【岡山】Malt Bar Nishimoto(岡山)

【岡山】Malt Bar Nishimoto(岡山)

スコッチウイスキー好きの皆様には朗報です。岡山にお越しの際は、先ずはこちらのお店Malt Bar NIshimoto(モルトバー・ニシモト)さんにお越しください。ど真ん中ストライクのお店となります。 今回訪問したのは岡山駅の繁華街の少し閑静な所にあるMalt Bar Nishimotoさん。訪問する前にはいつものようにgoogle mapで下調べをしてみたのですが、岡山ということは意外にも(といっては失礼なのですが!)たくさんのウイスキーバーがあるようで、正直かなり迷いました。久々の出張で夜も遅くにつく為落ち着いたところでゆっくり楽しめればという風に思っていたので、写真などのレビューを見ながらオーセンチックでクラシカルな雰囲気のこちらのお店に決めました。ビルの4階で、着いたのは夜も10時くらいだったかと思います。同じ階の並びとかにもバーとか入店されているようでしたが、時節柄か月曜日だったからか、想像したより静かな感じでした。毎度同じことを語っているのですが、地方にくるとウイスキーがより楽しめます。やはり気持ちに余裕が持てるからだと思います。普段の色々な世話事などから解放されて、何と申しましょうか、宙ぶらりんになった感覚になれるので、コーヒー一杯飲むにもいつもより美味しく感じたりとか。些細な事柄ですが、どれだけ良くできたウイスキーでも、その味わいを感じるのはヒトなわけですから、これはピッチャーとキャッチャーと言いますか、投げ手がいくら良い球を投げても受け手がソワソワしてしっかりと捕球できなければ意味が無いわけで、気持ちの有り様というのはとても大切だと思っています。 とりあえずソーダ割から。お通しの器とか含めてオシャレな感じがステキです。 さて、早々に長々と脱線しましたが、モルトバー・ニシモトさんに戻ります。店は入ってカウンター席が逆L字にあり、恐らく2組か3組入ればかなり一杯かなという感じのコンパクトな店内。カテゴリー的にはシガーも置いてあってオーセンチックバーになるのかと思いますが、マスターの気さくな人柄からかそこまで肩ひじ張らないゆったりとした雰囲気。自分が訪問したときは丁度先客の方が出て行かれた後だったようで、ほぼ貸し切りのような感じでゆっくりと寛ぐことができました。棚を見て驚いたのですが、ボトラーズがズラリ。地方のバーだとやはりウイスキー好きだけに的を絞ると一般の方が楽しめないということで、他のリキュールやウイスキーでもオフィシャルモノを中心に並べるところが多いのかとは思います。(好きな方が来店されれば、それに応じて棚の済とか奥の方から引っ張ってくる感じ)ところが、ニシモトさんの場合は、完全に直球ど真ん中ということで、こういった演出をするお店は久々です。マスターから一杯目を聞かれたときも、正直唖然として声が出ず、とりあえず「ソーダ割りをお願いします。」としか反応できませんでした。準備されている間に、棚をよくよく観察。特にカウンターの真ん中に置かれているボトルが気になりました。 "The Blue Sky Label" by ウイスキー・ラバーズさん 「The Blue Sky Label」という風に書かれているのですが、全く聞いたことがありません。それが5本も並んでいるので、これは何だろうという事でお伺いすると、地元のウイスキー専門酒屋さんである「ウイスキー・ラバーズ」さんがプロデュースしたボトラーズ・ブランドのようです。モットーは「晴れの国、岡山からウイスキーを発信」。中身はそれぞれ違っていて、記憶の限りですが右からエルギン、マノックモア、ダルモア、右の二つは何だったか。よく見ると左から二つ目のボトルには瀬戸大橋が写っています。この中でマノックモアを頂いたのですが、最高でした。マノックモアというのは恐らくあまりオフィシャルでのリリースは少ないかと思うので、自分も特にこれといった印象が無かったのですが、洋ナシ感のようなフルーティさに溢れる味わいで、20年以上の超熟品ではあったのですが全く癖のない滑らかな味わいでした。酒屋さんやモルトバーのプライベートカスクとかは時々聞きますが、オリジナルのブランドを作って「地域おこし」に貢献するというのは粋な企画だと思いました。