こんにちは。ウイスキーマスターのナダゴローです。今回はウイスキーとサステナビリティについて、ポッドキャストの放送を聴きながら考えてみました。
ウイスキーキャストはスコッチやバーボンなど広く業界の話題を取り上げているポッドキャストです。以前に別の記事(→リチャード・パターソンとビル・ラムズデン)でも放送をネタに取り上げたことがあります。
蒸留所の関係者や専門家など業界の有名人も頻繁に登場していて、週に1回くらいのペースで配信がされています。司会はマーク・ギレスピーさんというアメリカ人の方です。この方も相当にウイスキーのことにお詳しいですが、業界で働かれていた訳ではなく一人の愛好家としてポッドキャストを立ち上げたようです。すでに1000回近い放送を重ねていますが、どの内容も本当に興味深いものです。お酒の話だけに限らず、今回取り上げられた環境やサステナビリティのことや、ジェンダー問題など、業界に関するあらゆる側面を取り上げています。
ウイスキーとサステナビリティについては、業界関係者や愛好家にとってはちょっと耳の痛いようなところもあるのかなと思いますが、ウイスキーを後世に伝えていくためには今取り上げる必要があるのではないか?ということで専門家の女性を二人招待しての対談でした。アメリカは選挙報道なんかを見ていると、大丈夫かな?と思うことも最近は少なくないのですけど、やはりこうした番組とかを聴いているとその懐の深さに関心します。さてさて、前置きが長くなりましたが内容のほうに移って参りたいと思います。
今回ゲストで登場したのは2名の専門家です。
一人は、スーザン・バートンさん。ウイスキー・アドボケート(Whisky Advocate)というウイスキー専門誌の編集長で、業界誌スピリットビジネス(Spirit Business)の元編集長であったアラン・ロッジ氏の名を冠したアラン・ロッジ・アワードという業界の若手ジャーナリスト向けの年間賞を2020年に獲得。
もう一方のシャナ・ファレルさんは、カルフォルニア大バークレー校(UCバークレー)のオーラルヒストリーセンター所属の方で、「A Good Drink」というアルコール飲料とサステナビリティを考察した書籍を執筆された方です。簡単にまとめると、業界誌の気鋭の若手編集長と大学の研究員を招いての対談といったところでしょうか。
ただ、実際に聴いていただければ分かるのですが、まったく気負った雰囲気はなくchat(チャット)的な和やかな感じの話でした。マークの人柄も多分にあると思います。本当に古き良きの感覚、先見性と余裕、ユーモアにあふれる対話となっていました。
(上の画像クリックすればwhiskycastの同放送回のページに飛びます)
さて、話の中身の方に入って行きます。対談なので、いろいろな話題が出てきましたが、このブログ記事の中でもいくつか紹介してきた話題やテーマもあったので、そちらも紹介しながらまとめていこうかと思います。
まずは、ウイスキーが資源やエネルギーを消費しているというところから確認をしていきましょう。
というのは、ウイスキーそのものは自然の材料を活かしたオーガニックな商品であるからです。ウイスキーの原料はスコッチとバーボンで少し違いはありますが、大麦やライ麦、小麦、とうもろこしなどの「穀物」を原料としています。「イースト」は自然酵母を使うクラフトディスティラリーもありますが、基本的にはパウダーの工業用イーストかと思います。そして、「水」、これは基本的に大量の水を使うことを想定して、水源に近いところに蒸留所を建設するケースが多いかと思います。またすべてではありませんが、例えばスコットランド北部アイラ島のウイスキーはモルトを作る工程で「ピート」(泥炭)を加えて焚くことで知られています。最後に「樽」。これは森林資源を使ったものです。このように、ウイスキーの生産工程そのものは自然のものをうまく有効活用してできているとも言えます。では、なぜウイスキーに「サステナビリティ」が問題になるのか?というのが今回のテーマでした。
いくつか事例をもとに指摘されたことを取り扱っていきたいと思います。まず、エネルギーの消費の面です。ご承知の通りですが、ウイスキーは蒸留酒です。蒸留というのはアルコールを沸騰させて、アルコールと水を分離することですが、この際に熱源が必要となります。
古くは泥炭や石炭などを燃やすことでポットスチルを直接加熱していたようですが、現在はボイラーで生成した蒸気を通じた間接加熱式が主流になっています。ボイラーを焚くにはガスや石油を使います。ここで環境への負荷が生じます。この過程を再生エネルギーなどを活用してゼロカーボンを目指そうという動きが行われています。スコットランドでは業界団体もこの問題の重要性を認識し、2040年までに排出量をネットゼロにする目標を掲げているほどです。他にもウイスキーは加熱した原酒を冷却する際に大量の水を消費します。発酵後に不要となった原料の穀物のカスも、お酒とは別に不要な副産物として発生します。オーガニックな商品ではありますが、生産工程では熱源を化石燃料に頼ったりしている側面があります。
ここに問題意識を感じ、環境に優しいサステナビリティな蒸留所も誕生してきていることが紹介されていました。本ブログでも記事を書きましたが、R&Bディスティラーズが運営するラッセイ蒸留所、西スコットランドのナクニアン蒸留所、さらにはレオポルド兄弟がアメリカのコロラド州デンバーで運営する蒸留所がすべての生産工程を通じて環境への負荷を最小限にしているとして名前が挙げられていました。(→LEOPOLD BROS.)
