
2012年に創業した家族経営の蒸留所。大麦から精麦、蒸留、熟成など全て現地で行う。ウイスキーの他にジンなども作っており、ウイスキー向けは蒸留所全体の生産規模の半分程度。水源は火山石で濾過された天然の水、熱源には地熱を利用し、モルトの乾燥工程ではピートの代わりに羊の糞を活用、器材は間に合わせのものを再利用するなどエコロジカルでホビー感覚満載の小規模蒸留所。
創業当初は糖分の少ないアイスランド産の大麦ではなく、スコットランドからウイスキーに適した大麦の輸入を勧められらたそうだが、彼らがこだわったのは地元の材料。遠回りではあるが、自家農園で生産するアイスランド産の大麦を使い、アイスランドのテロワールを追い求めてきた。羊の糞の利用も、奇抜さを求めたものではなく、この地では昔から活用されてきたものだった。冬の間、羊は畜舎で生活するが、長い冬の間に蓄積した排泄物などは、冬が終われば外で乾燥させて、それを「燃料」として使っていたのだそう。(現地で見かけるサーモンの燻製なども、同じ方式であるとのこと。)

蒸留所のロゴは、ヴェグヴィシル(Vegvísir)と呼ばれるヴァイキングのコンパスに由来する。その周りに描かれている3つのカラスは、9世紀頃にアイスランドを目指して航海したフローキ・ビリガルズソンが島を見つけるのに航海を共にした話に因む。刻印されたルーン文字(古くにゲルマン人が使用した文字)は、「故郷から道は、故郷への道」(”the way from home is the way to home”)という意味で、この蒸留所のアイデンティティと、これから進むべき道を示唆しているように思える。そもそもアイスランドには「蒸留所」(distillery)を意味する言葉が無かった。アイムヴァークEimverkとは、蒸留を意味するEimという単語と、仕事を意味するVerkを繋げて作られた言葉である。つまり、この蒸留所こそが、アイスランドにおける蒸留酒の大きな可能性に向けて航海を始めた「船」と家うこともできるだろう。シングルモルトのウイスキーレンジは2017年から順次リリースされており、そのブランド名は「Flóki(フローキ)」だ。