丁度タイミングが悪くお休みと重なってしまったためウイスキー・ラバーズさんには訪問はできませんでしたが、次回のお楽しみにしておこうと思います。ところで、少し話はそれますが、岡山のウイスキーのご当地ブランドといえば、何と言っても宮下酒造さんが作られているシングルモルト「岡山」が有名かと思います。クラフトビールの「独歩」やジンの生産でも知られており、市内近郊に蒸留所があります。市販されていないシェリー感満載の貴重なボトルがありまして、こちらも少し味見をさせて頂きました。 キルホーマン、マキヤベイとクリスマス限定品のカスクストレングス さて、中四国方面に来ると自分は必ずコレを飲みたくなります。キルホーマンです。自分は仕事の縁もあってこの地域にたびたび来るのですが、ホントに凄いバーがいくつかあります。こちらのブログでも記事を書いたのですが、以前高松のバーを訪問した時にキルホーマンのボトルがずらりと並べてあって、飲んだおいしさが忘れられず、なぜかこちらに来ると無性に飲みたくなってしまいます。(こちら方面にキルホーマンの貴重なボトルが置いてあるのは高松にあるシャムロックさんの影響が大きいのかなと。こうした地方の独自色というのも面白いです。残念ながらシャムロックさんにはまだ訪問できていなのですが。。)キルホーマンが位置するのはスコッチの聖地アイラ島。創業は2005年で、同島では124年ぶりにできた新しい蒸留所です。特徴的なピートの香りでファンも多いアイラ・ウイスキーですが、ビジネス的な観点からみるとほとんどの蒸留所は巨大資本の傘下で運営されているのが実態。その中でキルホーマンは独立資本による経営をしている真の地元企業になります。またピートや磯の香りがフォーカスされるアイラ島にありながら、キルホーマンは大麦の自家栽培にこだわるなど別な角度からアイラのテロワールを表現しようとしています。ピート系のウイスキーではあるのですが、バーボン熟成のインパクトが大きいのか、そこまでアイラ・ピートは感じません。どちらかというと原酒のモルト感のようなものを強く感じてしまいます。カスクストレングスの方は60度くらいの度数がありましたが、味の系統はピッタリくる感じで、より濃厚なマキヤベイといったところ。(そのままですみません汗) アードナムルッカンのシングルモルト 更なる発見はこのホームページでも記事を書いたアードナムルッカンのシングルモルト。自分は宅飲みとかボトル集めとかはせずに、(そんなお金も置き場or隠し場所もないですし)、もっぱらこうしたバーでしか飲まないのですが、そうするとなかなかこうした貴重なボトルに出会える機会は少ないのが実態。書いては見たけど、飲んだことはありません、というのがほとんどだったりします。訪問したバーのマスターのご興味や偶然、タイミングなどが重なって自分が飲みたかったボトルに出会えると言うのは非常にありがたく、嬉しいものです。アードナムルッカンの母体であるアデルフィ社はボトラーズが発祥で、クオリティ重視な印象。一番左が2020年9月リリースで、真ん中が2021年1月、一番右が最新のものらしくどっぷりシェリー熟成のものということです。今回は真ん中のシングルモルトを頂きました。思ったよりあっさりしているというか、もう少しパンチのある味を想像していたのですが、ボディも軽くて滑らか、飲みやすいです。ピートとノンピートのウイスキーをヴァッティングしているようですが、ピート感はほとんど感じませんでした。ハイランド系のピートなんでしょうか。余談ですが、アドナムルッカン蒸留所の設立に当たっては、「先輩」に当たるキルホーマン蒸留所のアンソニー・ウィルス氏らからもアドバイスを受けたそうで、コラボ商品の開発などで協力関係にあるそうです。(ウイスキーマガジン記事より)こうした助け合いの精神というのは、スコッチ業界の良き習慣かなと思います。こちらのバーでも、ウイスキーラバーズさんのような酒販業者や近隣地域のバーのマスターさんらとのお付き合いもあるようで、地域興しやスコッチウイスキーのプロモーションなどをお互いに支えないながら商売をされている姿がとても新鮮に映りました。