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韓国初のシングルモルト スリーソサエティー蒸留所

アジアにおけるウイスキーと言えば、知名度としては日本が誇るサントリーやニッカなどのジャパニーズウイスキーの他、最近では台湾のカヴァランや、生産量では実は世界ナンバーワンともいわれるインドのウイスキー、更にはアジア太平洋という意味では、オーストラリアやタスマニアでも名高いウイスキーが知られています。

そんな中で「韓国」においても最近になってようやく初めてのシングルモルトを目指す蒸留所が誕生しました。2020年6月に設立した「スリーソサエティ蒸留所」です。場所は首都ソウルの近郊にある南楊州(ナムヤンジュ)市というところにあります。ソウルから鉄道で1時間強くらいの距離にあり、最寄駅から少し離れた山の麓に位置します。蒸留所はおおよそ交通の便はどこも不便なところにあるのが一般的かと思うので、ソウルから一時間強であれば都会に近いとも言えるかもしれません。この地が選ばれた理由としては、一年を通して寒暖の差が激しいこと。これにより、スコッチウイスキーが樽の中で熟成するスピードが、寒冷地のスコットランドなどに比べて早くなります。すなわち、スコットランドでは10年以上の長い時間をかけて熟成をしますが、スリーソサエティ蒸留所では半分程度の期間で同じくらいの熟成効果を達成できるそうです。

創業者のブライアンとマスターディスティラーのアンドリュー(http://month.foodbank.co.kr/)

さて、何ゆえに今に至って韓国初のウイスキー(もちろんスコッチウイスキー)の蒸留所が出来たのか、という話ですが、創立者のブライアン氏(도정한/ DO BRYAN HAN)は韓国系アメリカ人。元はマイクロソフトに勤務していたITエンジニアだったようです。アメリカの大学を出てから韓国に戻り放送局などでキャリアを積みながら最終的にはマイクロソフトに10年ほど勤務、将来的な展望も十分にある中で、敢えてその職を辞しバーを開店。自宅で自前のクラフトビールを作るくらいにビール好きで、当初はクラフトビールを事業に据え2014年にHand&Malt社を立ち上げました。機械化の進む業界の動きとは逆に手作り感を前面に出す戦略を取り見事に成功。同社は現在OBビールを運営するインベブ傘下のブランドになっています。

初めに手掛けたクラフトビール「ハンド&モルト」(https://www.handandmalt.com/beer/can)

さてクラフトビール造りに成功したブライアン氏が次に目を付けたのが「ウイスキー」。当時韓国にはウイスキーを作る蒸留所がありませんでした。しかし、同国ではスコッチウイスキーを筆頭とするプレミアムウイスキーの人気は年々上昇、そこで思い立った疑問は、あの単純な文句です。「なぜに韓国で良いウイスキーを作る蒸留所が無いのか?」

ここまでの歩みは非常に面白く感じます。なぜなら他の国で新興の蒸留所を立ち上げてきた創業者たちの経歴や考え方と共通点が見られるからです。

まず第一に、ウイスキーについて素人である点。これは最近特にこのホームページでもカバーしてきた、北欧の蒸留所などとも共通しているように思えます。つまり、ウイスキーの愛好家ではあるけれども、お酒のビジネスには関わったことが無かったという点です。

次に創業者がIT関係出身であること。この点も興味深いです。スターワード蒸留所(オーストラリア)の創業者も同様でした。IT関係というとソフトの世界であり、ウイスキーはリアルなモノづくりの世界。一見して真逆ののようにも見えますが、新たな境地でチャレンジしようという心構えがあれば道は開けるのだなと思います。

最後の共通点としては当たり前の疑問「なぜ(我々の国には)蒸留所が無いのか?」をリアルに突き詰めていったということ。恐らく、ウイスキーが好きなら少なくとも一度は妄想することでは無いでしょうか?自分のカスクとか、自己流のブレンドとか、誰しも考えてしまう事なのではないかと思います。ですが、ブライアン氏を含めた創業者は、実に真摯にその疑問に向き合い、数々の挑戦(法律的な事柄や、土地の確保など、おおよそお酒造りとは全く関係のないことを含めて)を乗り越え実現してきた。これはとても素晴らしいことだと思います。

また、こうした風潮が地理的な分け隔てはあるにせよ、世界中で拡がりを見せているということも興味深い現象です。スコッチウイスキーのグローカル化とでも言えるのかもしれません。その実、この「スリーソサエティ」というものにはしっかりとした意味があります、これは創業者である部ライン氏の故郷であるアメリカ、そしてスコッチウイスキーの発祥の地であるスコットランド、それらを組み合わせて実現する作り手としての韓国(人)、この三つが融合したものをということだそうです。このコンセプトはブランドのロゴにも明確に表示されています。

