかさがエレガントな質感を醸し出していると思いました。さすがに300年以上の伝統ある蒸留所の味です。 真ん中は「フロール・デ・カーニャ」、ニカラグアの蒸留所になります。このシリーズのラインアップは熟成年別に、12年、18年、25年、更に30年というのもあるようですが、この「25年」はかなり希少なようです。原料は100%オーガニックで、蒸留には再生エネルギーを活用し、サステナブルな生産にこだわりが。こちらも130年以上の歴史を持つ老舗の蒸留所です。その味わいはというと、ものすごく深みと円熟味を感じるユニークなもの。この味はウイスキーの系統ではなく、恐らくラム本来の熟成感というのかなと思わせる一杯でした。さすがに25年モノということで、お値段もそれなりでしたが、ハーフであればなんと千円台。とても印象に残る味でした。 最後に飲んだのが地元香川のテロワールということで、地元産のさとうきびで造ったラム酒。ただし、熟成はほとんどされておらず、ほとんどニューポットに近い状態、色目も見ての通り透明です。香川(と徳島)は地元のお菓子で「和三盆」という伝統和菓子があるのですが、このお菓子のメーカがクラウドファンディングを通じて、原料のサトウキビを活用してラム酒を作れないかという事で、これまた地元の酒造メーカとタイアップして造られたものだとのこと。市販はされておらず、クラウドファンディングに出資した方へのリターンとしてこちらのニューメークスピリットがリリースされたようです。味わいは、やはり甘さがきます。ウイスキーのニューポットは麦感のほのかな甘さを少し感じる程度ですが、こちらはさすがに「糖蜜」から作るだけあって素材そのものの甘さが十分にある感じ。これから熟成ものも出来てくるようなので、引き続き将来も楽しみです。 左の花びらのような形をしたお菓子が「和三盆」 47都道府県の終着駅は自分にとっては島根県となった。46番目の熊本は昨年、45番目の沖縄はその前の年にクリアした。流石にラスト三つくらいになると、一つ一つの思いも重くなってくるのを感じた。 鉄道旅の好きだった自分にとっては、昔は青春切符で多くの地方を回ったけれど、今は専ら飛行機と車。特に山陰や九州に鉄道だけで行くのは、仮に新幹線を利用したとしてもかなりシンドイ。 その中でも最後まで残った島根は、恐らく多くの人にとって最も遠い県なのでは無いか。空港は出雲にあるが運行は主にJALのみで、新幹線は通っておらず、高速網は幹線と接続しているものの中国道の山の中を寂しく分岐する。 出雲大社の国造りの話でその名をよく知られるが、伊勢や大和(奈良)のような華が無い。「山陰」という名が示す通り、陰に隠れて目だないような存在である。 今回その地に遂に初めて辿り着いて、この目で確認したのは、その「距離感」の上に守られ続けてきた時間の流れであった。忙しくなく変化をし続ける都会の街や、その例に倣って開発が進む多くの地方都市とはやや違い、県都松江にはある種の独特な世界観が保持されていた。

【神奈川】ヴァール・バー(横浜)

新年の初投稿になります。本年も何卒!さて、年初めの参詣というの、いつも並々ならぬ力を入れているフラリーマン。例年は西に出かけるタイミングに合わせたりして、大阪の四天王寺や高野山、京都なら東本願寺など、とにかくご利益に預かろうという下心であちらこちらをフラフラするのが習わし。(やはりお寺は西の方が迫力あって良いですしね。)客先回りも出来ずに行き詰ってきた近頃、ようやくたどり着いた悟りが、とにかく参詣に足を使うという。。(笑) 弘明寺 正門 そんな訳で今回も少し足を伸ばしてたどり着いたのが、「弘明寺」。京急線にはたまに乗ることが有るのですが、この「弘明寺」という駅名に前々からすごく惹かれていました。関西だと寺の付く名前の駅名ってそんなに珍しくないと思うのですが、東京だと10数個くらいですかね、数の割に少ない気がします。京急だと「泉岳寺」とか、メトロの「護国寺」とかでしょうか。 さて、この「弘明寺」ですが、少し調べたところでは横浜で最古の由緒あるお寺のようです。また後で知ったところでは高野山真言宗だったのですね。