カナディアンウイスキーの彗星、サンズ・オブ・バンクーバー

カナディアンウイスキーの彗星、サンズ・オブ・バンクーバー

今回はカナディアンウイスキーの話題をお伝えします。Whisky Cast(Episode988号)を聴いていたら、毎年1月にカナダの西海岸、ビクトリアで開催されているウイスキーフェスティバルの模様が紹介されていました(ビクトリアの位置は以下の地図を参考ください)。その目玉は最優秀賞であるウイスキー・オブ・ザ・イヤーに「サンズ・オブ・バンクーバー」というまったく無名の蒸留所が選ばれたことにあります。今回はその話題について紹介していこうかと思いますが、とりあえずその前にサラリとカナディアンウイスキーについて復習をしておこうかと思います。カナディアンウイスキーとは何か?という問いなんですが、「カナダで作られたウイスキー?」。まあ、たぶん正解には違いないのですが、もう少しだけ教科書的な定義の確認をしておきたいと思います。 https://www.travel-zentech.jp/world/map/Canada/Victoria.htmlより 「カナディアン・ウィスキーは、カナダの法律によって縛りがかけられている。それによれば、カナディアン・ウィスキーは、穀類のみを原料とし、これを麦芽の持つデンプン分解酵素によって糖化し、酵母によって醗酵させ、カナダ国内で蒸留し、容量700リットル以下の樽を用いて熟成を行い、最低でも3年以上の熟成期間を経たものである。」 wikipedia 簡単に特徴を要約すると、スコッチと違い原料はモルトというよりライ麦とかコーンが使われます。Barrel365さんのページからの引用ですが、「ライ麦主体のフレーバリングウイスキーと、トウモロコシ主体のベースウイスキーの2つをブレンドするという、一般的なカナディアンウイスキーの製法でつくられています。」とのことです。バーボンはメインがコーンなので、バーボンともちょっと違う感じで、ドライでさっぱりした感じが特徴なのかと思います。有名ブランドとして、カナディアンクラブとクラウンローヤルの2強でしょう。どちらも発祥は東部オンタリオ州で、五大湖の対岸のあたりになります。カナディアンウイスキーはもともとは米東部の影響を受けて誕生し、アメリカの禁酒法(1920~33年)の時代に、その代替需要として発展したというのがざっくりとした経緯になります。 主に東部で発展してきたカナディアンウイスキーの歴史から見て、西海岸のバンクーバーにある新しいクラフト蒸留所が、カナディアンウイスキーの最優秀賞を獲得したというのは、地理的なことを考えると非常に面白いのでないかと思います。カナディアンクラブやクラウンローヤルに期待するような、ライ麦をベースとしたスパイシーさのあるオーソドックスなウイスキーが定番のイメージですが、西海岸の遊び心にあふれるクラフトウイスキーによって多面的な、新しい展開を迎えようとしているのでないかということです。アメリカの西海岸にはすでにいくつかのチャレンジ精神に溢れるクラフト蒸留所が誕生し、成功を収めています。ウエストランド蒸留所やウエストワード蒸留所(→リカマンさんの紹介記事)などです。特に興味深い流れとして、「アメリカン・シングルモルト」という独自のブランドを確立しようとしている動きは特筆に値します。(→詳しくはこちらの記事など参照)今回、最優秀賞を受賞した「パームツリー&トロピカルブリーズ」はその名前から想像できるようにラムカスクのウッドフィニッシュで味わいの深いカスクストレングスの仕上がりになっているとのことです。1樽分のみの販売のため、受賞時にはすでに完売していたということです。これ以前に商品化されたボトルもピートウイスキー樽や自社で製造しているアマレット樽などを使用し独自のフレーバーを追求している、職人(アルチザン)気質が特徴。ジェンナ・デュバルド(Jenna Diubaldo)さんという女性の方がいわゆるマスターディスティラーのようです。他にジェームズ・ラスター氏(James Lester)と、マックス・スミス氏(Max Smith)を含めた若い3名が経営陣として運営をしているようです。ホームページを確認すると以下の写真があったので、おそらくその3名かと思います。ウイスキー造りのほかに、アマレットやウォッカ、ジンなども製造をしているようです。 https://sonsofvancouver.ca/aboutより 同社ホームページの商品販売のページを確認してみましたが、半分くらいはすでに売り切れとなっていました。クラフト蒸留所なので、生産量が多くない事情もあるとは思いますが、注目を受けて受注が殺到しているものと思われます。ウイスキーもすべて売り切れ。すでに新しいバッヂ「SUMMER ROAD TRIP ACROSS THE MIDWEST」のボトルが紹介されていましたが、今月(2023年3月)発売予定となりながら、すでに「SOLD OUT」の文字が。187本の限定販売なので、これもシングルカスク品でしょうか。もはや、プレミアムウイスキーのような感じですね。レシピを見ると基本はブレンドで、熟成も3~5年くらいとのことなので、まだまだ若いウイスキーなのかとは思います。蓋を開けてみないと分からない段階にもかかわらず、これだけの注目を受けるというのは、期待値の高さを証明しています。カナディアンウイスキーは他にも注目を受けているクラフト蒸留所が出来てきていますので、今後も話題が出てきたら着目をしていきたいと思います。今までの定番品と違うという意味では老舗ブランドではありますがサントリーさんが扱っている「アルバータライ」とか(→サントリーさん紹介記事)が手ごろな価格でかつ面白いのかなと思います。「スムースで軽快な飲み口に、リッチで複雑な味わいとバニラのような甘みの中にほのかなスパイシーさを感じられ」るとのことです。作り手がどのような経緯で酒造りを学び、どのようなウイスキーを目指して行くのかというのも非常に面白いかなと思っています。ウイスキー造りの中心では無いけれど、辺境でもない、ある意味適度な距離感にあることでユニークな発想が今後も出てくることに引き続き期待していきたいと思います。! もうちょっと他の記事も読んでみたい方へ、 >>クリックでウエストランド蒸留所の記事へ