本場のスコットランドでもウイスキー造りは過疎化の進む辺境の地の地域興しの側面があり、雇用機会を創出して若者の流出を止めたり、ツーリズム(観光業)を盛り上げたり、全体として地域の魅力を高めていこうという機運があるように思えます。中四国で言えば、松井酒造さんの倉吉だとか、桜尾さんの戸河内ウイスキーなどが広く知られていますが、海もあり山もある自然豊かなこの地域で更に独自のウイスキー文化のようなものが醸成されていけば面白いなと思いました。今度また来るのはいつになるか分かりませんが、次回はもう少し余裕をもって来たいですね。ウイスキー・ラバーズさんにもぜひ立ち寄ってみたいと思いました。 岡山駅から歩いて10分から15分くらいと言うとこでしょうか。土地感が無いと少し分かりづらいですが、西川緑道を頼りに歩くと見つけやすいと思いました。 宮下酒造さんのご当地のシングルモルトウイスキー「岡山」 ウイスキー専門販売店のウイスキー・ラバーズさん(訪問はかなわず)
北欧ウイスキーの新たな潮流

北欧ウイスキーの新たな潮流

北欧のウイスキーが熱い。今、デンマークやスウェーデン、ノルウェー、フィンランドなどのスカンジナビア諸国、そしてアイスランドを加えた北欧5か国でのシングルモルトウイスキーの新たな蒸留所から本格的なウイスキーがリリースされ始めている。彼らの造るウイスキーはシングルモルトの本家であるスコッチウイスキーの伝統にリスペクトを払いつつも、それを自分らなりに解釈して、自らの住む土地のテロワールであったり、既存の作り方に縛られないイノベーティブなアイデアを元に作り出すウイスキーに特徴がある。まずは地元での愛好家を中心に国内での販売が中心ではあったが、ここにきてヨーロッパやアメリカさらには日本を含むアジアに販路を拡大し、ウイスキー業界に新たな風を起こそうとしている。 スコッチウイスキーの蒸留所造りにとりかかる彼らのアプローチは非常に興味深い。このホームページの中でも取り上げている二つの蒸留所を例にとりあげて紹介したい。まずはデンマークのスタウニング蒸留所。創業者は「ウイスキー業界とは縁もゆかりもなかった9人の愛好家たち」。また、スウェーデンのマックミラ蒸留所の場合は、「大学の同窓生」、こちらもウイスキー好きのグループの集まりというだけで、業界経験者と言う訳ではなかった。スコッチの本場でもウイスキー好きが高じて蒸留所造りを始めたというポート・オブ・リース蒸留所のような事例もあるが、まったくのド素人がウイスキーの蒸留所を一から始めて運営することが難しいのは想像に難くない。まずは既存のスコッチだけでも何百と言う蒸留所が存在するのに加えて、新興勢にとっての試練は「資金」。蒸留所を作るためのお金だけでなく、スコッチであれば最低3年は熟成期間が必要となり、生産を開始してもすぐには商品化できない(しかも、熟成を経て生まれる味がどのようなものになるかは神のみぞ知る!である)。余市や宮城狭で知られるニッカウヰスキーも名前の由来は「大日本果汁株式会社」というように設立当初はリンゴジュースを作っていた。現在でも新興蒸留所の多くはジンなどのスピリッツから販売を始めて少しでもキャッシュを作ろうという試みも見られる。資金面の問題をクリアしても、実際に作ったウイスキーが商売になるのかは未知の世界。長年の伝統と豊富な経験、更には大型資本による規模の拡大により益々競争が激しいウイスキー業界で新興勢が生き残っていくのは至難の業。新たなウイスキー造りを開始するに当たっては、ある程度の「経験」や「ノウハウ」を会得したベテランなどが創業チームに加わることも多い。その中で、スタウニング蒸留所やマックミラ蒸留所の創業メンバーに共通した勝算は北欧の「自然」であり固有の「テロワール」であった。 "その時に自然と、「なぜスウェーデンにはウイスキーを造る蒸留所が無いのか?」という疑問が起こった。確かに、その通りであった。自然豊かなスウェーデンには良質の水源もあるし、大麦もある、樽づくりに欠かせないオークの木もあるのだ。" ウイスキー造りに必要な材料は三つだけ。穀物(大麦)、水、酵母。