「十一面観音様」がご本尊ということで、どこの宗派なのかな?と思ってはいたのですが、訪ねてみて割合に小ぶりだったのと、横浜というのはどうしても鎌倉仏教的な流れのイメージが強くて「真言宗」というのは意外でした、しかも「高野山派」とは、関東では結構珍しい気がします。 さて、階段を上って(自分には正直物足りないくらいですが)有難く参詣を済ませてから境内を見渡すと、左手に駐車場に下りる道が。短い階段を下って、裏門から出たところ、何やら怪しげな灯り。パッとみるとウイスキーのバーらしき看板が。しかし、まだ夕方というにも早い時間帯、何かの間違いでは無いかと思い中を確認すると(!)なんと本当に営業されていました。こうなっては、そのまま引き返すのは失礼というもの。カウンター席に腰を掛けてマスターに経緯をお伺いしました。これは記者としての当然の宿命でもあるのです。(大汗) 裏門出てすぐに目に飛び込んできたお店の看板 開店はなんと午後3時からとのことでした。しかも、特に昨今の状況を反映したものではなくて、開店した当初(といっても1年前くらいだそうですが)からなのだそうです。最近は特に土日が休みという風潮でも無いらしく、平日の昼間でもお客さんが来られるのだとか。さらにリモートで仕事をするサラリーマンも増えていて、時流にも乗った形。その代わりにお店も深夜まで営業せずに早めに閉めるそうです。とても健康的なお店です。マスターは元々別の場所で雇われ店長をされていたとかで、バーテンダーとしての経歴は20年以上の大ベテラン、といってもまだまだ若くて、動きもキレがあります。やっぱりどんな場所でもこうした仕事に緊張感を以て働かれる方は本当に尊敬します。(己の反省を込めて、再汗) まだ西陽の注ぐ明るい店内の様子 お店の中はとてもシンプルな造り。カウンター席と、二人掛けの小さなテーブル席が二つほど。マスターお一人で立たれているようなので、このぐらいが丁度良いのかもしれません。店内はこじんまりしていますが、窮屈という訳では無く、十分にスペースを感じてくつろげる感じです。お酒は割とベーシックなものが多めですね。ウイスキーはスコッチとバーボン、それからジンやウォッカなど。シンプルながら必要最低限なものはしっかりと押さえているといった感じ、簡単なフードメニューもありました。オールラウンドに対応できるお店だと思います。さて、とりあえずはタリソーで最近の景気の話なんかをしたところで、目の前にあるクリスタルのデカンターボトルが気になりました。 オシャレなデカンタボトル 何かと思い尋ねてみると、これは(今は退役した)豪華客船「クイーンエリザベス号」の船内で特別に販売されていたスコッチのシングルモルトだそうです。一応、中身はローランドのオーヘントシャンだそうですが、縁あって譲り受けたものらしく詳細はナゾのようでした。オーヘントシャンは数少ないローランドの蒸留所。スコッチでは珍しく(アイルランド式に)3回蒸留を行うことで有名。1984年~モリソン・ボウモア社傘下になり、その十年後の1994年には日本のサントリー社が買収、現在はビームサントリー傘下の蒸留所となっています。中身の「ヒント」としてなのか、隣にはオーヘントシャンのスタンダードボトル「12年」が置かれていました。興味本位でクイーンエリザベス特別ボトルのワンショット価格を聞いてみましたが、まあまあリーズナブル。ちょっと悩みました(汗)。でも、さすがに時間も早いし、今回は断念しました。ローランド系のお酒は普段あまり飲まないので、特別ボトルを頂くなら12年と合わせたり飲み比べしてみないと、そのありがたみも分からないですしね。今度また機会があれば、ということで、その代わりに同じローランドの「グレンキンチー」を。これも正直初めてとは言わないけど、お久しぶりの銘柄。こちらは2回蒸留ですが、仕込み水は硬水です。ローランドのお酒は、「特徴的でないことが特徴」なのかというのが自分の解釈。ある意味、何とでも合わせられる、万能な味といったところでしょうか。グレンキンチーについては、それに加えモルト本来の甘味を感じます、でも余韻はスパイシーなスッキリ感でアイリッシュとはまたちょっと違う感じ。