ビンバー蒸留所は2015年に開設した「イングランド」の蒸留所。シングルモルトをロンドンの街中で作ろうという試みは何と100年以上も歴史を遡らなくてはならない。それほどまでに、画期的な出来事だというえば、恐らくその偉業に挑んだのは生粋のロンドンっ子で、名門オックスブリッジを出て、スコットランドの伝統に学び、、的なストーリを想像してしまうかもしれないが、全くひとかけらも合っていません!

創業者はポーランド系移民のダリウス・プラゼウスキー氏

創業者は何とポーランド系の移民、ダリウス・プラゼウスキー氏。建築家として2003年にポーランドからイギリスに移住。その後、デザイナーであるパートナーと共に建設会社を運営。その後、自らの夢であった酒造りにチャレンジしたいと、自らの会社がファイナンスをして2015年にロンドン郊外の工業団地の一角に蒸留所を設立。ウイスキーの他にも、ジンやウォッカなどのホワイトスピリッツも生産をする。

生産においても、ロンドン的な要素とは無縁と言っても良いかもしれない。ビンバー蒸留所の酒造りの根幹を為すのは、蒸留所の名前にもある「ビンバー」という概念。これはポーランド語で「密造」を意味する。どういうことかと言うと、共産主義の時代、祖国ポーランドでダリウス氏の祖父と父が営んでいたことに因んでおり、ダリウス氏はその三代目を自称する。しかし、「密造」とは物騒なネーミングではあるが、要は工業生産に適する機械や設備を持たず、(密造なので、ある意味致し方なかったであろうが!)、全て自前の原料と手作業用によりお酒を造っていたアーティザン(職人)的な気質を蒸留所のDNAとして継承する、という意味なのだ。

しかし、よくよく考えてみればスコッチウイスキーも元をたどれば課税逃れのために、原酒を隠すためにシェリーの空き樽に入れたり、スペイサイドやハイランドの山奥、果ては辺境の島々に潜んで完全手造りの蒸留器で密造に精を出して今日の繁栄(?)の基礎を築いたワケで。。。

ポットスチルとコラムチル。

さて、蒸留所の内部に話を移そう。完全手造りをモットーとするビンバー蒸留所のこだわりは細部にわたり徹底している。まず原料の大麦はイングランド名部・ハンプシャー地方の契約農家から調達。更にウォーミンスター精麦工場において、今では稀な完全手作業によるフロアモルティングを実施。こうして準備されたモルトは、蒸留所に運び込まれると粗めにマッシングされアメリカンオーク製の自前の発酵槽に。この発酵槽もダリウス自身の設計により、自前の樽職にが現場で作ったものだと言うこだわりぶり。蒸留器はマイクロクラフトディスティラリー向けを主力とするポルトガルのホガ社製。ウイスキーやジンを作るポットスチルと、ウォッカ向けのコラムススチルが並ぶ。手造り精神は商品出荷の最後の段階まで完結しており、ボトルのラベリングまで全て蒸留所内部で作業が行われる。

蒸留所内部のバー。
ラベル貼りまで全てが手作業。

2016年から原酒の樽仕込みが始まり、2019年にようやくビンバー蒸留所の最初のシングルモルト「THE FIRST」が主にイギリス国内向けに1000本限定でリリースされた。PXシェリー熟成の初リリースは樽の調達にもビンバーらしいこだわりが。ウイスキーの熟成に使われるシェリー樽は、実際のシェリー造りに使われていた樽が用いられることは稀で、安価で効率的に仕上がるように蒸留所側のレシピをヒアリングしながらシェリー酒でシーズニング(風味付け)した樽が使われる。しかし、ビンバーはシェリー酒本来の樽にこだわり、数十年実際に使用されたシェリー樽を調達し、樽熟成に使用。工業生産的な効率を追い求めず、あくまで本物の味にこだわり続けて出来た「作品」なのだ。

ビンバー蒸留所のシングルモルト

さて、ここまで職人気質で徹底的な手作りにこだわるマイクロクラフトディスティラリーが生み出すスコッチウイスキー。海を渡って日本にトライ(トライ)するのはいつの日か、、なんて思ってましたが、ありました、池袋のジェイズバーさんに!早い!どうやってゲットしたんですかね。あまり深く聞くのも失礼かと思い、黙ってお酒だけ頂いてきました。バーカウンターに座ったら真ん前に鎮座してたのでびっくりです。しかもニューメークまで。あれ、ここってもしかしてチューブで繋がってましたっけ?!

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ジャパニーズエディションも到来か