スリーソサエティのロゴは三つの文化の融合を意味する。

スコットランドの要素については、スコッチの本場で長年に渡り現場を渡り歩いたエキスパート、アンドリュー・シャンド(Andrew Shand)氏をマスターディスティラーとして招聘しています。シャンド氏はグレンリベットの樽職人としてキャリアをスタートし、その後シーバス社傘下の蒸留所で経験を積んだ後、ニッカ傘下のベンネヴィス蒸留所でマスターディスティラーを努めました。その後、スペイサイド蒸留所に移り、同蒸留所が2011年に他社へ売却されたのを機に退職、ウイスキーコンサルタントとして独立します。スコッチのキャリアを活かしてバーボンの国アメリカのヴァージニア蒸留所やクーパーフォックス蒸留所で本格的なスコッチウイスキー蒸留所の立ち上げをサポート。そして、更なるチャレンジを求めてやってきたのが、まだウイスキーの蒸留所を持たない韓国というワケです。(因みに、韓国とのゆかりについてですが、シャンド氏の奥さんが韓国の方のようです)

最後に気になるのはこの韓国産のウイスキーがいつ飲めるのかということ。スコッチウイスキーは3年熟成が基本なので、計算上は2023年以降になります。ただし、韓国の法律では1年以上の熟成期間を経れば「ウイスキー」を名乗っても良いそうで、年内には早くも1年熟成の商品がリリースされる予定だそうです。

2021.12.22追記:2020年7月にアメリカンオークの樽に詰めて約1年半熟成した韓国産ウイスキーがついにリリースされたようです。その名も「Ki One」(기원:キウォン)。ネーミングの想いは「始まり」と「願い」だとのこと。(漢字の「起源」と「祈願」は両方とも韓国語ではキウォンと発音)フルーティでオーク感のある味わいだということですが、はてさてどこで出会えるのやら。。こちらは限定販売品。スリーソサエティーがターゲットとしている市場には日本も含まれているようなので、近いうちに流入してくるのかもしれません。バーとかよりは、韓国料理屋さんの方が早いかもしれないですね。

蒸留所内部。使用する蒸留器はフォーサイス社製。

レシピ的には1年熟成のモルトウイスキーと、クラフトビールを蒸留したホップ・ウイスキーを混ぜ合わせた後、韓国的な副材料で少し味付けをしたものらしく、いわゆる「フレーバード・ウイスキー」になるのでしょうか。ブライアン氏が語る「韓国らしさ」というのは、余韻が長く残るスパイシーさ。風味はライウイスキーや中国の香辛料のようなものではなく、山椒の実のような風合いをイメージ。それを実現するために発酵の工程を通常よりも長くとるなどの工夫がされています。

昨年6月に生産を開始してから、ニューメークをシェリーやバーボン樽、その他様々なオーク樽で熟成しており、熟成樽の数は既に1000本を超えるとか。その一部はプライベートカスクとして愛好家向けに販売もされ、瞬時に完売したそうです。ウイスキーは熟成期間中の味わいの変化を予測することはとても難しいので、作り手も買い手も冒険というか、ある種の「賭け」に近いところがあると思います。ましてや、新しい蒸留所が作るお酒となれば、全く予測不可能に近いのかと。

因みに「韓国らしさ」の観点でいうと、原料のモルト(発芽大麦)はどこから調達しているかということですが、これは海外から輸入をしているようです。もちろん韓国産の大麦を使ってモルティングできないかということもトライはしてみたようですが、うまくいかなかったようです。ただし、将来的には韓国産の大麦を使ったMADE IN KOREAのウイスキーを作ることを目標としているようで今後が楽しみです。

http://www.threesocieties.co.kr/eng/collection

その中で、こうした人気を得ることができるのは、やはり将来への「期待値」なのでしょうか。ましてや、それが自分の国や地域で新しく誕生したものであれば、尚更だと思います。最後にですが、同蒸留所はモルトウイスキーのニューメークをベースにした「庭園」(JUNG ONE)というクラフトジンも生産をしており、こちらのほうは既にリリースされているようです。蒸留所を実際に訪問して見学ツアーに参加した方が、その内容を写真などと共に紹介しているブログ記事などもたくさんネット上に見つけることができます。

その中であるブログでは最後に、「アジアを見れば日本でも出来て、台湾でも出来て、インドでもできることが、韓国だってできないわけがない」という言葉がありました。

まさに、その通りだと思います。もちろん良いウイスキーを作るには、良質な材料や水源などが最低限必要ではありますけど、設備や機器は購入すれば良い、資金もクラウドで集めれば良い、土地や建屋は自分らで何とかする、こうした風に考えていけば、あとは情熱やヤル気さえあれば何だってできてしまうものだとつくづく思います。世界全体が豊かになっていく中で、プレミアムウイスキーの市場は今後も伸びていくことは間違いないと思います。

その中で、愛好家を初めとする消費者がウイスキーに「何を」求めるのか?何が「プレミアム」な価値を生む源泉となるのか?これは色々な考え方や要素が絡まってくるのではないかと思っています。もちろん樽や熟成期間、ブランドイメージなども当然ありますが、背後のストーリーやテロワール、環境への意識などこれまではあまり関心を持たれなかった部分も含めて、ウイスキーの価値創造の可能性は更に拡がっていくのでないかと感じます。

【参考にした記事】(韓国語)→google翻訳にコピペすればだいたい読めます。

追記:2021年9月21日付の韓国中央日報日本語版にスリーソサエティの記事が掲載されていました。
→「韓国初のシングルモルトウイスキーの味
ちょっと辛口コメントですが、最初はどこもそうでしょうね。何とか乗り切って、まずは韓国のウイスキーファンの皆さんの期待に応えていって欲しいなと願います。

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