モルトウイスキーイヤーブック2023年版をしっかり読んでみる(1)

モルトウイスキーイヤーブック2023年版をしっかり読んでみる(1)

モルトウイスキーのイヤーブック、その名も「Whisky Yearbook」。毎年、スコッチウイスキーに関する新たな情報がまとめてアップデートされており、最近の動向や注目の人、最新ニュースや背後のストーリーなどが細かく紹介されています。スコッチウイスキーの蒸留所はほぼ網羅して紹介されていて、スコットランドの主要な蒸留所は1ページを使って丁寧にその特徴や歴史、ブランドが写真付きで紹介されています。またその他の蒸留所についても新興蒸留所から世界各国のモルトウイスキーの蒸留所について幅広く紹介されています。そのほか、スコッチウイスキー業界の動向であったり、作り手の話であったりマーケットの情報などが簡潔にまとめてられていて、今年の趨勢を見極めるには最高の本だといえます。このスコッチウイスキーの楽しみ方ブログでは、昨年に初めてこの本をアマゾンで購入して記事を書いたのですが、1回限りの紹介で終わってしまいました。今年はもう少し掘り下げていきたいと思いますので、よろしくお願いします。(因みにページヒット数が最高記録をしたことでもうれしい記憶となっています。ありがとうございます。)このホームページで扱っている蒸留所の紹介記事についてはこちらのアップデート情報をもとにグーグルで検索をして調べています。このイヤーブックから受けている影響はかなり大きいです、感謝しかありません。日本語版とかもでれば良いと思うのですが、いまのところ自分が知る限りはこの英語版のみです。アマゾンでも頼めば普通に購入できるので、興味があれば一度手に取ってみてほしいです。値段も3,000円くらいなので、内容を考慮するならかなりお買い得かと思います。とにかく情報量が半端無いです。https://www.amazon.co.jp/Malt-Whisky-Yearbook-Ingvar-Ronde/dp/0957655398まずウイスキー業界の英仏二強を紹介します。あまり表立ってこれらの会社の名前が出てくることはないですが、イギリスの「ディアジオ(DIAGEO)」社とフランスの「ペルノリカール(PERNOD RICARD」社です。どちらもウイスキー以外に様々なアルコールブランドをグローバルに展開しており、ディアジオ社傘下のブランドとしてはスコッチならジョニーウォーカー、バーボンのハーパー、他にビールのギネス、ウォッカのスミノフ、ジンのタンカレーなどを保有しています。ペルノリカー社はフランスの老舗スピリッツメーカ2社が合併して誕生したのですが、それ以後各地のブランドを取り入れて成長してきました。アイリッシュのジェムソン、ラムのハバナクラブ、スコッチではシーバスブラザーズ社を傘下にして多数のブランドを保有しています。この2社が保有する銘柄をまずは以下に列挙していきます。(個人的な主観で、スーパーのリカーコーナーでも比較的良く見かけるかなというブランドは特に太文字にしています。特に理由も根拠もありませんm(__)m) DAIGEO- オフロイスクベンリネスブレアアソールブローラカリラカーデュークライヌリシュクラガンモアダルユーインダルウィニーダフタウングレンデュラングレンエルギングレンキンチーグレンロッシーグレンオルドグレンスペイインチガワーノッカンドゥーラガブーリンリンクウッドマノックモアモートラックオーバンローズアイルロイヤルロッホナガーストラスミルタリスカーティーニニック PERNOD RICARD- アベラワーアルタベーンブレイヴァルダルムナックグレンバーギーグレンキースグレンリベットグレントファースロングモーンミルトンダフスキャパストラスアイラこれだけのブランドを保有していることの特徴として、一つ挙げるとするならより良いスコッチを作るための戦略といえるかもしれません。シングルモルトに特化するだけであれば、これだけのブランドを傘下に持つ必要もありませんが、安定した品質のブレンドスコッチを世界規模のマーケットに大量に作ることを考えるなら、そのレシピの元となるブランドと供給キャパを確保することは至上命題になることは容易に想像がつきます。下の写真はとあるスーパーのリカーコーナーですが、下段にスコッチブレンドが並んでいます。ブレンドの方が、モルトよりもお手頃な価格で購入できるので、数量的には圧倒的にブレンドウイスキーを身近に見かけることが多いかと思うのですが、高級スーパー、酒屋さん、スピリッツなどの専門店とグレードが上がっていくにつれてその重心は大衆向けブレンドから、シングルモルト、更にはボトラーズなど高価なものになっていくイメージです。さて、その中でブレンドスコッチの有名銘柄として「ジョニーウォーカー」や「ホワイトホース」はディアジオ社、「シーバスリーガル」はペルノリカール社のブランドです。他にも、「ティーチャーズ」はビーム・サントリー社、「デュワーズ」はジョン・デュワー&サンズ社のブレンドウイスキーになります。 スーパープレッセのリカーコーナーに並ぶスコッチウイスキー さて、ここからは先に紹介した二大巨頭ほどのブランドを保有していないもの、複数のブランドを傘下に収めている企業となります。