「食前酒」とも紹介される理由が分かる気がします。 カクテルとかも充実してます。 今回こちらでソーダ割とシングルモルトにナッツを注文して、二千五百円くらいでした。お店の雰囲気的なところからいっても結構リーズナブルかと思います。さて、こちらのバーですが、名前をヴァール・バー(Wahl Bar)と言います。お店の名前の由来をお聞きするのを忘れて居ましたが、ヴァールはたぶんドイツ語から取っているのだと思いますが、「選挙」という意味の他に「一級品」という意味もあります。たぶん後者の方だとは思います。因みに、バーを後にして気付いたのですが、ここは現総理のお膝元のようですね。ポスターとかが街頭に貼っているのを目にしました。 今年は、まだ明けたばかりですが、色々なことが不透明です。オリンピックもどうなることやら。そういえば、今回の一連の発端となったのは、クルーズ客船「ダイヤモンド・プリンセス号」でした。当初は世界中からアレコレ言われましたが、結局はあれが既に起こるべきことの「予兆」だったのだとしみじみ思います。あの時は、まさかあの船内で起こったことが、世界中に(特に欧米に)拡散していくとは夢にも思いませんでした。ちょうど今くらいの時期でしたかね、船内で感染者がいると騒ぎだしたのは。。 とにかく健康が何よりも第一であるということを再認識するとともに、やはり規則正しい生活というのが一番だとしみじみ思います。ある意味、夜通し飲むとか、そういうことが武勇伝のように語られること自体が少し何か違うような、そんな当たり前のことが今回の事態になって割と再認識されてきたのではないでしょうか?これからは、やっぱり仕事とかもやるべきことを集中してやって、終わったらなるべく早めに帰るようにして、とにかく生活にリズムをつけてやっていくことが大切なのかと思います。日本ではあまり昼呑みというのは世間的にもまだまだ許容されていませんが、同じ酒を飲むなら、夜遅くに飲んで二日酔いになるより、早めに節度ある量を飲んで(楽しんで)お開きにするのがベターなのかと思ったりします。というわけで、これからも早めにオープンするバーがもっと増えてくれば良いなあ、という願いを込めまして、また皆々様のご健康を祈願申し上げて2021年初投稿といたします。今年も引き続きお付き合いの程、よろしくお願いいたします!
ウイスキーと大麦畑

【記事】「テロワール」を求めて

ウイスキー作りにおいて、「テロワール」の価値観が見直されている。「テロワール」というのは簡単に言うと、その土地の「風土」みたいなもので、フランス語の「terre(土地)」から派生したと言葉。良く知られているのはワイン作りにおける「テロワール」で、ブドウが栽培される土地の場所、土壌、気候などの自然環境の違いに起因する味わいの違いで、隣同士の畑で同じブドウを育てても、「テロワール」の違いから全く異なる味わいのワインが出来上がることもあるそう。 お酒の原料となる材料(ワインの場合はブドウ)が比較的大きな役割を果たす醸造酒に対して、それをさらに蒸留してアルコール分を抽出したウイスキーなどの蒸留酒は、原料の役割というものはそれほど大きく取り上げられることは無かったように思う。ウイスキーの場合、原料は「大麦」「水」「酵母」の3つであるが、アルコールを作る元となる糖分を得る「大麦」について、その味わいが最終製品であるウイスキーにどのような影響を与えるか?というのは、あまり考えられてこなかった。それよりは、実際の味わいを決定づける要素は長期間熟成する際に使用する「樽」の特徴や組み合わせなどであり、加えて「発酵」や「蒸留」などの工程で得られるアルコールの性質の違いなどが、ウイスキーの味わいの根幹を作るものだというのが一般的な考え方のように思う。 また、もし「テロワール」という要素がウイスキー作りにあるとするならば、それは蒸留所の立地する場所の風土であり、特に、熟成する際の貯蔵庫がある「場所」が周囲の環境から与えられる影響の方かもしれない。例えば、海に面した貯蔵庫で保管されるウイスキーであれば、熟成期間中に潮気が中身に吸収される、というようなことである。 