穀物に関しては本場のスコットランドでも実はフランスなどの穀倉地から輸入することも多く、酵母に関してもウイスキー熟成に最適化したウイスキー酵母が用いられることが一般的で天然酵母などが用いられることもあるが生産効率などを考えると大量生産には向かないため、一部のクラフトウイスキーや少量生産のバッヂ向けを除いては主流ではない。こうして考えると、残るは「水」ということであるが、自然豊かな北欧の地において良質の水が得られることは疑いようのないことである。すなわち、ウイスキー生産に必要な要素は既に全て揃っているワケで、「なぜ北欧の地にウイスキーを造る蒸留所が無いのか?」という疑問に至るのは当然であった。彼らのその問いに答えることを目標として、まずはスコッチウイスキーの作り方を現地見学やテキストなどから学び、その上で「北欧らしさ」を加えて新たな付加価値を付けた商品提案をしている。 「北欧らしさ」というのは単に大麦などの穀物を現地調達することにとどまらない。その生産工程においても北欧らしいイノベーティブなアイディアに満ちている。スコッチの伝統とローカルな要素をブレンドした取り組みとしては、特に原料のモルティング・プロセスが面白い。発芽した麦芽を乾燥させるときに加熱をするのだが、アイラなどのスコッチでは、ピート(泥炭)が使われており特徴的な香りで知られている。この時に、ローカルなピートを使うだけでなく、例えばアイスランドのアイムヴァーク蒸留所では昔から燃料として使われている「羊の糞」を使用してあり、スウェーデンのマックミラ蒸留所では当地のジュニパーベリーを合わせて焚いたりして新たなフレーバーを探求している。原料についても、スコットランドやアイルランドなどの欧州は製法に違いがあるものの「モルトウイスキー」が主流であるが、ライ麦を原料とする「ライウイスキー」やモルトとライのブレンドウイスキーを作ったり、熟成樽も多様な材料の樽や産地のものを取り入れたりと、既存の製法の枠に囚われない自由なアプローチが特徴である。ライ麦ウイスキーでいえば、フィンランドのキュロ蒸留所が作る100%フィンランドライ麦を使用したライウイスキーが最近注目をされている。IWSC2020に金賞を受賞し、日本にも入荷されて始めている。このホームページではまだ取り上げてはいないが、ゆくゆくは調べてみたい。自由なアプローチという意味では、マックミラが最も面白い。ブレンドウイスキーのレシピ選定にAIを活用した入り、日本のお茶を使って樽をシーズニングしてみたりと、既存のウイスキー造りでは考えられなかったようなチャレンジングな商品が定期的にリリースされている。ウイスキー造りの歴史が始まったばかりの北欧では、伝統的なウイスキー造りの枠に固執することなく、新しいウイスキーの楽しみ方を積極的に開拓していこうとする姿がみられる。 リカーズ長谷川本店様にて ストックホルム蒸留所ブランネリ(ドライジン) 北欧は豊かな自然だけでなく、シンプルでイノベーティブなクリエイティビティの高さにおいて産業面では既にそのブランド価値を確立している。長い冬を自宅で過ごすことが多いためか、特に家具やインテリアなど良く知られているように思う。アラビアやイッタラ、マリメッコなど(全部フィンランドですが)は好きな方も多いのではないか。北欧諸国には自分も何度か足を運んだことがある。ヘルシンキなどの街を歩いていると、外見は西欧などの華やかさはなく地味なものが多いが、建物の中に入るとカラフルなインテリアなどになっていたりしてそのコントラストが非常に面白いと感じたい。そのデザインも、明るい色が多く使われていても「派手さ」というよりは、むしろ「温もり」のようなものが感じられた。残念ながら冬季には一度も訪問はしたことがないのだが、恐らくそうした時期に訪れればより一層その温もりが増すのかなと感じたものだ。こうした北欧らしさ(もちろん国によって違いはあるだろうけど)が根付く場所に生まれるウイスキーも、派手さは無くとも確かな個性のあるブランドを確立していくのではないかと思っている。また、北欧らしいイノベーティブな発想を活かして、クリエイティブな商品が今後も出てくることは間違いない。それは造り方だけではなく、商品の見せ方であったり、どのように楽しむか、ということにおいても新たな視点を提供しウイスキー全体の知名度と親近性を更に高めていくのではないか、そしてゆくゆくは「北欧ウイスキー」という地場を作り出しているのではないだろうか。スコッチウイスキーの楽しみ方をマスターしていく中で、機会があればぜひ北欧ウイスキーもご賞味いただきたい。 画像クリックでトップページに戻ります。