まずはブレンドウイスキーで名前の挙がった、ビーム・サントリー社と、ジョン・デュワー&サンズ社を手掛かりに紹介していきたいと思います。まずはビーム・サントリー社です。ビームはジムビームで知られるアメリカのバーボンメーカですが、サントリーが2014年にこれを買収したことでサントリーの子会社となりました。この傘下のブランドでもっとも有名なのはなんといってもアイラモルトのラフロイグでしょう。もとを遡ればラフロイグが今は亡きアライドドメク社(英)がフランスのペルノリカール社に買収され(2005年)、その結果傘下にあったブランドがアメリカのフォーチュンブランドや、先のディアジオ社などに分散してしまったことに端を発します。ララフロイグはジムビームなどを擁する米フォーチュンブランドの傘下になったのですが、それがサントリー社に買収されたことで、現在に至ります。他にもアードモア、ローランドのオーヘントシャン、ボウモア、グレンギリーがあります。次にジョン・デュワー&サンズ社です。調べてみたのですが、実はラムなどで知られるバカルディ社の傘下のようです。バカルディは他にもスコッチブレンドのデュワーズや日本ではほとんど出回っていないですが同じくブレンドのウィリアム・ローソンや、アイリッシュのティーリング、イタリアのスパークリングワイン、マティーニなどのブランドを有しています。スコッチの蒸留所としては、アバフェルディ、アルトモア、クレイゲラヒ、グレンデベロン(マクダフ)、ロイヤルブラックラが傘下にあります。さて、先のペルノリカール社や、ビームサントリー社、バカルディ社のように本場スコットランドではない資本が実はたくさんあるスコッチ業界。ディアジオも元はグランドメトロポリタンとギネスが合併したもので、スコットランドというようりはイングランドとアイルランドの連合のようなもの。こうして考えると酒造りとしてのスコッチはスコットランドの領土内で今も盛んにおこなわれているものの、その運営資本は外部から集めているという構造です。ある意味、伝統的な産業でありながらすごく国際化が進んでいるというか、日本の日本酒とかとは表向き似たような様相であっても実はすごくグローバルな国際的商品としての顔をもっているとも言えそうです。外資系企業の傘下になったブランドを挙げていきましょう。まずはタイビバレッジ傘下になったインバーハウス社のブランド群です。ハイランドのプルトニーを筆頭に、バルブレア、バルメナック、ノックドゥー、スぺイバーンがあります。ダルモアなどで知られるホワイト・マッカイはフィリピンのエンペラドール社の傘下になっています。ダルモアの他に、フェッターケイン、ジュラ、タムナブーリンがあります。南アフリカの飲料大手ディスティル社は、ブナハーブン、ディーンストン、トバモリーを保有。バーボンの国アメリカでオールドフォレスターやジャックダニエル、ウッドフォードリザーブなどで知られる巨大資本ブラウンフォーマン社の傘下にあるスコッチとして、ベンリアック社の傘下にあるベンリアック、グレンドロナック、グレングラッソーがあります。更にはロッホローモンドやグレンスコシアを有するロッホローモンドグループは中華系の投資会社ヒルハウス・キャピタル・マネジメント社によって2019年に買収され、その傘下にあります。他にもルイヴィトンで知られる世界的コングロマリットであるLVMH(モエヘネシー・ルイヴィトン)社は傘下に多数のアルコールブランドを抱えており、その中にグレンモーレンジ社のスコッチブランド、グレンモーレンジとアードベッグがあります。さて外資の傘下にあるスコッチモルトウイスキーのブランド名を続々と書き連ねてきましたが、ここからはようやくスコッチ資本によるスコッチウイスキーになります。まずはエドリントングループ。スコッチのロールスロイスとも呼ばれるマッカランを擁します。他に、グレンロセスやハイランドパーク、ブレンドのフェイマスグラウスなどがあります。家族経営の伝統を有する蒸留所は非常に少なくなりましたが、今でも生き残っているところがあります。もっとも有名なものとしてはウィリアムグラント&サンズでしょう。スコッチのシングルモルトで販売量のトップをグレンリベットと争うグレンフィディクが有名です。他に、アイルサベイ、バルベニー、キニンヴィーを有します。今では昔の勢いを失いましたが、キャンベルタウンのJ&Aミッチェルとスプリングバンクもあまりにも有名です。スプリングバンクの他に、キルケランのブランドで知られるグレンガイル蒸留所があります。家族経営で言えば、グラント家のグレンファークラスも有名です。他にもボトラーズの傘下にある蒸留所としては、エドラダワー(シグナトリー社)、ベンロマック(ゴードン・マックファイル社)、アードナホー(ハンターレイン社)、ストラスアーン(ダグラスレーン社)といったところでしょうか。他にクラフトディスティラリーとして、いくつかこのホームページで個別に紹介している蒸留所があります。メニューのDistillery(ディスティラリー)からプルダウンで見ることができますので、そちらで確認して頂ければと思います。

2023年初投稿