ところが、最近になって新しく出来たスコッチウイスキーの蒸留所の中で、ウイスキー作りのベースとなる「大麦」の役割を改めて見直そうという動きが出てきている。その動きがどのようなものかについて、次の3つのトピックを中心に少しご紹介したい。 ・FIELD TO BOTTLE (畑の味をボトルに) at Waterford スコットランド・アイラ島で閉鎖されていたブルックラディ蒸留所を見事に復活させたマーク・レイニア氏が、アイルランドで新たに立ち上げたスコッチウイスキーの蒸留所「ウォーターフォード」。レイニア氏が新たな挑戦の場としてアイルランドを選んだ理由として、ブルックラディ時代に同蒸留所で長年に製造現場で勤務したダンカン・マクギリブレイ氏から、彼の見た最高の大麦がアイルランド産であったことだと語っている。その彼がギネスのビール工場を改装して作り上げたウォーターフォードが追及するのが「農場」のテロワール。すなわち、ワイン作りにおいて隣同士の農園のブドウで味が違うのと同じように、ウイスキー作りにおいても「畑」の違いを表現するという「試み」だ。(もちろん、これを「試み」というのは、一般的にウイスキーの世界では、畑の違いを最終製品のボトルに落とし込むということは不可能だと考えられているからに他ならない) ・SINGLE MALT IN U.S.A. (シングルモルトを、アメリカで) at Westland バーボンのアメリカでシングルモルトウイスキーに挑戦する、西海岸のウエストランド蒸留所。シングルモルトの本場であるスコットランドから遠く離れたこの地で、「パシフィック・ノースウエスト」(PACIFIC NORTHWEST)のテロワールを前面に押し出したウイスキー作りを目指している。創業したマット・ホフマン氏の語るところでは、土地の風土や自然環境だけにとどまらず、起業家精神溢れる米西海岸の文化的な価値も織り交ぜることで、ウイスキー作りにも革新をもたらそうとしている。それは地元のワシントン州の「大麦」を使う事だけにとどまらない。地元産のピートや、ギャリアナオークという稀少なオーク材を活用した熟成樽の活用など、シングルモルトの作り方を忠実に再現しながらも地元の資源を最大限に活かすことで自分たちの個性を表現しようとしている。蒸留所の各工程で使う工程にも、地元で有名なクラフトビールの機器類を参考にしたものも取り入れており、スコットランドの蒸留所とは様相を異にする。蒸留所の立地と周辺環境で得られるものを取り入れて、その地に根差す「テロワール」を探求している。 ・ROOT IN COMMUNITUY (コミュニティに根差して)at Bruichladdich 「コミュニティ」の大切さを語るのはブルックラディの若き製造責任者アラン・ローガン氏。同蒸留所はウイスキーの本場スコットランドのアイラ島にあるクラフトディスティラリーだ。この小さな辺境の島は、独特なピートの香りとスモークな味わいで有名なウイスキーを作る老舗の蒸留所が数多くあることで知られる。2001年にブルックラディが復活した時に、ローガン氏は蒸溜所で見習いとして働き始め、ジム・マッキュアン氏やダンカン・マクギリブレイ氏という業界の大ベテランの薫陶を受けた。彼の父はラフロイグで働いており、祖父や叔父といった他の家族も皆が蒸留所に関係する仕事をする中で生まれ育った生粋のアイラっ子だ。彼が大切だと説くのは蒸留所の、そのコミュニティにおける存在意義である。ブルックラディも原料のテロワールを重視する蒸留所として知られるが、その意義は良いウイスキーを作るというだけにとどまらない。テロワール・ウイスキーを島で作ることで、蒸留所が雇用を生むだけでなく、原料を提供する農家はウイスキーを作るための大麦を作る仕事を得るし、ボトリングしたウイスキーを運ぶ必要もでてくるなど経済的な効果が立地するコミュニティに波及する。合理化を進めて利潤を目指す考え方もあるが、彼は否定的だ。あくまで立地するコミュニティとの共存共栄をベースに考え、その土地で将来にわたってビジネスが持続可能なように計画を練るのだという。 