スコッチウイスキーの業界を代表する二人の夢の対談。リチャード・パターソン氏はホワイト&マッカイ社並びに傘下のダルモア蒸留所でマスターディスティラーとして50年以上のキャリアをもつ大御所。更にビル・ラムズデン博士はグレンモーレンジで25年のキャリア。両氏はスコッチの味の決め手となる樽熟成においてパイオニアでありエキスパートとして知られる。お互いを尊敬しあう姿やスコッチ業界、更にはスコットランド愛が感じられるウイスキーキャストを通じた二人の貴重な対談。ラジオ対談のようなもので(↓youtube映像参照)司会はマーク・ギレスピー氏。ウィスキーキャストの創設者、本職はオンラインジャーナリズム。進行中にチャットから上がってくる視聴者からの質問に答えていく「双方向」型のライブインタビューが特徴。2時間近くの収録となっているが、いくつか個人的に興味深いと思ったところを取り上げたい。
Q:「スコッチを飲むときは必ずネクタイをするものなの?」
Paterson:「確かに、ウイスキーを飲むときに常にネクタイを締めている必要があるかと言われればそれは分かりません。恐らく少し緩めた方がウイスキーのティスティングには良いでしょう。ただ、私は50年以上こういうスタイルでやってます。それはお客様へのリスペクトという気持ちがあるからです。出張で東アジアに行くとき、特に日本ではきちんとした身だしなみをするということが相手に敬意を表する意味で重要です。ですので、私が大切にする自身のブランドを紹介するときは、しっかりとした格好をしていたいのです。色々と思う方もおられるでしょうが、これがずっと続けてきた私のスタイルなのです。」
Q:「大麦やテロワールが最近言われてますが、これって重要ですか?」
Lumsden:「簡潔に申し上げれば、そうだと思います。スコッチウイスキーというのは、そもそもはスコットランドで獲れた穀物を素材としているのですから、最終製品であるウイスキーに影響を与えるというのは当然でしょうね。しかし、同時に付け加えておきたいのは、蒸留、そして樽熟成、特にシェリーなどのようなリッチなフレーバーの樽で熟成をした場合、その熟成期間が長くなるほどに「穀物」の影響は弱まっていくという事です。グレンモーレンジのエクスペリメントシリーズ(プライベートエディション)で、(クラフトビールなどに使われる)マリス・オッター種という大麦を使いフロアモルトをした「トゥセイル」や、蒸留所周辺の̚カドボールの畑で採取した酵母を使った「アルタ」はテロワールについての私の試みでした。そして、グレンモーレンジのオリジナルと比べると、そのニュアンスの違いは確かに感じられるものであったので、テロワールというのは確かに存在するのだと思います。しかし、その違いと言うのは(ブドウが)ワイン( (に与える)ほどのインパクトではなく、ウイスキーにおいてはやはり蒸留や熟成と言う工程があるのでその影響は相対的には小さくならざる得ないことも指摘しておかねばなりません。」
Paterson:「そうですね。確かに穀物の影響というのはあるでしょう。我々も蒸留所の周りで大麦を育てています。しかし、それはあくまでウイスキーの味を決める上で数多くある要素のうちの一つであるという意味です。水や、蒸留器の形状、樽の素材、さらには貯蔵庫の場所や雰囲気などもウイスキーの味に影響を与えます。貯蔵庫で言えば、例えばどの位置に樽を置くかでも違ってくるのです。貯蔵庫の入り口付近か、奥か、棚の下か、上か、そうした違いでも条件が変わってきて味に影響を与えるのです。なので、確かにテロワールは一要素として考慮はしますが、それ以外にも多くの要素に配慮しなければならないということも申し上げておきたいのです。」

この質問に関連して、「ダルモア」をジュラ島に、「ジュラ」をダルモアの蒸留所の貯蔵庫に入れて熟成したらどうなるか?とマークが質問を掘り下げてきた。それに対してリチャードはすでにそれは実験済みで、「存在はするが、非常に微妙な違い、恐らく一般の人だと気づかないくらいだろう」と回答。ビルも「グレンモーレンジ」をアイラ島に、「アードベッグ」をグレンモーレンジで熟成した時の差について「わずか」であると答えた。その上で、彼らが指摘したのはこうしたことを「リスク・マネジメント」の観点から常に行っているのだと説明。万一、片方の貯蔵庫に(火災などの)事故が発生しても製品の供給が途絶えてしまう事の無いように、リスク分散をしているのだという。また、シングルカスクや限定販売の商品でなければ、数百の樽をヴァッティングするので一つ一つの樽の違いは平滑化されるのだと付け加えた。

Q:「最近の新興蒸留所についてどう思いますか?」
(→どこかでそういう問答があったかと思うのですが、見失ってしまいました。見つかったら掲示します。)
ギレスピー氏と「ハマーヘッド」
チェコのシングルモルト

オンラインで各氏が自分の手元にあるシングルモルトを紹介した際に、「中立」を宣言したギレスピーが紹介したのがチェコのシングルモルト「ハマーヘッド30年」。冷戦末期の1984年、チェコでスコッチウイスキーに憧れた人たちが見よう見まねでスコッチウイスキー造りを始めた。ところが、冷戦終結とともにそれらは貯蔵庫に忘れさられる。2009年、ウォッカなどを製造するストック・スピリッツという会社が閉鎖されていた蒸留所を買収。貯蔵庫の中には「宝の山」が眠っていた。コレは冷戦終結30周年を記念し2019年にリリースされたもののようです。その味や如何に??ネットで調べたら、在庫はあるようですが6万円くらいするみたいです!

WhiskyCaskはアメリカ発のウイスキー愛好家向けポッドキャスト。今から15年以上前の2005年から配信を開始しており、ウイスキーのポッドキャストの第一人者。その収録回数は1000回にも迫ろうとしており、スコッチウイスキーのみならずバーボンやアイリッシュの他、世界中のウイスキーがテーマとして取り上げられている。最近のエピソード(No.859)ではジャパニーズ・ウイスキーも特集された。