2023年、新年あけましておめでとうございます。本年もよろしくお願いいたします。 スコッチウイスキーの楽しみ方では、スコッチウイスキーをメインテーマとして、注目している蒸留所の記事や、国内のバーの訪問ブログなど、さまざまな観点からスコッチーウイスキーの魅力を掘り起こしていきたいと思っています。 まだ同時に、スコッチウイスキーだけに限らず、バーボンなどの他のウイスキーや、他のジャンルのお酒についても色々と見聞きしたことや体験したことを書いていこうと思っています。「スコッチウイスキー」をタイトルに掲げてはいますが、お酒をテーマに広く全体的にカバーができればと思っています。そんな方向性で本年も頑張っていこうかなと思っているので、何卒よろしくお願いいたします。 年初はカサーシャで!@お酒の美術館中野店にて さて、年初初の投稿ということでのんびりと書いていこうかと思います。昨年は結構いろんなお酒にチャレンジした一年でした。今まではスコッチウイスキーがメインだったので、スコッチ専門を自任していて、オーセンチックなバーを中心に雑誌やネットで情報を拾いながら訪ね歩いてきました。その中で、最近のスコッチウイスキー界隈の流行としてある「ウッドフィニッシュ」をもう少し詳しく知りたくて、樽作りに使われていた実際のお酒を飲んでみたいなと思ったことがそもそもの初めでした。 ご承知の通りですが、スコッチウイスキーの味わいの多くは、熟成に使われていた「樽」に由来するといわれています。中には、穀物や発酵、蒸留設備の中にその特徴を求めることも無くはないですが、やはり「樽」のインパクトが大きいことは否めないかと思います。「ウッドフィニッシュ」というのは、熟成期間の最後の段階に、少し特別な樽の中でフレーバーに特徴づけをすることを言います。スコッチは主にバーボンの空き樽(バーボン樽)か、シェリー樽を使用しますが、このウッドフィニッシュに使われるのはそれらと違うよりフレーバーにインパクトのあるものが多いです。メインはシェリー樽が多いかなとは思いますが、バーボン樽も使われることがあります、また、ラムやテキーラなど変わった樽も使用されることがあります。熟成に使用される樽はリユース品も可能なのですが、リユース品は元のお酒のフレーバがすでに無くなっています。逆にウッドフィニッシュで使われる樽は、元のお酒の特徴が引き出せるようなものが多く使われています。中には少し前のお酒そのものが残っていることもあります。ただし、あまり前のお酒のインパクトが強くなりすぎるとウイスキーの微妙なニュアンスが壊れてしまうため、通常は短期間、数か月程度、最後の調整に使われるイメージです。こうすることで繊細なスコッチウイスキーの味わいに更に奥行きが出て、深みのある立体的な味わいに仕上がります。 とまあ、このように理屈ではある程度分かっているんですが、実際にバーボンもシェリーもあまり飲んだことが無く、ラムやテキーラなどもほとんど飲む機会がありませんでした。モルトバーに行って、わざわざウイスキー以外のお酒を頼むことも無いですから、当たり前といえばそうなのです。その反省を踏まえて?昨年は少し意識していろんな酒場に繰り出してみました。なので、少しスコッチウイスキーの話題から外れることが多かったかと思います。しかし、発見も多かったです。今まではモルトバーばかりしかお邪魔したことがなかったのですが、他のジャンルでもたくさん良いバーがあることを知りました。 ひとつひとつ語りだせば切が無いので、テーマ別にまとめていきたいと思います。まず、ちょっと上の写真で紹介した「カサーシャ」から先に紹介しておきたいと思います。これは、中野のお酒の美術館さんです。「カサーシャ」ってそもそもなかなか見ることもないお酒かなと思うのですが、ほぼラムだと思ってもらえれば大丈夫かなと。ブラジルのお酒です。原料はさとうきびのしぼり汁です。写真は熟成した樽別で、ブラジルにはウイスキーの熟成に使われるオークが無いので、オーク以外の木を使った樽で熟成しているそうです。ただ、基本はホワイトリカーで、熟成といっても短期間、数か月から数年といったところ。テキーラのアネホとかに近いのかなと思いました。味わいも甘いのかなと思ったのですが、意外にドライ、どちらかというとボタニカルなフレーバーが強いです。ロックくらいがちょうど良いかなと思いました。現地ではコーラとかで割って飲むみたいです。 さて、「ラム」ですが、思い返してみて一番印象に残ったのは神戸のムーンライトーバーさんで頂いた「オールドモンク」というインドのラムでしょうか。ラムといえばキューバとかカリビアンなイメージですが、インドでも古くから作られていることを知りました。実は「ウイスキー」の生産量でもインドが世界で実は一番なのです。なんとなくインド人というとあまりお酒を飲んでいるイメージは無いのですが、実は結構お酒を作っているんですよね。恐らくは昔、イギリスの植民地であった影響もあるのかとは思いますが、仏教とかヒンズー教とか信心深いイメージがあるので意外ではあります。インドのお酒事情みたいなのも何か調べてみたいナと思っています。 「テキーラ」では、浜松のOKUIZUMIさんでしょうか。ラムとテキーラを専門とするカジュアルなバーでしたが、こちらで頂いたジャパニーズ・プロデュースの「雫」がいまでも印象的です。テキーラはホワイトリカーの印象がありますが、熟成したレポサドやアネホも面白い味わいでした。あと、番外編ではありませんが、新宿歌舞伎町のカリビアン・バーは糞医的にとても面白かったです。 カリビアンバー、メヒコにてテキーラを。 さて、昨年に特に自分が興味を持ったのがワインとクラフトビールであることは間違いないです。なぜか?というのはとても簡単で、良いバーに巡り会えたことがすべてです。こちらのブログを見ている方であればすでに想像がつくかと思いますが、ワインは神戸のノラックさん、クラフトビールは品川・西小山のクエンチワインさんです。昨年の発見という意味ではこの二つのバーが自分の中では大きな出会いであったかと思います。詳細については、それぞれのブログ記事に譲りますが、簡単になぜそこまで気に入ったのかを紹介いたします。まずノラックさんですが、取り揃えているワインが本格派で、プロデュースする空間美とオーナーのパーソナリティーがすべてを語ります。