このように彼らは別々の場所においてそれぞれのアプローチで自らが運営に携わる蒸留所のテロワールを追及している。その意義は深い。それは単に美味しいウイスキーを作るということにはとどまらない。原料の大麦が育つ「畑」や、周辺環境、さらには蒸留所が立地するコミュニティとの共存など、その土地(や人)との対話や関係作りを構築することでウイスキー作りの新たな境地を開こうとしているのだ。このような取り組みは上に紹介した蒸留所だけにとどまらない。現在、スコットランドだけではなく世界的に広がりを見せているモルトウイスキーの現場では、各地でこうしたその地の「テロワール」探しが進化を遂げている。もしこうした蒸留所のウイスキーに出会える機会があるならば、グラスの中に注がれた液体の中に、そのテロワールを感じてほしい。 画像クリックでトップページに戻ります。

【兵庫】バー・メインモルト(神戸)

ハイカラの街、神戸に立ち寄りました。本当はバー巡りをする予定も無かったのですが、小1時間ほど時間が空いたので、迷わずこちらのお店に直行しました。「バー・メインモルト」。やはり神戸でウイスキー・バーといえばココでは無いでしょうか。 さて、店の前まで来て少し立ち止まりました。昇り階段の上を指す看板が表に出ています。前回に初めて来たときは地下に下りた記憶があったので、GoogleMapで検索するときに店の名前を間違ったかな?とも思ったのですが、アレコレ思案している時間も無かったので思い切って階段を上り、店の扉を開けました。最初は少し暗くて分かりにくかったのですが、店内をグルっと見て、店の感じに少し懐かしい感じがよみがえりました。店の入り口の方のカウンターに座りちょこっと座って、マスターのお顔を拝見して、またその後ろの棚にずらっと並んでいるアイリッシュの山を見て、「あ、ココだ!」と確信に変わりました。 アイリッシュがズラリの図 経緯を伺ったところでは、数か月前くらいにこちらの店舗に移転をされたとのこと。出迎えてくれたアイリッシュは前回来たときはジェムソン軍団でしたが、今回はティーリングでした。アイリッシュがこれほどまでに揃っているウイスキーのバーは、自分は正直ここの他に知らないです。アイリッシュは銘柄もスコッチに比べるとかなり限られるので、棚に10本くらい見かけたら「多い方」ではないでしょうか?こちらでは、アイリッシュの一つの銘柄だけで優に10本以上はあります。マスターのアイリッシュ愛ゆえなんだろうと思います。 ところで、「アイリッシュは何ぞや?」という事について一応、簡単に話をしておきます。ウイスキーの生産地と言えば、今でこそ「スコットランド」のイメージが強いと思いますが、ずっと昔(18~19世紀ごろ)は「アイルランド」でした。「アイリッシュ」というのは、アイルランドで作られるウイスキーのことですが、製造方法などにも少しスコッチと違う特徴があります。例えば、原料にモルト(発芽乾燥させた大麦麦芽)だけでなく、未発芽のものを加えたり、乾燥にピートを焚かなかったり、蒸留を3回したり(スコッチは基本2回)等々。その結果どうなるか?という事なのですが、自分の感覚でいうと「まろやかで飲みごたえのあるウイスキー」になります。これはおおむね、アイリッシュであればどれも言えるのではないかなと思います。(*) *現在はピートを炊いたもの(⇒有名なもので「カネマラ」)や、製法はスコッチで原料をアイルランド産で作る蒸留所(⇒ウォーターフォード蒸留所)なども登場してきています。 お酒の質感も、なんとなくですが、スコッチを焼酎とすると、アイリッシュは日本酒(もしくは麦焼酎やコメ焼酎的なやさしい感じ)的な感じがします。とにかく、飲みやすい。ウイスキーなのにグビグビいけてしまいそうです。このマイルドで飲みやすさがとても魅力的なので、例えばウイスキー初めての方にはアイリッシュはとてもお勧めです。(ですがアルコール度数は40度以上であることを忘れてはいけません!(笑)) アイリッシュの銘柄についてですが、有名なもので二つ。「ジェムソン(JAMESON)」と「ブラックブッシュ(BLACKBUSH)」。