ナクニアン蒸留所については、ゼロパッケージの取り組みが読者投稿を頼りに紹介をされていました。ウイスキーはガラス瓶を使用しますが、これを保護するためにブリキ缶などで商品を再度保護したうえで、更に紙箱などに梱包して発送されるかと思います。この「過剰包装」に着目したのがナクニアンで、商品保護のパッケージの要否を注文の際に選べるというもの。また、ガラス瓶も普通は飲み終われば捨てられるのですが、ボトルを持ち込んでリフィルできるサービスも近隣住民向けに行っているようです。ガラス瓶は輸送の際の重量も重くなりますから、輸送時の環境負荷も大きくなります。こうした梱包・輸送ロスの見地に立つと、「地産地消」的なことが望ましいのか?という問いかけがありました。これについては例えばカルフォルニア州の場合、蒸留所が消費者に直接販売をすることは規制の関係でできないようで(代理店を介して販売をする必要がある)、こうした規制改革も同時に必要になるのではないかということも提起されていました。パッケージやガラス瓶などの問題はコレクターの好みもあるので、一筋縄ではいかないような気もしますが、環境のことを考えるとガラス瓶でないといけないのか?等、商品の個包装は本当に必要とか改めて考えることがありそうです。
最後にバーボンウイスキーという観点からも一番のテーマとして提起されていたのが「樽」の問題です。まずは、森林資源保護の観点からです。現在、アメリカのバーボン業界では樽不足が深刻化しているようです。資源不足からなのか、コロナに起因する労働不足なのか、おそらく複合的な要因だろうとのことですが大手バーボンメーカが樽を大量に買い占めて中小のクラフトディスティラリーが樽の買い付けに苦慮しているような状況のようです。
バーボンウイスキーの熟成にはオークの新樽を使うことが義務付けられているので、需要に見合った樽を確保しないといけないので、昨今のクラフトブーム需要に対して供給が細ると限りある資源の取り合いの構図になります。更に最近では森林火災や洪水など気候変動による自然災害も頻発しています。それでも森から木を伐採して樽を作り熟成させないと、バーボンウイスキーは完成しません。バーボン熟成に使う樽は新樽でないといけないのか?という意見もありました。リサイクル樽を許容しては?ということです。ただ、実はすでにその仕組みは別な形ですでに実現されています。バーボンの樽は使用した後に海を渡り、スコッチウイスキーなどの熟成樽として広く使われています。バーボンがリサイクル樽を許容したところで、どこまで効果が出るかも疑問です。恐らくは、スコッチなどに流れる樽が不足をして、どのみち樽の奪い合いになるような気がします。それではサプライサイドというか、森林側の供給面はどうかということですが、この点は今回の放送の中では深くは取り上げられませんでしたが、当ブログ記事でホワイトオークイニシアティブという森林資源保護の取り組みについて扱ったことがありますので興味があれば参考にしていただければと思います。樽材確保の問題はバーボンに限ったことではないので、今後も取り上げられることが多くなってくると思います。
さて、そろそろまとめにはいります。ウイスキーを将来的にもサステナブルなものにするために、何をすべきか?ということが少しづつテーマとして広がって来ています。今まではブランド価値を上げるにはどうするかとか、もっと美味しくするにはどういう樽で熟成すれば良いのか?とか、ウイスキー愛好家やファンの裾野を広げるためにどうすればよいのか?とか。こうしたブランドやマーケティング略的なことが新たな蒸留所の立ち上げの波とともに語られてくることが多かったのではなかったかと思います。その中で、これもとくに新しい蒸留所の誕生の中から出てくることが多い印象ではありますが、「サステナビリティ」を取り込んだ蒸留所や、配慮したウイスキー造りというものが同時に広がりをみせ、農家などの協力先をも巻き込みながら一つの動きを作り出している気がします。それはゼロカーボンの取り組みであったり、廃棄物を出さないロス・ゼロであったり、環境に配慮したサステナブルなモノづくりのあり方であったりと多岐にわたります。こうした取り組みを通じてこれまでのウイスキー造りも変革を迫られることも出てくる可能性もあるのかもしれません。しかし、持続的な生産活動を将来に向けて続けていくためには、自然でオーガニックな材料をフルに使うからこそ主体的に考えねばならないではないかとも思います。ウイスキーとサステナビリティの話題については、今後も継続的に追いかけていきたいと思いますので、引き続きよろしくお願いいたします。以上、ナダゴローでした。それでは、またの機会にお会いしましょう!