これだけのサービスがあって、価格はとてもリーズナブル。毎回、感動の一言です。とくに最近ナチュールワインなどのオーガニック系のワイン、そして軽やかで華やかなソフトな口当たりのすっきりしたワインが着目されるなかで、従来の正当派ワインをしっかりとリーズナブルに楽しめるというのが一番大きいです。ワイン好きの方、特にワインを最近飲み始めた方に特におススメしたいお店です。 昨年飲んだお酒のMVPはずばりコレ!@クエンチワインさん クエンチワインさんですがこちらはオレゴン州推しのお店です。業態はどちらかというとインポーターさんで、お酒の販売とともに立ち飲みもできるといった感じです。まだ出来たばかりのお店でオーナーさんが一人で切り盛りをされているので、お店の営業も不定期です。基本的には土曜日のみに空いているイメージですが、とにかく営業日は事前チェックしてから訪問されることをお勧めします。あとは運頼みでしょう。ワインとありますが、クラフトビールもおいてあって、自分はこのクラフトビールに強烈なインパクトを受けました。とにかく、ビールでは無いんです!、でもビールです!。と、こんな感じです。ビールの原料が穀物であることを忘れ去るようなフルーティで軽やかなフレーバーの開き方が半端無いです。しかもそれが缶ビールで出てきます。低温輸送で入荷されているようなので、こちらで飲むのを特におススメします。 さて、あれこれ振り返ってきましたが、意外にも色々と発見の多い1年であったことに今更のように気づかされます。本年も、更に色々と見聞を広げながら、継続してブログ記事をアップしていければと思います。また蒸留所紹介記事についても、最近ほとんどアップができていないのですが、何かトピックを見つけてリサーチできればなと思います。少なくとももう一度見返してみて、アップデートが無いかなどの点検はしてみたいと思っています。最後にですが、今後さらにジャパニーズウイスキーや国内のバーが海外からも注目されるであろう動きに備えて英語でのブログ発信も細々と開始しています。こちらも少しづつ、英語の勉強とも合わせて、深みを持たせていければと思っています。そんなこんなですが、また今年も頑張ってやっていきますので、よろしくお願いいたしますm(__)m
都立大学近くのアメリカンクラフトビール酒屋、ザ・スロップショップ(The Slop Shop)には世界中のクラフトビールが集まります。

都立大学近くのアメリカンクラフトビール酒屋、ザ・スロップショップ(The Slop Shop)には世界中のクラフトビールが集まります。

最近のマイブームはクラフトビール。クラフトビールというと、最近はスーパーとかでも様々なパッケージで販売されていています。普段だとキリンやアサヒ、サッポロの定番ビールだけで語られ、生ビールか瓶ビールかくらいの違いにしか気を使わないことが多いのではないでしょうか。生で飲むにしても、泡の比率がどうとか。自分もそのくらいな意識でいましたが、本場アメリカのクラフトビールの味を発見してから革命が起こりました。(→ちなみに最初にその感動を味わったのが西小山のクエンチワインさんですm(__)m)アメリカのクラフトビールをもっと知りたいと思って情報を探していたところ、雑誌の紹介記事を見つけて訪ねたのがこちらのスロップショップさん。東横線の都立大学から少し歩いた住宅街に位置します。基本は酒屋さんのイメージですが、小さなバーカウンターもあり、店内で飲むこともできます。ジャパニーズを中心としてクラフトビールをタップで飲むことも可能です。こじんまりとした店ですが、駅から少し離れていることもあり、落ち着いた雰囲気です。 クラフトビールがずらり。 まず驚いたのは販売されているクラフトビールのボリューム。すごい数がおいてあります。規模の大きい酒屋さんでもここまでの数量をみたことはありません。先日、八重洲に新しくできたアンテナ・アメリカもボリュームはすごかったですけど、インパクトとしてはこちらの方が圧倒されました。写真の冷蔵庫が3台並んでいて、フレーバーカテゴリー別になっているようです。主にはIPA系、サワー系、その他(スタウトやポーターなどのダーク系)という感じでした。産地は北欧やヨーロッパからジャパニーズまで。お値段的には高めですが、ワイン樽熟成の瓶詰めビールなどもありました。缶ビールですがどれもパッケージデザインが素敵で見ているだけでも楽しいです。フレーバーのコメントも一つ一つに細かく記載されていてわかりやすいです。店員さんも商品に詳しく、自分の好みがはっきりとしていれば相談にのってもらえるかと思います。自分はそこまではっきりと味の好みがあるわけではないので、パッケージを見て「ジャケ買い」しました。ひとつはワシントン州シアトルのものと、もう一つは以下に紹介している静岡のウエストコーストブルーイングのもの。他にもいろいろ興味あったのですが、またの機会にしようと思います。 タップでも楽しめます。 酒屋さんではありますが、店内で飲めるスペースもあり店内で試飲も可能です(ただし抜栓料がかかるとのこと)。ジャパニーズを中心に、タップビールも楽しめます。小さなスペースなのであまり大人数には向かないかもしれませんが、買い出しに来たついでに軽く一杯とかぐらいなイメージでしょうか。酒屋さんなので昼間もお店を開けられているとのこと。もうすっかり秋になりましたが、夏とか最高でしょうね。周りは住宅街になっているのでワイワイした喧騒感もなく、落ち着いてゆっくりと楽しむことができます。最寄り駅からちょっと歩きますが、通り一本なので場所的には分かりやすいです。アメリカンクラフトビールを深堀りしたい方には特におススメをしたいお店です。 商品の切り替えも結構早そうな感じ! シアトル出身の建築家が立ち上げたという本場クラフトビール工場・ウエストコーストブルーイングのクラフトビールを購入。パーケージもイギリスのイラストレーターが手掛けているらしくすべてがエキゾチックだが、なんと場所は静岡県の用宗(小さな漁村のイメージ)にあるという。昔ドライブ旅行で近くの中華屋さんに立ち寄った記憶あるくらいだが、今度通ったときはぜひ訪ねてみたい! クリックでウエストコーストブルーイングさんのホームページに クリックでスロップショップさんお店のページへ移動します! BRUTUS誌の紹介記事へ BACK TO HOME (スコッチウイスキーの楽しみ方)>>