両方ともブレンドウイスキーです。まろやなか口当たりが特徴で、この二つは割とどこのバーにも置いてある基本ラインアップの中になると思います。「ジェムソン」はアイルランド南部のコーク県にあるミドルトン(Midleton)蒸留所で作られておりポットスチル式とグレーンをブレンド。アイリッシュウイスキーで最も販売量の多い銘柄。「ブラックブッシュ」は北アイルランドのオールド・ブッシュミルズ蒸留所にて製造。特にアイルランドの伝統的な製法である「3回蒸留」で有名、「ブッシュミルズ10年」は3回蒸留で100%モルト使用のアイリッシュ・シングルモルトウイスキーとして有名です。その他、最近になって新しい蒸留所も次々と登場しています。ピートウイスキーのカネマラ(Connemara)等で知られるクーリー蒸留所(現在はビームサントリー社傘下)の他、キルべガン(Kilbeggan)蒸留所、ティーリング(Teeling)蒸留所などです。アイルランドの新興蒸留所の銘柄はなかなかお目にかかることが無い印象ですが、こちらのモルトバーでは有名どころでも蒸留年やウッドフィニッシュの違いなどによる様々なボトルや、新興蒸留所からリリースされた新たらしいウイスキーの多くが見事なほどに揃っています。 さて、アイリッシュについての教科書的な話はこれくらいにしておいて、バーに戻ります。時間も限られる中なのでパッと思いついたタラモアデューをソーダ割で頂いてから、棚やカウンターのボトルをじっくり観察。それにしても色々と置いてあります。最近出た国内のクラフト蒸留所、厚岸の「寒露」や、静岡ガイアフローの「プロローグK」なんかもさりげなくカウンターに置かれていると思えば、レッドブレストの21年やティーリングの29年なんていうボトルも!(いったいいくらするんだ!泣)せっかく神戸まで来たのにブレンドのハイボールで満足して帰る訳にはいかない、けど棚のボトルがいくらするのかも分からない、こういう時にどうするか?はい。こういう場合は、「素直にマスターに予算を伝えてアレンジしてもらう」が正解です。そんなワケで出てきたのが、ティーリングのシングルカスク。 今宵の一杯をストレートにて ティーリングは2015年にアイルランドの首都ダブリンに125年ぶりに開設した新興蒸留所のひとつ。1985年にクーリー蒸留所を立ち上げたジョン・ティーリングが、2012年に蒸留所を当時のビーム社(現ビーム・サントリー社)に売却、その時得た資金を元手に立ち上げたとそうです。ボトルには2015年蒸留の2020年瓶詰とありますから、本当に直近のリリース品という訳。熟成はバーボン樽だったかと思いますが、アイリッシュらしいまろやかな味わいの中に、熟成した果物や香辛料的なピリッとした感じもします。5年という熟成期間の割には味わいに奥行きがあります。余韻も優しく飲みごたえ最高です。さすがの一品に大満足。 こうした落ち着いて飲めるバーに来て毎度感じることですが、その場の雰囲気に浸っているだけでもワクワク感があります。隣の席では(ウイスキーの)業界関係者らしき方がお二人、マスターとなにやらボソボソ話をしています。奥の席に座った会社帰りと思しき背広組の3方は仲間内で棚のボトルを見ながら談義しています。ウイスキーのバーは本当に宇宙です。ココに来れば、ただのウイスキー好きのみならず、業界の関係者や本物のコレクターなど様々な方が集結してきます。ウイスキーは趣向品なので、やはり来る人もそれなりの構えの方が多い気がしますし、オーセンティク系のバーであればお店の方も来られる客に応じてきっちりとした品ぞろえと対応で迎えてくれます。こうした循環で、お店の雰囲気が醸成されていくような感じです。こちらのような古い名門バーであれば、お店に入った時に何かやはり独特のオーラのようなものも感じます。少しばかりのチャージ料を払えばそこに出入りできて、その素敵な空間を共に楽しむことが出来る。更には棚に置かれている貴重なウイスキーをいただけるという訳なので、よくよく考えてみると、こんな嬉しいことは無いのかなと思います。今回は時間も無くバタバタでしたが、次回はゆっくりと来たいですね。時間と心にも余裕があってこそ、十分に味わえるものでもあるのですから。 ACCESS:(神戸)三宮駅を山側に出て徒歩5分くらいです。

