LAKES DISTILLERY 投稿者: MKproduction 2021年1月7日2021年1月9日 ミッションを以て生まれたイングランドの蒸留所、レイクス蒸留所。 多くのスコットランドの蒸留所が、昔から脈々と受け継がれてきた伝統や慣習と対話をしながら、今日における自らのブランドイメージを展開していくのに対して、初めから「使命」を与えられて生まれた蒸留所がイングランドの地に誕生した。その名を「レイクス蒸留所」という。蒸留所の位置する湖水地方はイングランド有数の保養地としても知られる風光明媚な場所で、世界遺産にも登録されている。蒸留所に与えられた使命はブティックスタイルのラグジュアリーなブランドを確立すること。その使命を全うするために蒸留所の責任者に任命された人物はかなり異色の人物であった。 DHAVALL GHANDHI氏 ”私にとってウイスキーとはコミュニケーションをする「言葉」なのです。我々はウイスキーを通して飲む人の感情を揺さぶろうとしています。もし、飲んだ時に何かの感情が沸き起こってくれれば、ウイスキーメーカーとしての私の役割は成功したと言えるでしょう。”(Master of Maltとのインタビューより) 蒸留所の製造責任者に任命されたのはDHAVALL GHANDHI氏。彼の経歴は非常にユニークである。元々彼は、大学で金融を専攻し、大手会計事務所アーンスト・アンド・ヤングのM&A担当として勤務をしていた。 彼は毎週アメリカのケンタッキー州に仕事で出張に行っていたのだが、ある時当時の上司と共にバーボンの生産で知られるケンタッキーの蒸留所を巡る機会を得た。その時に彼は感銘を受け、ウイスキー業界でブレンダーとして働きたいと一念発起をした。そして、その次の週にはすでにウイスキーの勉強を一から始めることを計画し、当時の仕事を退職してからエジンバラのヘリオット・ワット大学でお酒の勉強に没頭する。 無事勉学を終えたものの、ウイスキー業界での就職の口は無く、代わりにオランダのハイネケンのイギリス国内での工場に職を得て勤務を始めた。その後、本社のあるアムステルダムとイギリスの工場を行き来するなど仕事で活躍をするうちに、ある日、リクルートエージェントからブレンダーとしての職の口のオファーを受ける。更に、何社から同様のオファーを受けた彼は、自身も憧れであったマッカランで働くことに決めた。その後、マッカランの親会社でもあるエドリングトンの本社でも勤務するようになった彼の元に、また電話がなった。今度は、アラン・ラザフォード博士からであった。彼はイングランドに新たに一から蒸留所を建設しようとしており、その計画に参加するよう求めるものであった。当時マッカランで働いていたガンジー氏にとって、全く無名の蒸留所で働くことに不安はあったものの、「白紙」の状態から新しいウイスキーを作り上げようとするプロジェクトに共感し、マッカランを辞してこのレイクス蒸留所の創業チームへの参画を決めた。 ウイスキー・メーカーのダヴァル・ガンジー氏 数百年の歴史を持つスコットランドの蒸留所の中にあって、イングランドでの蒸留所は全く歴史を持たない。レイクス蒸留所の挑戦は全く何もないところから始まった。レイクス蒸留所の製造責任者となったガンジー氏は、スコットランドの蒸留所のように脈々と培われた伝統のページを紐解くことではなく、最高のモルトウイスキーを作るというレイクス蒸留所の使命を以て、それにふさわしいウイスキーのレシピや素材を考える、という逆の発想が求められた。その成果は2018年7月、蒸留所の初めてのシングルモルト「GENESIS」のオークションで披露された。新しく出来た蒸留所が一番初めにリリースするボトルの第一号品がオークションで7,900ポンドという歴代最高価格を記録したのだ。 "GENESIS" レイクスの特徴は基本的にシェリー熟成であるという点。これはガンジー氏の特別なこだわりなようで、実際にスペインに赴きシェリーについても緻密に調べた上でセレクトしているという。シェリーの中でもオロロソがメインで、PXとフィノが補完する。樽材については、アメリカンオークとスパニッシュオークのコンビネーションにより、深みと軽やかさの両方をバランスよくウイスキーの味わいに含ませることができるのだそう。シェリー以外にも赤ワインカスクやバーボン樽を使い全体的な味のバランスを調整している。GENESISの場合は、最初にオロロソのホッグスヘッド樽で熟成した後に、ヨーロピアンオークとアメリカンオーク樽に分けて熟成をし、最後にスペインのオレンジワイン樽でマリッジするという三階層の熟成を経ている。これにより味わいにレイヤーを作り出して深みも持たせている。また、ガンジー氏はブランデーやコニャックの業界で言われる「エレバージュ」と呼ばれる手法も取り入れようとしている。これは単にアルコールを熟成樽に寝かせて時を待つというのではなく、適宜その保管状況を調整するなどしながら自らの思い描く味わいに近づけるための、いわば熟成プロセスのマネジメントのこと。こうした一つ一つのプロセスを緻密に行うことで、最高のウイスキーが出来上がっていく。 サンプルは全てシェリー。樽の種類や大きさで色合いが全く異なる。 レイクス蒸留所が繰り出すスペシャルラインアップ「クォーターフォイル・コレクション」。クオーターフォイルとは四葉のことで、古来ケルト文化においては「信仰」「希望」「幸運」「愛」を象徴とするとされた。レイクス蒸留所はこのケルト文化を自らのアイデンティティと融合させ、シェリー樽とオーク樽のそれぞれの独特な特徴を引き出した限定販売品を2018年から4年をかけてリリースしている。 The Quatrefoil Collection(lakesdistillery.com) レイクス蒸留所はウイスキーの他にジンやウオッカも生産、蒸留所に併設するカフェやバーなどのビジターセンターのアップグレードにも注力している。蒸留所の位置する湖水地方一帯のブランドイメージとの相乗効果を図りながら、更にイノベイティブな展開が期待される。今後の動きに目が離せない。