小豆島に行こう&DONIS BAR

小豆島に行こう&DONIS BAR

ところで、みなさん「島旅」してますか?最近、船で行く島旅にはまっています。本州側の四国地方と四国に挟まれた瀬戸内(せとうち)の海には小さな島が多く点在しています。今では瀬戸大橋やしまなみ海道などの連絡橋ができたので交通も便利になりましたが、橋が通っていない島も多いため「渡船」もまだまだ現役で活躍しています。今回訪れた「小豆島」(しょうどしま)は瀬戸内の島でも淡路島に次いで大きな島です。醤油(デパ地下とかで見かける有機醤油の類)の生産は古くから有名。他にオリーブなど。「二十四の瞳」の舞台とか?ちょっと古いでしょうか。関東圏ではあまり馴染みないかもですが、関西方面では観光地として多くの人に知られていると思います。島の中を走る車も神戸ナンバーのBMWとか、奈良ナンバーのポルシェとか見かけました。島の中は小さな道が多くて軽が多いので、大きめの外車が走っていると目立ちますね。小豆島も本州や四国とは橋でつながっていないので、フェリーなどの船を利用してとなります。島の港もひとつではなく、航路も多様です。パッと挙げてみると、神戸、姫路、日生、岡山、そして高松などです。主要航路は高松から島の西部の土庄(とのしょう)を結ぶルートで、高速船も出ていてかなり頻繁に船が出入りします。高速船であれば30分、フェリーでも1時間なので、島から高松に通勤通学をしている人もいるとのこと。うちらは神戸からフェリーを使い島の東の坂手港から上陸しました。坂手から土庄まではバスが走っており1時間程度。アニメの聖地としても脚光を浴びているようで若者が結構多かった印象です。 ドニズバーに入る入口 そんな小豆島にバーはあるのか?というこでいつものgoogle mapで探したのがこちらのドニズバーさんです。「bar」と名の付くのはこちらだけだったように思います。小豆島は高級ホテルなどが島に点在しますが、いわゆる繁華街的なものは無い印象。なのですが、土庄の付近の中心部は「迷路のまち」と言われるほどの細い路地が入り組んでいて昔にタイムスリップしたような感じで面白いです。ちなみに、この迷路の由来は南北朝時代にまで遡るそうです。関西に来て史跡を見るとすぐに数百年を軽く飛び越えてくるんで、年代とかある程度頭に入れとかないとついていけないです(汗)。ドニズバーの場所ですが、その迷路地帯から少し離れた通り沿いにありました。1階が酒屋さんになっていて、その下がバーとなります。名前は「バー」ですが、どちらかというと座って飲食を楽しむレストラン的なスタイル。テーブル席がメインで、カウンター席は無かった記憶です。メニューはフードとドリンクがあり、フードは本格的です。パスタやサラダだけでなく、スペインオムレツとか結構いろいろあって、食事と一緒にワインを楽しむには最適かなと思いました。ワインは気に入ったものが棚にあればボトルでの購入もできるようです。ボトルメニューも何ページも書いてあって、価格帯も手頃なものから高価格帯までそろっていました。ウイスキーなどの蒸留酒系はそれほど無かったように思います。お店の黒板にはその日のおススメのグラスワインが書かれてあり、そこから選ぶこともできます。確か8種類くらいあったと思います。一人が飲むには十分かなと。うちらはせっかくなので「小豆島」のラベルがあるものを選びました。とても美味しかったです。小豆島で作られたワイン?と思いきや、さすがにそういうわけではなかったようです。詳しくはドニズバーさんのこちらのページで) 小豆島ワイン、エンジェルロードはメルローとカベルネのふくよかな味わい 店内カウンター付近の様子 最後に近くのスナックで裕次郎を歌って帰りました ドニズバーさんでワインとフードを堪能した後に、ふらふらと迷路のところに帰ってきました。ポツリとスナックらしき店の灯りを見つけて、その名も「より道」!最高のネーミングですね。パッと開けたらちょうど誰もいないカウンター席が見えたので突入してみました。ママさんが一人で立ってらして(この道39年だそうです)。島の昔の様子なども気になっていたので伺ってみました。やはり昔は結構栄えていたようで「スナック街」もあったとのこと。でも残念ながら今はほとんど無くなってしまったようです。調べてみると分かるのですが、この島は結構高級なホテルが各所に点在しています。たぶん、ホテルがすべて用意してくれるものだから出歩く必要が無いのかと思いますが、街の繁華街がこうして廃れてしまうのは寂しいですね。でもママはとても元気で、この間は外国人のグループが通訳を連れて来店して忙しかったわよ、とか快活に語ってくれました。確かに。旅好きの外国人で、しかも小豆島に来るような方たちなら絶対にツボにはまる気がします。インバウンドはまだまだ小康状態ですが、島の雰囲気は南北朝とまでは言いませんが!昔ながらの雰囲気や風情が随所に色濃く残っていて最高でした。マイクを渡されたので裕次郎の「北の旅人」を熱唱して、ご満悦で帰路につきましたとさm(__)m
【栃木】パイプのけむり(小山)