【山梨】BAR LIBERTA(大月)

アメリカンクラシックな感じ 山梨県というのは都心から近くにありながらも、あまり訪問する機会がないんですよね。ところが、今回たまたま富士吉田に用事があったため、電車と車を使い久々にお邪魔しました。やっぱりこの季節なので、日が暮れると都心に比べて冬が近い感じ。今回、途中下車したのが中央線の大月駅。(この駅は何度も特急で通り過ぎてますが、下車するのは初)。来てみて改めて思ったのですが、特急だと早いんですね。八王子から30分、新宿から1時間ちょい。特急なら通勤圏でもいけそうですね。 とはいっても、大月市の人口は2万人弱。特急も半分は通過するので、そこまで人の往来がある感じでもありません。電車も特急含めて1時間に4・5本的な感じです。駅を降りると昔の街道らしき旧道が走っていています。居酒屋さんで「ほうとう」食べて腹ごしらえした後に、探索していると今宵のお店を発見しました。(まだ、開店準備中でマスターさんをバタバタさせてしまいました。すみません!) オシャレなグラス。スワリングに失敗しないw 席について棚のラインアップをざっと見た感じは普通のバーという感じでした。ところがここのバーは少しタダモノではないことが徐々に明らかになっていきます。バーは開店してから5、6年くらいだそうです。少し近辺を散策した感じから、やはり(街に)元気が無いんですかね~、というような話をしていたら、最近になっていくつかお酒に特化したお店ができているんですよ!とのこと。山梨は地元の甲州ワインが有名ではありますが、日本酒や焼酎に特化した居酒屋さんとかもあるそうです。やはり訪問した時間が早すぎたのかな?なんてことを思いながら、とりあえずピリッとするためにラフロイグ(セレクト)を注文。ドライなスモーキーさを味わいながら、ど真ん中に鎮座していたマッカラン(12年)へ。都内だとちょっと引け目が出て頼むことが億劫なのですが、ワンショット1000円でした。ありがたや。やはり味はさすがです。スペイサイドのメジャー所のラインアップでいくと、やはり一つ抜けてる感ありますね。 色々と話を伺いながら楽しんでましたが、どうもマスターさんはコレクターでもあるようです。都心にも買い付けに行かれたり、あと、すごいと思ったのはオールドボトルも収集されているようなのです。オールドボトルって通常は店とかで買えるものでは無いので、一般の人が簡単に手を出せるものではないと思います。やはり何らかのコネクションなりが無いと、入手するのは難しい。でも、お店に置いてあるものを「頼む」ことはできる!ってな訳で、この怪しげなタラモアをワンショット頼んでみました。(因みに価格も凄く良心的でした。もちろん、事前に確認しました。汗) 一口含んだ感想ですが、正直自分の知っているタラモアではすでにないです。強いて言うならカナディアンのライウイスキーを熟成しちゃった感じ。スコッチでこんな味は初めてです。(この瓶の残り分だけってこと考えると、また行きたい!って帰り道にずっと反芻しました) 最後のシメはボウモアのナンバーワン。この「ナンバーワン」というのは、ボウモア蒸留所の最古の貯蔵庫「第一貯蔵庫」(Vault No.1)が由来。建屋が海抜0m以下にあることでも有名ですが、アイラ3姉妹に比べてそこまで磯の香があるというワケでもなく、アイラモルトの中でボウモアはマイルドな位置づけ。その中で、ナンバーワンはしっかりと味がまとまっている印象です。マスターから、これをシメにするならタラモアのオールドにしておけばよかったですね!と言われたのですが、そこでハッとしました。そういえば(というのも失礼ですが!)山梨と言えばサントリー白州でした!お店にもちゃんとおいてありましたが、白州の地元でも入手困難だそうで、たまに白州工場の方がこられると「何とかしてくださいよ~」ってお願いしてるそうです。いや、これは本当に地元の貴重な「資源」だと思うし、ぜひとも地元の方にその魅力が広まると良いなと思います。笑