ビースポークン・スピリッツ

ビースポークン・スピリッツ

https://jp.techcrunch.com/2020/10/09/ 如何にもアメリカ的なアプローチという感じではある。何の話かというとデータサイエンスを駆使してウイスキーを造ろうという、いわばウイスキー錬金術のような話。出所はベンチャー企業の聖地シリコンバレー。3億円の資金を集めて創業。目指すものは「サービスとしての熟成処理」(Maturation-As-a Service)、それがこの「ビースポークン・スピリッツ(Bespoken Spirits)」。(会社の名前であると同時にブランド名でもあるようだ) ところで、"Bespoken"とはbespeakの過去分詞形。意味は「予言する」。要するに予言されたお酒、という意味。これは何かと言うと、伝統的なウイスキーは長期間(スコッチの場合は最低でも3年)オーク樽の中で熟成をさせるわけだが、この期間に起こることはある意味「神頼み」、要は自然任せ。しかも「エンジェルシェア(天使の分け前)」分だけ、原酒は貯蔵期間中に水分とアルコール分が揮発し中身が減り続けていく。ただ、その間に荒々しい原酒の味がまろやかに仕上がったりしていく訳で、このプロセスはただの「時間の無駄」というよりは、ウイスキー好きなら誰しもが「崇高な待ち時間」と捉えるているだろう。結果的には望んだ味わいにならないことも勿論あるが、これも神の思し召しとして潔く受け止めるしかない。この労力こそが、ウイスキーの素晴らしい味わいの源泉となっていることを否定するものは、いない、はず、、、なのだが、である。 それを「無駄」と捉え、現代のテクノロジーとデータサイエンスを駆使して、「熟成」プロセスを解体し、再構築する動きこそが、このBespoken SpiritsのACTivationプロセスなのである。すなわち、ウイスキーのA(アロマ)、C(カラー)、T(テイスト)を制御して、自分たちが望む味を科学的に作り出す技術である。これにより、時には数十年にも及ぶ熟成プロセスも、数日単位に大幅短縮され、その間にかかりうる「エネルギー」や「労力」またエンジェルシェアによる原酒の「ロス」も大幅に削減が可能。こうしてエコロジカルで、且つ、エコノミカルなウイスキーが出来上がるというワケ。 すでにいくつかのラインアップがアメリカではリリースされている。ウイスキー評論家などの間では辛口コメントもあるものの、世界的に著名なウイスキーのコンペであるサンフランシスコ・ワールド・スピリッツ・コンペティション(SWSC)の直近2021年の大会において、ライ・ウイスキーのカテゴリーで金賞を獲得、その他のカテゴリーでもいくつかの賞を受賞するなど確実に実績を上げてきている。もちろん、ライ・ウイスキーやコーン・ウイスキー(バーボン)などのいわゆるグレーン・ウイスキーはモルトに比べて長期熟成はしないと思うので、その辺りは差し引いて置かねばならないのかもしれない。長期の樽熟成といえばスコッチを代表とするシングルモルト。今後はこのジャンルでどれだけの成果を残せるかがカギにはなるのだろう。ただ、とりあえずは「科学的な精製」により、美味しいウイスキーが出来たという事実は評価されねばらない。いずれにせよ、今後の挑戦はこれからも様々な議論を投げかけていくような気がする。 このビースポークン・スピリッツの取り組みについて、個人的に注目したいのは「エコロジカル」な視点。つまり、作業ロスの少ないウイスキー造り、という視点である。この問題意識は恐らくスコッチをはじめとするウイスキー造りにはあまりなかった考え方であるように思う。最近でこそ新興の蒸留所を中心として、環境に配慮したウイスキー造りというものが様々なステージで実践されてきている。例えばオーク樽についていえば森林資源の保護であったり、大麦であればローカルで無農薬な栽培であったり、また蒸留所のエネルギーについてもバイオマス発電を使ったり、といった動きである。