【栃木】パイプのけむり(小山)

仕事帰りに立ち寄った栃木県小山市のバー、「パイプのけむり」さん。小山駅の西口を降りてすぐのところにあります。表通りの「祇園城通り」(祇園城は小山城の別名)でではなく、その左隣の小さな脇道「昭和横丁」から入ってすぐ右手のところにあります。路面店ではなく雑居ビルの2階に階段を上がっていきます。オーセンティック系のバーですが、お店は路面向きの窓が大きくとられているので真っ暗な空間というわけではなく、外の空気も感じられる割と開放的なバーです。店内はカウンター席が中心ですが、ひとつひとつの席に余裕があって、席そのものもゆったりと座れるので心地が良いです。1人でも2,3人で来ても楽しめるのではないでしょうか。お酒はモルトウイスキーが中心かなと思いました。スコッチの他にもジャパニーズで面白い銘柄とかもいくつか並んでいました。写真にも少し写っていますが、桜尾とかガイアフローとか。ガイアフローのブレンデッド「M」もあって、これは少し味見程度にいただきました。中身はガイアフローのモルト原酒もあるようですが、生産量がまだ限られるため、スコットランドからモルトとグレーンの原酒を取り寄せてブレンドしたようです。(→詳細記事)「M」というのは静岡のウイスキーと本場スコットランドのウイスキーがブレンドすることで結びついたという意味で、「MEET」の頭文字から取って来たとのこと。最近はジャパニーズの地場モルトウイスキーの生産が広範囲に行われているので、これからも様々な「出会い」があると良いなと思ったりもします。残念ながら新興の蒸留所はまだまだ準備できるものが限られている状態なので、これから5年先、10年先、あるいはもっとかもしれませんが、日本国内でもいろんな融合が出てきたら面白いですよね。因みに小山駅は以前に東口のbar as everさんを訪問したことがあり、今回は逆サイドの西口を探検してみた次第です。 タリスカーのソーダ割り さて、椅子に座って頂いたのはタリスカーのソーダ割りを久しぶりに。何を注文して良いか分からないときに、以前訪れた丸亀のサイレンスバーを思い出しながらオーダーします。タリスカーのソーダ割りを頼むと、いまでもあの時の思い出がよみがえってくるんですよね。(→その時の思い出話はこちらに。)そんなこともあって、モルトウイスキーを頼むときは基本はストレートなのですが、タリスカー(タリスカー10年)だけは今でもソーダ割りで頼むのが自分の定番です。マスターの話では、小山も昔は繁華街が非常に栄えていたときがあったそうですが、古い長屋の建物が密集しているような感じで、結局は今のように駅前ビルが建て駆られたりなど再開発によりサッパリしてしまったようです。駅ビルには蔦屋とかドンキがありましたが確かに駅ビルの中でショッピングは事足りてしまいそうです。ただ、飲み屋街が無くなってしまったのは非常に残念な話です。それまで通っていた人はどうしてしまったでしょうかね?他の街に流れたのか?マスターに突っ込んで聞いてみましたが、マスターも良く分からないといった感じでした。それはそうでようねm(__)m。時代的に外で飲み歩きする人が年々減っているのもあると思います。先日、野球選手のデーブ大久保さんのチャンネルを見ていた時に、やはり似たような話がでていました。昔の野球選手はとにかく試合後に飲み歩きするのが常であったが、今の若い選手はそうじゃない、的な。自分の仕事の周りでもそうです。昔は本当にお客さんと飲むのが当たり前だったですけど、今は時代が時代というのもありますが、そもそも若い人がそういった「旧習」に興味がない。ましてや無理やり連れて以降なら「パワハラ」とかになってしまいさえする時代です。でも、不思議なんですよ。それでも街中の繁華街とかに出ると、若い人がワイワイやっているのって結構見かけるんですよね。これはどういったことなんでしょうか?小規模にはなったけど、楽しむ人は楽しんでいるということなのか、ただノンアルやソフトでも楽しんでいるのか、それともまだ飲み歩きをやってる業界が生き残っているのか。そんなことをボーっと考えながら、ゆっくりとくつろがせてもらいました。他にもいくつかお酒をいただいたのですが、写真を撮るのを忘れていました。確か以前に松本の摩幌美さんで頂いたグレンゴインの21年とかが置いてあって、そちらを堪能させてもらいました。グレンゴインのシェリーはすごいですね。圧倒されます。先日whiskycastで、グレンゴイン推しの話があって、最近はまってます。12年も飲みたかったのですが、そちらは無かったので、とりあえず21年をいただいてお店を後にしました。
ONODA-BAR

ONODA-BAR

【岡山】オノダバー(倉敷) 盛り上がりをみせるスコットランドの蒸留所の中でも、時代の波の中で廃業してしまった蒸留所も数多くあり、特に1980年代前半に廃業した蒸留所の中には幻のウイスキーと呼ばれ未だに人気の高いものがあります。蒸留所の閉鎖とは面白くて、蒸留所が操業を止めても樽に眠るウイスキーがなくなるわけではないのでテクニカルには熟成という意味でのウイスキーの生産はまだ続いているということになります。そのストックとなったウイスキーが蒸留所の廃業後も世間に少しづつ流通することで、閉鎖したはずの蒸留所のボトルを今日でも見かけることができます。もちろん、その希少性から相当な高額な値段で売買されるため入手するのは極めて難しく、モルトバーでもオーナーが昔からのウイスキー愛好家でオールドボトルを集めていらっしゃるようなところではもしかしたらお目にかかる機会はあるかもしれませんが、そのボトルが一般向けに飲めるものであるかというとこれは分かりません。