ポート・オブ・リース蒸留所はスコットランドの首都、エジンバラに新しく建設中の蒸留所。創業はエジンバラで生まれ育った幼馴染の二人、パディー・フレッチャー氏とイアン・スターリング氏。幼少期から同じ学校に通い育った二人が、故郷エジンバラで自分たちの思い描くウイスキーを造りたい、そしてかつて貿易港として栄え多くの蒸留所が稼働していたリースの港に活気を取り戻したい、という思いが出発点。2013年に具体的な計画を始めた蒸留所建設構想の工事がようやく始まり、2022年にグランドオープンの予定。
蒸留所の夢の始まりは大学を卒業してロンドンで就職をしたときにアパートをルームシェアしたころに遡る。パディーは会計士として、イアンはワインの卸業者で働くことが決まった。二人で生活をし始めてからのルーティンが、お互いに交替でウイスキーを買い付けて部屋で品評会を兼ねた宅飲みをしていたのだそう。初めのうちはセインズベリーなどのスーパーでセールをしているようものが中心だったそうだが、次第に味わいに対する理解と情熱が深まる。高級バーとして知られるミルロイズ・オブ・ソーホー(Milroys of Soho)を訪れた際に味わったウイスキーの感動が、自らの蒸留所を持ちたいと思うようになった原点のようだ。しかし、まだこの時点では「夢」にしか過ぎなかった。
この「夢」が俄かに具体化したのが2014年。ワイン卸で働くイアンがある中国のクライエントに蒸留所建設の想いを語ったところ、「それなら出資しよう!」という思わぬ回答が。すぐさま計画の立案を候補地の選定を行いその出資者に報告をしたが、いざ出資の段になって音信不通になってしまう。途方に暮れていたが、同じ中国で今度はプロの投資家が出資を受け入れてくれることに、ところが、蒸留所建設の候補地の都合がつかなくなりまたもやとん挫。エジンバラはUNESCOの世界遺産にも登録されており、新たな建築物に対する許可は非常に厳しいことでも知られ、出資者を見つけるとの同様に建設候補地選びも難航した。そんな中、エジンバラ市の仲介で紹介されたのが、港湾地区のリースでエジンバラ最大の商業施設を運営する「オーシャン・ターミナル」(Ocean Terminal)。年間で40万人を集客するロイヤル・ヨット・ブリタニアに隣接する区画が当てられ、蒸留所建設に向けた出資にも協力をしてくれたのだ。ここからは蒸留所実現に向けた動きが加速化していく。
新たな蒸留所建設と運営には10億円強の費用が必要だと算出すると、アメリカ、フランス、スウェーデン、香港など世界中を巡り出資者を募り、蒸留所はグラスゴーを拠点とする360(スリーシクスティ)アーキテクチャーがデザイン。その特徴は狭い立地の特徴を逆に生かしたモダンなビルの外観をする蒸留所。(スウェーデンのマクミラ蒸留所を彷彿)2020年からいよいよ建設が始まり、その完成に向けて現在着々と工事が進んでいる。その様子は同社のツイッターを通じても確認ができるm/leithdistillery)。計画では蒸留所の最上階に市内を一望できるバー&レストランを設け、下の階層が蒸留所となる。スウェーデンのマクミラ蒸留所と同じ原料と加工の工程は、いわゆる通常の蒸留所の様に「ヨコ」ではなく、「タテ」。建物の中を上下する形で生産が進んでいく格好となる。ビジターセンターは敢えて設けず、蒸留所の生産設備そのものを実体験してもらうような、アトラクション型の設備になるようだ。マッシュタンやタンクはスペイサイドのキースにあるLHステンレス社製、ポットスチルは同エルギンのコッパーワクス社製ハンドメイド品を導入予定。年間100万本のキャパシティを計画しているという。建設工事も地元企業が請け負う。ラッセイ蒸留所やキングスバーン蒸留所を手掛けたコロラド・グループや、蒸留所建設のスペシャリストであるアレン・アソシエーツが担当、オール・スコットランドの陣営で首都エジンバラでのウイスキー造り再興に向かっている。
この新たな蒸留所が出来るまでの間、港湾地区の工業団地の倉庫で既にウイスキー造りとブランド確立に向けた準備がすでに始まっている。それは、近代において貿易港として繁栄したリース港の歴史とゆかりのあるラインアップとなっている。まずは、エジンバラ生まれの医師で、壊血病(*所が出来るまでの間、港湾地区の工業団地の倉庫で既にウイスキー造りとブランド確立に向けた準備がすでに始まっている。それは、近代において貿易港として繁栄したリース港の歴史とゆかりのあるラインアップとなっている。まずは、エジンバラ生まれの医師で、当時の船乗りがビタミンCの欠乏により壊血病に苦しんでいたころに、その対処法として柑橘類の接種が有効であることを証明したことで知られる。そのリンドの功績に因んで出来たのが、本格的なドライジン「リンド&ライム(LIND&LIME)」。最近流行りのフレーバージンとは一線を画し、ジン本来の味にこだわったクラシカルな味が特徴だと言う。
また、スコッチウイスキー生産を見据えた商品が「オロロソ・シェリー」。元来、リースの港はスペインやポルトガルからスコットランドに輸入されるシェリー酒の主要港であった。ウイスキーの熟成にシェリー樽の空き樽を使う習慣が生まれたのも、リースの保税倉庫が発祥だといわれている。こうした縁もありポート・オブ・リースのウイスキーはシェリー熟成がメインになると思われる。熟成に使用する樽は、スペイン南部のへレス地方、サンルーカルで480年以上の歴史を持つ老舗醸造所「ボデガ・バロン」から調達を予定。その「空き樽」の準備として、その中身であるシェリーそのものをリリース。ウイスキーのフレーバーにおいて熟成樽の影響は大きく、将来リリースされるウイスキーのフレーバーのヒントにもなるだろう。
ウイスキーのスタイルとしては、どのようなものになるのか、これはまだ想像の域でしかない。地域的な区分としては「ローランド」ということになるが、これがどの程度彼らのウイスキー造りに影響するのか。かつて貿易港として繁栄したリースの町の「再興」を目指すことが彼らの原点であることを考えると、奇抜なものと言うよりはウイスキー造りの原点に返るような古典的スタイルなものにはなりそうである。また、蒸留所にはラボも併設される予定であると言う。すでにヘリオット&ワット大学と提携をして、リサーチが進められている。特にこだわりをもっているのが、「発酵」の工程。これまでウイスキー造りでは使われたことが無い品種の酵母を使い、フレーバーについての研究が進められているようである。以上を総合すると、ライトでフルーティな、都会的で飲みやすいフレーバー・スタイルになるのかと予想するが、果たしてどうなるか?とりあえずとしては目下進んでいる蒸留所の完成が楽しみである。