しかしながら、根本的にウイスキー造りというのは相当なエネルギーを実は消費しているのでないかというのも事実であると思う。樽の出所については、確かにそれは何度も使い回しはするけれども、森林資源を消費し、様々なフレーバーを作り出すために多種多様な樽を世界中から買い付けることもある(輸送コスト)。熟成のための保管ということでいえば、自然の為せる技とはいえエンジェルシェアによるロスもさることながら、長期保管をしなければならないという保管コストもかかる。こうしたコストというのは熟成によって得られる価値への対価として消費する側に転嫁されうのだが、その過程でコストを上回る付加価値が着くのであれば消費者は喜んでその対価を払うわけで、ウイスキー業界はこのようにして経済的には着地点を見出してきたともいえる。ただし、環境への負荷や原料ロスの発生という現象そのものは現状の製法では避けて通れない。こうした観点において、樽での熟成をせずにステンレスタンクの中に原酒を入れて、必要な樽の成分片を投入し、あとは機械的な処理で条件設定をして促進試験のようにコマ送りで熟成を達成するというのは画期的なアイデアである。(なお、こうした加速度的な熟成により超早熟のウイスキーを造ろうとする蒸留所はビースポークンだけではないことを断っておく)新たなフレーバーを開発するのにも、多くの試行錯誤をせずに少量の資源(原酒)を以て、それを無駄なく完成品にまで仕立て上げることができる。これは、単なる伝統に対するチャレンジということではなく、さらにより多くのポジティブな可能性をもたらすものではないか。 更には次のような応用も考えられるという。今回のコロナ禍において、クラフトビールを作る醸造所で大量のビールが販売機会を失い、期限切れの売れ残り在庫を抱えてしまった。普通なら廃棄をせざる得ないところである。頭を抱えた醸造所の中には、売れ残りビールを蒸留してウイスキーにしようということも考えたが、こうした間に合わせの試みは多くのの場合うまくはいかない。そこにビースポークン・スピリッツのACTivationプロセスが登場するのだという。このプロセスを使うことにより、少量のバッヂで様々な試作も可能であるだろうし、最適解が分かれば後はそのレシピ通りに大量生産をするだけ。本来は廃棄されてであろう「期限切れの商品」が再度「ウイスキー」として復活する、資源のリサイクルならぬ「アップサイクル」(付加価値を付けたリサイクル)が可能になるという。 この他にも、バーやレストンランが個別にカスタマイズをしたウイスキーを欲しいと思った場合。恐らく通常なら高いお金を出してプライベートカスクのようなものを蒸留所に頼むなどしかないだろうが、ビースポークン・スピリッツであればイメージするウイスキー通りのものがACTivationプロセスにより出来上がる。しかもお手頃な価格で。顧客の好みをヒアリングして、レシピとマッチングすることで自由自在な対応が可能となる。つまり、有るものの中から受動的に選択するのではなく、より積極的に自らが望むフレーバーや味わいといったものを、顧客の側が主張するこができる、というもので、これまでのウイスキー業界の慣習とは全く違う世界感といって良いのかもしれない。 ビースポークン・スピリッツが最終的にどこを目指そうとしているのかは分からないが、伝統的なスコッチなどの蒸留所と対立するものではなく、ウイスキーをより多くの消費者に楽しんでもらうための新たな視点をもった協業者として、業界的な認知が広がっていってほしいと思う。スコッチのシングルモルトの世界というのは、日本酒やワイン、ビールなどの醸造酒の世界に比べれば、ごく少数のニッチな世界であることは否めない。巷ではせいぜいブレンドのハイボールが良いところではないか。他の記事でも紹介しているスウェーデン(マックミラ蒸留所)やオーストラリア(スターワード蒸留所)、デンマーク(スタウニング蒸留所)などの取り組みで共通するのは、ウイスキーを如何に消費者に近づけることができるか、というテーマがあった。この一つとして、ビースポークン・スピリッツがウイスキーのいわばエンタメ的要素として今後も注目されていくことに期待をしている。