こうした事情などがあるので、自分はあまり希少性の高いオールドボトルなどには普段はあまり興味を示さないようにしているのですが、今回たまたまフラりと立ち寄ったところその幻のウイスキーと対面することができたのみならず、ハーフショットで試すことができたのでその思い出を書いておこうかと思います。 お店のバーカウンター。上品な大人の空間。 帰りの電車の時間を考えながら夜の浅い時間に1軒だけ少し立ち寄れるところはは無いかと探していたところ、幸運なことに倉敷駅から少し歩いた商店街の外れに今回のバーがありました。パッと見どこにバーがあるのか看板が見えずに分からなかったのですが、googlemapで示された建屋の横に外階段があり、そこを二階に上っていくとバーがありました。一階は別の飲食さんが入居されていて、その二階がこちらのオノダバーさんになります。建物は安藤建築のようなコンクリート打ちっ放しの豪快な建築。天井もかなり高く、隙間からは自然の光が漏れてくるような感じで、夕方のまだ明るい時間ではありましたがミュージックバーのようなシックな雰囲気です。倉敷は有名な美観地区という観光名所などがあり、昔ながらの風情ある街の景観が残ります。そうかと思いきや昭和感満載の商店街の中にもオシャレなカフェなども点在していたりして、レトロ感が良い具合に残っているといった印象です。オノダバーさんのある一角は、どちらかというと住宅街の一角という感じでしたが、喧騒から離れた落ち着いた雰囲気のところで隠れ家的なモルトバーを見つけるというのも街歩きの醍醐味ではあります。 ポートエレン蒸留所のシングルカスクをバカラのアンティークグラスで! さて、今回発見したのはこちらの「ポートエレン」。ボトラーズのゴードンマクファイル社。1983年に蒸留所が閉鎖した幻の蒸留所の一つです。ボトルには蒸留年が1979と表記されていますので、蒸留所が閉鎖される少し前にボトリングされたものだろうと思われます。ポートエレンはアイラ島にかつて存在した蒸留所でした。ブレンド向けに使用されるピートウイスキーの供給過多とシングルモルトとしてのニーズの低迷などにより閉鎖を余儀なくされました。この当時は特にイギリス経済が全体的に不況であったことから他にも例えばハイランドのブローラ蒸留所なども同じ年に閉鎖をしています。(参照記事)ポートエレンは蒸留所が解体された後もアイラの蒸留所向けにヘビーピートのモルトを提供するなど精麦業者としての操業は続けています。しかし蒸留所としての操業は1983年までなので、ゴードンマクファイル社が閉鎖前に買い取った樽を、その後(1999年)に瓶詰してリリースされたものと思われます。それから更に20年の時を経てこの貴重なウイスキーと巡り会えたというワケです。ここまでレアなウイスキーというのは自分もそんなに飲む機会も無いので、比べようも無いのですが、一口口に含んで試してみましたが、とにかくクリアでまろやかなボディ、おそらくバーボン樽での熟成かと思うのですが角が取れていてものすごく美味しかったです。またオールドボトルで時々あるような変な後味のようなものも全くなく、保存状態の良さにも頭が下がります。オーナーによると建物の構造上どうしても高温多湿になるので、保管には結構気を使われているそうです。 さて、口直しというと語弊あるのですが、トマーティンの旧ボトル?があったのでこちらも少し味見にいただきました。先ほど述べたようにイギリスは1970年代はいわゆる「イギリス病」ともいわれる産業政策の失敗と経済的な不況に苦しんでおり、その影響でスコッチの蒸留所も過剰生産を是正する合理化政策で閉鎖させる蒸留所が出てきました。(因みに「鉄の女」として知られる保守党のサッチャー政権が誕生したのが1979年。これにより国有企業の合理化政策などが進んでいきます)こうした時代の中で、日本企業による救済により閉鎖を免れた蒸留所がこのトマーティン蒸留所であったわけです。1986年のことでした。元々京都に拠点のある宝酒造はトマーティン蒸留所からウイスキーを購入していたのですが、その縁もあり当時の大倉商事と組んでスコットランドのトマーティン蒸留所を日本企業として初めて買収しました。写真のボトルは2006年リリースの16年モノ。1stフィルと2ndフィルのヨーロピアンオークのホッグスヘッドで熟成し、最後の8か月をオロロソシェリー樽でマリッジしたようです。ほんのり甘味がありますが、味わいはきれいなキレのある原酒のトマーティンらしさがはっきりと感じられます。こちらのボトルも相当古いとは思いますが、年月を感じさせない爽やかな味わいでした。貴重なウイスキーのボトルの数々を眺めながらマスターにその秘訣を伺いました。その理由は、このバーを訪れる方の一人でも多くに楽しんでもらえるように、一度にたくさん出したりしないようにして来たのだとか。念願のボトルに出会えたのなら、一期一会と思ってしっかりとその味わいを堪能する。そして、残りは次来られる方のために残す。こうしたことの積み重ねで、幻(まぼろし)とまで言われれるウイスキーのボトルが今日まで残っているのだとか。素晴らしいポリシーだなと思いました。昨今は注目のあるボトルがリリースされると、まるで投機の対象であるかのように取り扱われ巷になかなか出てこないものもあります。そのような高い評価を得るということはある意味「成功の証」なのかもしれませんが、ウイスキーの味が楽しまれることなくただ棚の奥に仕舞われたままであることは生産者の方にとっては残念なことではないのかと思います。貴重なお酒とこれからも巡り会えるようにするためにも、時には造り手の苦労に思いを馳せながら、こうして出会えた運に感謝をしつつ常に「一期一会」の気持ちで楽しんでいければと思います。貴重なお酒をいただきありがとうございました。 >>お店のページはこちらに。