「野生イースト」の発見、グレンモーレンジ「ALLTAアルタ」
このリリースのきっかけは3つあります。
一つは、自身が発酵学を専攻していたこと。
二つは、初めに就職した会社の体験。自身が研究していたイースト菌が、まるで工業用品のようなぞんざいな扱いを受けているのに衝撃を受けました。そして、ウイスキー造りにおいて「発酵」と言う工程がもっと見直されていも良いのではないかと感じていたのです。
最後に(ウイスキー評論家として有名であった)故マイケル・ジャクソン氏が著書の中でグレンモーレンジには「古くから伝わるユニークな品種のイーストがある」と語った言葉です。蒸留所で文献などを読み漁りましたが、ついぞ根拠となるものを見つけることはできませんでした。しかし、この言葉は私に発酵の可能性を追求してみようという刺激となったのです。
https://www.mhdkk.com/
ALLTAはスコットランドのゲール語で「野生の」という意味。その名の通り、野生のイースト(酵母)を使って発酵をさせた、グレンモーレンジのエクスペリメントシリーズ「プライベートエディション」の第10弾。マスターディスティラーのビル・ラムズデン博士は大学で生化学を専攻し、「発酵生理学(yeast phisiology)」の分野で博士号を取得した科学者。DCL社(現DIAGEO)で研究職として勤めた後、1995年に蒸留所の責任者としてグレンモーレンジ社に入社、以後今日まで25年以上のキャリアを積む。その博士が密かに仕込んでいたのが、野生のイーストを使ったALLTAであり、博士の長年の想いが募った作品である。そのイーストはこう呼ばれた。

"Saccharomyces diaemath"

「サッカロマイシス・ダイアマス」
グレンモーレンジ蒸留所の位置するテイン( Tain)の町の近郊の畑で採取されたもので、南アフリカのアンカー社にて培養し、選別した野生種。通常ウイスキー造りにはアルコール生産効率の高い専用のイーストが使われるが、ラムズデン博士はウイスキー造りにおいて「発酵」の役割が見過ごされていると感じていたのだ。
このイーストを使って造られたニュースピリッツはパンのような香りが特徴的で、グレンモーレンジ特有のハーバルでフルーティなものとは趣きが異なる仕上がりになるとのこと。樽の特徴にも精通している博士は、熟成によってこのニュアンスが負けてしまうことを懸念。樽材もシェリーやファーストフィルではなく、セカンドフィルやリフィルのバーボン樽を使い、熟成期間も8年くらい。野生イーストの特徴を消さない様に丁寧に仕込み、ようやく2019年にリリースの運びとなった。そのフレーバーの特徴は(「オリジナル」と比較して)「カーネーション、パルマ・スミレ、焼き立てのパン、しっかりとしたバニラ感」が特有なのだそう。
"ウイスキーは、スコットランドの気候風土や文化がすべて入っている飲み物。つまりスコットランドそのものともいえる。なによりウイスキーにはスコットランド人の「エモーション」がすべて入っている。だからスコットランド人はウイスキーを愛してやまない。”(By KIMIKO ANZAI/THE NEW YORK TIMES STYLE MAGAZINE)

30年以上前、博士課程に在籍していた青年時代のラムズデン博士は、学生仲間のホームパーティに招待された。そこで、彼は自身のその後の運命を決定づける「ウイスキー」とであることになる。

「オリジナル」はグレンモーレンジの中核となる味わいのエッセンスがすべて詰まったもの!

“何のパーティーであったかはほとんど記憶にないんだよ。食べて踊って、ただ格好つけたいだけだったからね。その晩はデニース・ウィリアムズの”Let’s hear it For the Boy”が流れていたことは覚えている。そこで、ある友人か自分の元に歩み寄り「ウイスキーでもどうだい?」と言ってきたんだ。もちろんスコットランド育ちの僕はウイスキーを何度かは飲んだことがある。ただ、主にありふれたブレンドで特に興味は無かった。

そこで、ある友人か自分の元に歩み寄り「ウイスキーでもどうだい?」と言ってきたんだ。もちろんスコットランド育ちの僕はウイスキーを何度かは飲んだことがある。ただ、主にありふれたブレンドで特に興味は無かった。

しかし、その夜に飲んだウイスキーは違った。一口含んで「これだ!」という閃きが起こった。当時はウイスキーについての専門的な知識は持ち合わせていなかったが、そんなものは必要なかった。シルクのように滑らかでスムーズな格別の味わい!後にそれが「グレンモーレンジ10年」であることを知った。その時の感動の瞬間は、今でもはっきりと思い出せる。その時のウイスキーとの出会いで、「運命」を感じたんだ。”